見出し画像

映像表現は「言語化」が重要

「優れた映像表現のコツは何ですか?」的なことをたまに聞かれますが、そういった時はこう答えています。
それは「言語化」ですよ。

こう言うと大概の人に「何言っているの?」といった顔をされます。
おそらくこういった質問をする人の真意は撮影の練習法だったり、編集のコツだったり、演出の極意を聞きたいんだと思います。
しかしですね映像表現という括りで言うのであれば「言語化」を極めることが上達の近道です。

なぜかと言うと映像表現で最も大切なのは「伝えたいことが伝わる」ことだからです。
これに基本例外はありません。
表現における「かっこよさ」「面白さ」「美しさ」というのは伝わるために必要な要素にすぎません。
作り手が「何を伝えたいのか」が言語化できていないのに、ビジュアルばかりこだわったところで結果が出るわけがないです。

「伝えたいこと」が商品の特徴や歴史などの言語化しやすい情報であれば良いのですが、写真や映像は雰囲気や印象、感情といった「イメージ」を伝えなければなりません。この「イメージ」というものは当然ながら形もなく言葉もないフワッとしたものです。
映像クリエイターはこのフワッとした「イメージ」を「ビジュアル」という目に見える形で表現しなければなりません。

初心者は頭に浮かんだ「イメージ」をそのまま映像化しようとしますが、脳内イメージは気分で変化する曖昧な存在なため、制作途中で変わりやすいものです。その結果伝えたいことがブレやすくなります。
言語化せずに「何となくの感覚」で伝わる映像が作れるのは一部の天才だけでしょう。

<脳内イメージ> → <ビジュアル>
伝えたいことがブレやすい


そこで重要なのが「言語化」、つまりイメージを言葉に変換する行為です。
脳内イメージは変化しますが、一度決めた言葉は変化しませんから伝えたいことがブレにくくなります。

<脳内イメージ> → <言語> → <ビジュアル>
伝えたいことが明確になりブレにくくなる


例えば、女性モデルのプロモーション動画を作るとします。
多くの映像クリエイターは頭の中でイメージを膨らませるでしょう。しかし

「海で女性を綺麗でエモい感じに撮ろう」

こんな曖昧なイメージで臨んでも、出来上がるのは結局「なんかいい感じの映像」です。しかし以下のように言語化したらどうでしょうか。

「季節外れの海で無邪気にはしゃぐ彼女。淡い記憶と共に切なさを感じる映像に仕上げる」

言葉だけなのに頭の中に映像が浮かび上がってきませんか?
この言語化した言葉を目標として制作していけば最後までイメージを貫き通すことができます。

多くのクリエイターはまず優れた作品のモノマネから始めると思います。
確かに言語化よりも既にビジュアル化された動画を参考にする方が作りたいイメージはより具体的になります。
しかし、動画のモノマネは短期間で成長できる反面、応用力や発想力の広がりが弱くなるデメリットが存在します。

<参考動画> → <ビジュアル>
目的が具体的すぎて創造の余地が無くなる

具体的に見えるものを参考にしてしまうと、そのイメージから抜け出すことはとても難しいです。
例えば参考動画のファーストカットがドローンを使っていたからといって同じように真似をしてみても、その現場がドローン映えするとは限りません。
参考動画と同じものを作ろうとしてしまうと、ドローンを使うという呪縛から抜け出すことができなくなってしまうため代わりの表現方法が思いつかずパニックになってしまいます。

しかし言葉であればこういった混乱は起きにくくなります。
ファーストカッは「ダイナミックな情景描写」とすれば、ドローンに頼らずとも他の表現方法が考えられます。
更に「ダイナミックな情景描写」を抽象化すれば「インパクトの強いビジュアル」です。
「インパクトの強いビジュアル」と「ファーストカットにふさわしい」この2点の交わる表現方法を考えれば更に表現方法を広げることができます。
これらは誰もが頭の中でなんとなくやっていることです。
しかし、言語化せずになんとなくで現場に挑むのと、事前に言語化して挑むのでは結果が確実に異なります

まとめると映像を作る際は以下3つの方法があるのですが、それぞれにメリット、デメリットがあります。

1・頭の中のイメージだけで制作する
メリット:スピーディーに実行できる・深く考えなくても良い
デメリット:最後まで統一されたイメージを保つのは難しく、天才以外は不向き
2・イメージを言語化して制作する
メリット:言葉は具体性があるため目標が明確になる・表現の幅が広い
デメリット:言語化する行為は脳に負担がかかる
3・参考動画と同じように制作する
メリット:目標が目に見えるので、短時間でクオリティを上げられる
デメリット:自由度が低いため条件が変わればクオリティを保てなくなる
      なぜその手法を使ったのかを考えなくなる

以上のように2の言語化はほどよく具体性があり、ほどよく曖昧なためクリエイティブな表現には必須のスキルと言えます。

1の頭の中のイメージだけで制作していいのは天才だけです。あなたが天才ではなくて、そこそこ才能があるレベルであれば言語化してから制作することをお勧めします。

また初心者であれば3の動画のモノマネから入った方が良いと思います。最初は作るたびに上達していくでしょう。しかしある程度作れるようになったら、誰かのモノマネは卒業して独自の言葉から表現していくことをお勧めします。

言語化のコツは「具体的で短くまとめる」です。
「愛が大切」「人生は旅」などといった抽象的ワードを作るのは簡単ですが、表現の自由度が高すぎて漠然としてしまいます。自由すぎると何を作っていいのかが分からなくなってしまうため、状況や感情が浮かび上がるような具体性が必要です。
しかし具体的にすると言葉が長くなりがちです。
長くなると覚えきれないため、これまた言語化の意味がありません。キャッチコピーのように具体的で短く、しかも本質を得た言葉を考えることはとても難しいことです。

抽象的な言葉は選択の数と自由度が多すぎて逆に難しい

具体的だが長い言葉は頭の中での整理が難しい

具体的でありながら短くまとめられたワードチョイスが重要


以前若手の映像クリエイターに言語化の重要性について話をしたことがありました。その人は芸大で映像を学んでいたので自分なりの理念があったのでしょう。「映像は言葉にできないことを表現できるから良いんじゃないですか」と答えました。

映像から伝わるイメージを言葉で表せないは真理だと思います。
しかし、それは視聴側の考え方です。私たちはプロとして形の無いイメージをビジュアル化しなければなりません。そのために言語化は最も有効な手段です。

言葉にするという行為はとても苦しくて頭が疲れます。正直私も言語化は好きではありません。しかし、映像クリエイターは言葉にできないでは許されないんです。

映像を作る前に自分は「何を伝えたいのか」「どんなイメージを与えたいのか」「どんな感情になってほしいのか」を簡単でよいので言語化してみて下さい。
その言葉が苦しんで生み出した言葉であるほど良質の映像に仕上がるはずです。

伝わる映像〜感情を揺さぶる映像表現のしくみ〜(幻冬舎)
著者:村崎哲也
https://www.amazon.co.jp/dp/4344927605/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_G-7NFb84E2YA1

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?