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沖縄で起こる暴力と若年妊娠の記録より|『裸足で逃げるー沖縄の夜の街の少女たちー』 上間陽子

皆さん、こんにちは!社会問題と向き合う人のクラウドファンディング GoodMorning(CAMPFIREのグループ会社)ファンドレイジングプランナーのてっちゃんです。現在、沖縄に生きるすべての子どもたちが誰一人として見過ごされず、包摂される社会を実現するために、仲間と一緒に沖縄での事業の立ち上げに向けて、準備を進めています。

本日は、『裸足で逃げるー沖縄の夜の街の少女たちー』をご紹介します。この本は琉球大学の教授、上間陽子さんが沖縄の風俗業界で働く女性を非常に丁寧にインタビューをした記録であり、僕が何度も読み直している、非常に大切な本です。

今回は、まだまだ勉強中のため未熟な文章かと思いますが、本書を読んだ感想を、書き記していきたいと思います。皆さんと一緒に、沖縄の子ども・若者たちを取り巻く社会問題について考える、きっかけとなれば幸いです。

1. データで見る沖縄県

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こちらは昨年の夏、沖縄の子ども・若者支援の現場を実際に訪問した際に撮影した写真です。沖縄県は気候も、そこで暮らす人々も本当に温かい地域です。まずは、本書の感想を共有する前提として、沖縄の子ども・若者たちを取り巻く環境について、実際のデータをご紹介します。

子どもの貧困率は29.9%であり、全国でワースト1位です(全国 13.9%)。また、それだけではなく、母子世帯割合は2.72%(全国 1.46%)、大学進学率は39.83%(全国 54.49%)、完全失業率は5.1%(全国 3.4%)と、いずれも47都道府県でワースト1位の数字です(参考:『沖縄子どもの貧困白書』より)。

本書は上記のように「子どもたちの3人に1人が貧困状態」であり、日本の最貧県と呼ばれている沖縄県の、風俗業界で働く少女たちの記録です。

2. 風俗業界で働く少女たち

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本書に登場する6人の少女たちは、いずれも様々な事情で、年若くして夜の街に押し出された10代後半から20代前半の女性です。両親の離婚により家庭の経済状況が一気に不安定になったり、10代のうちに妊娠・出産したりすることで、家庭の生活費や子どもの養育費を少女たちが稼がざるをえない状況に陥り、時給がコンビニの倍以上である風俗業界で働き始めます。

沖縄県の10代における妊娠・出産の割合は2.6%で、全国平均1.1%の倍以上と非常に高い数字です(参考:内閣府沖縄振興局より)。ただ、少女たちは親と離れて生活しながらも、世帯分離ができていないケースが多いため、経済的に困窮していても生活保護の対象にはならず、本書に登場した少女の中には生活保護の申請用紙すら、市役所の保護課の職員にもらえなかった少女もいます。

3. 暴力に晒され続ける少女たち

私たちは生まれたときから、身体を清潔にされ、撫でられ、いたわられることで成長する。だから身体は、その人の存在が祝福された記憶をとどめている。その身体が、押さえつけられ、殴られ、懇願しても泣き叫んでも止まぬ状況、それが暴力が行使されるときだ。そのため暴力を受けるということは、そん人が自分を大切に思う気持ちを徹底的に破壊してしまう。
(『裸足で逃げるー沖縄の夜の街の少女たちー』本文より)

そして本書に登場する少女たちの多くが、日常的に父親やパートナー、とりわけ家庭内にいる男性からの暴力に晒されていました。少女たちの中には、泣き叫ぶ中でパートナーに押さえつけられ、むき出しの顔を散々殴られ、鼻の骨が折れ、目が開かなくなり、口内が切れてしまう、全治一ヶ月の大怪我をした少女もいました。

本書で描写される暴力は、いずれも理不尽な理由による男性からの一方的な暴力によるものです。マスクをしても覆い隠せないような、原型をとどめない顔になり、仕事を休まざるを得なかったり、子どもの保育園の送り迎えに行けなかったりする少女もいました。

