見出し画像

これは建築写真?現場で試されるスナップ力

建築士が撮る建築写真ってことで、今まで3つの記事を書きました。
三脚に立てて絞って撮る等の技術的な話は置いといて、どう伝わるかやどんな印象を与えるかについて書くようにしています。
撮影で気を付けている「建築士である私自身が撮って欲しい写真」という建築士目線の写真を、写真家でもある私がどう考えて、読み取って、撮っているのか解説するマガジンになっています。
良かったらマガジン登録お願いします。

今回はタイトル写真に選んだような宝箱の写真のようなものが建築写真なのかどうか?なぜ撮るのか?について説明したいと思います。
先に私の中での答えを明言しておくと、「これも建築写真の大事な1ピース」です。

1.建築設計について考える

建築設計には数字的な根拠によって決まることと、物語性のようなコンセプトによって決まることがある。
数字的な根拠は、建築基準法をはじめとした法規によるもの、構造設計のような計算によるもの、設備設計のような使用人数や用途によるもの等があります。
物語性のようなコンセプトとは、数字には表すことができないものです。
例えば私が住んでいる金沢市にある21世紀美術館のコンセプトを見てみます。

まちに開かれた公園のような美術館
多方向性=開かれた円形デザイン
水平性=街のような広がりを生み出す、各施設の並置
透明性=出会いと開放感の演出

21世紀美術館は円形平面で、従来の美術館のような出入口が決まっている一筆書き動線で回る美術館ではありません。
大小様々な展示室が円形平面の中に点在し、企画ごとに使用しる展示室の場所や数が変化し、その変化に合わせて仕切りが変わって無料ゾーンと有料ゾーンが変化します。
外周部はガラス張りで、まちに開かれた公園のような佇まいで、従来の美術館のような閉じた印象はなく、開放感があります。
どれも数字に表すことが難しく、まちとの関係性や新しい美術館の在り方、来館者が受ける気持ちを表現しています。
このように建築設計には、数値化された法規を守りながら、数値化できない意図を表現していく行為であることがわかります。

2.建築写真で表現してほしいこと

設計者が欲しい建築写真は外観、内観、部分の3つです。
おそらく一般的な建築写真の範囲は、外観や内観の広角域の写真がほとんどですが、設計者の立場としては詳細部分のこだわりにも気付いて欲しいし、HPや雑誌への掲載、コンテスト応募する際は詳細部分にまで前項で紹介した意図が行き届いていることを表現したいのです。
外観、内観、部分それぞれどのようなことを撮って欲しいのか具体例とともに解説してみます。

画像1

(1)外観写真
・敷地内外の関係性
 敷地外の近隣の住まいやまち並みとの関係性、雰囲気の違いを表現。この場合、三角屋根の隣の住まいに対して、四角い形で高さを低く抑えて、落ち着いた佇まいになっていることがうかがえる。
・素材感
 外壁が化粧サイディングの近隣に対してこの住まいの外壁は、人の手に触れる1階に自然素材の焼杉、2階に耐久性のあるガルバリウム鋼板を用いている。

画像2

(2)内観写真
・室内外、室内同士の関係性(空間の構成)
 玄関があって、階段があって、間仕切りの開閉でLDKと間仕切ることができる。向かって左側は大きな開口部があって、ウッドデッキがあって、庭とつながった空間となっている。
・素材感
 柱や梁の木部分が表しになっており、床は無垢材、壁は左官、建具は木製と人の手が触れるところはとことん自然素材や職人さんの手仕事が見えるものにこだわっている。

画像3

(3)部分写真
・空間に呼応する家具、照明器具
 ガラス職人さんによる手作りのペンダントライトカバー。職人さんの手仕事のため、1つ1つ微妙に表情が異なるが、内部空間の手仕事が見える仕上がりと合間って、オリジナリティある特別な住まいの雰囲気を演出している。

外観、内観、部分にまで落ち着いた佇まい、自然素材、手仕事が見える仕上がりでと一貫した設計意図が見え、全てが織り混ざってオリジナリティある雰囲気に仕上がっていることがわかります。
外観と内観までではこだわりが表現しきれないこともあり、そこに部分の写真があることで全体から部分まで一貫した設計意図があることが表現でき、その強さを強調して伝えることができます。
外観と内観はプロ、部分写真は設計者がデジカメで撮ったものでは、広告媒体に載せたりコンテスト用紙に掲載した時に写真の質の差ができてしまいます。
そこも一貫してプロの質の写真で紹介したいですね。

3.部分写真に必要なスナップ力

全体から部分まで一貫した設計意図が表現されていることを伝えるために、部分写真があるとより伝わりやすいことをわかっていただけたかと思います。
では部分写真を撮るコツは何か?それはスナップ力だと思います。
スナップ写真は、日常の自然な風景を写す写真ですが、その日常の自然さに気付くには感受性や注意力、観察眼といった敏感な能力が必要です。
建築写真として撮る空間から受ける刺激に対して敏感になり、この空間に込められた意図がどこまで反映されているか気付く力が必要です。
それは正に街中で撮るストリートスナップのように、周囲から受ける刺激から被写体を見つけて写す力に近いものがあります。
設計者に聞けばいいのでは?と思うかもしれませんが、場合によっては設計者が気付いていない魅力もあるのが建築空間です。
そこを撮ることができた時、おそらくその設計者は次の物件もその次の物件も撮影を依頼してくるでしょう。

画像4

さて、タイトルに載せたこの宝箱の写真が建築写真なのかどうかという件ですが、私はこの写真を建築の部分写真として撮影しました。

画像5

なぜならこの宝箱が置いてあるのはMORINOMIYA RPGという名前のコワーキングスペースで、RPGゲームをコンセプトに考えられた空間だったからです。
この宝箱の中には、延長コードやブランケットといったコワーキングスペースで使うアイテムが入れられるそうです。

ちなみに、私の撮影実績はポートフォリオサイトからご覧いただけます。


建築と写真で素敵な生活のサポートをしたい