そのような暴力を受けた少女たちの多くは、様々な事情でその男性から逃げることができず、「今日は本当に殺されるかもしれない」と思いながら家に帰り、再び暴力に晒されます。例えば、パートナーだけではなく両親とも緊張状態にあるため、パートナーから逃れるための居場所がそもそもない少女。また、離婚をしたくてもパートナーと親権を争う際に、社会的地位や経済力の観点から、風俗業界で働いていることが不利に働いてしまうため、離婚を切り出すことすらできない少女など。

そのため、少女たちは日常的に酷い暴力に晒されながらも、そこから逃れることや、SOSを出すことすらできない、という現実に直面しています。

4. 突然「大人」になることを強いられる少女たち

ずっと頑張って暮らしていること、ほんとうはまだ子どもであること、だからもっとゆっくり大人になっていいはずだと、私は亜矢に言ってあげたかった。夜の街の吹きさらしの風の中で、こんなに早く大人にならなくていいと、私はいつまでもそう思っている。
(『裸足で逃げるー沖縄の夜の街の少女たちー』本文より)

本書に登場するのは、他の地域で学生生活を過ごす、ごく一般的な少女たちと変わらない、あどけなさや無邪気さの残る少女たちです。ただ、避妊具を使用しないパートナーとのセックスによる若年妊娠・出産で、突然「大人」になることを強いられます

妊娠した子どもを産むのか、産まないのか。産んだら誰が、どのように育てていくのか。養育費はどのように稼ぐのか。産まないのであれば、中絶手術をどの病院で受けるのか、その費用は誰が負担するのか、すべれ意思決定をしなければいけません。そして、そのときにパートナーも両親も頼ることができず、その意思決定を一人でしなければいけない少女もいます

一般論を押し付けたいわけではありませんが、わたしたちは自身の未来をじっくり考えたり、心から大切だと思える友人と交流したり、誰かに夢中で恋をしたりする中で、もがきながら、傷つきながら、少しずつ、本当に少しずつ「大人」になっていくはずです。

ただ、10代という若さで、且つ経済的にも困窮している環境下で妊娠・出産することで、その時間すら与えられずに、あまりに未熟な少女たちは、突然「大人」になることを強いられています。

5. さいごに

それは「かわいそう」でも、「たくましい」でもない。この本に登場する女性たちは、それぞれの人生の中の、わずかな選択肢の中から、必死で最善を選んでいる。それは私たち他人にとっては、不利な道を自分で選んでいるようにしか見えないかもしれない。この街の、この国の夜は、こんなに暗い。
(『裸足で逃げるー沖縄の夜の街の少女たちー』社会学者 岸政彦のコメントより)

本書に登場する少女たちは、本当に過酷な環境下で、わずかな選択肢の中から一縷の望みを託して、最善の選択肢を選び、力強く生きています。ただ、これを美談にしたいとは毛頭考えていません。少女たちが、どのような環境下でも、この国に包摂されるための仕組みや制度が必要です。

現に本書でも、経済的に困窮していても、世帯分離ができていないため生活保護を受けることができなかったり、パートナーからの暴力を受けて警察に駆け込んでも、入籍していないカップルの暴行は保護の対象にはならないと門前払いを食らったりしてる少女たちがいました。

また、沖縄県は冒頭でご説明した通り、47都道府県で突出して貧困率の高い地域ですが、その捕捉率(生活保護の対象となる人の中で、実際に生活保護を受給している人の割合)は10%に満たない、非常に低い数値になっています。

日本の中でも、最も劣悪な環境下で子ども・若者たちが暮らしているにも関わらず、その子ども・若者たちの多くが社会から包摂されておらず、取り残されている、これが沖縄県の実態であり、この国の問題です。

本日は、『裸足で逃げるー沖縄の夜の街の少女たちー』をご紹介しました。これからも沖縄の子ども・若者たちを取り巻く社会問題について、引き続き勉強しながら、情報発信をしていきます。沖縄に生きるすべての子どもたちが誰一人として見過ごされず、包摂される社会のために。

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