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PRパーソンが一度は観た方がいい、超個人的おすすめ映画5選

そのつもりはなくても、エンターテインメント作品から自分の仕事に役立つヒントや知見を得ることがある。もちろんPR領域も例外ではない。

そこで今回は、これまでの中で人気のあった記事「PRパーソンが一度は読んだ方がいい、超個人的おすすめ本5選(実用書じゃないよ)」に習って、PRパーソンが一度は観た方がいい超個人的なおすすめ映画を5本紹介しよう。

そもそも日本では、PRや広報領域の仕事が映画やドラマの舞台として登場することは比較的少ない。けれどもPRが生まれたアメリカでは、PRを題材にしたり、PRパーソンが登場するドラマも多い。

有名なところだと、ニューヨークに住む30代独身女性4人の生活をコミカルに描いたテレビドラマシリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ』がそう。主要人物のサマンサ・ジョーンズはPR会社の社長という役柄だ。

豆知識として付け加えると、サマンサは日本では当初、広告代理店の社長と紹介されていた。このようにPR会社を広告代理店と意訳する例は他にもあり、以前紹介した書籍『ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争』(高木 徹)もそうだ。いかに日本ではPRという領域が認識されていないかが窺える。

ではさっそく、PRや広報領域を舞台にした映画やドラマ作品を紹介していこう。

『サンキュー・スモーキング』

原題:Thank You for Smoking
2006年公開、アーロン・エッカート主演

「情報」とは何か?

タバコ業界のロビイストの姿を描いた風刺コメディ。ライトマン監督の長編デビュー作にあたる。インデペンデント・スピリット賞に輝いた快作だ。

アーロン・エッカート演じる主人公は、タバコ会社のベテラン広報部長という役柄。なので喫煙者の権利を守るために、また、タバコと健康悪化には因果関係がないと世間に信じさせるために日々奮闘している。しかし、その手法がいわゆるスピン(世の中やマスコミを煙に巻くような情報の駆け引きの手法)。

つまり、情報をどのように自分たちに都合のいいように仕向けていくかというところが、この映画の見どころなのだ。

個人的な面白ポイントは、主人公を含めた嫌われ者3業界(タバコ、アルコール、銃)それぞれのスポークスパーソンが、飲み会でお互いにグチを吐露す場面。業界あるある話で思わずクスッと笑えるだろう。

この映画はコメディタッチなので全体的に業界事情が少し誇張され、主人公たちの奮闘を面白おかしく描いているのだが、同時に、PRパーソンが巨大な産業や企業でどれだけ責任ある立場を担っているのかというダイナミズムがわかる。

いわゆる「情報操作」を推奨はしないが、映画の中では、事実を選択的に援用したり婉曲表現で問題をすり替えたりと高度な情報操作テクニックが満載なので、結構見応えがあるだろう。

「情報」をどうとらえ、向き合うか。その点で、頷けたり共感できるところがあるはずだ。

『女神の見えざる手』

原題:Miss Sloane
2017年公開、ジェシカ・チャスティン主演

自分の思想に基づいて仕事をするということ

2016年に公開されたジェシカ・チャステイン主演の社会派サスペンス。『サンキュー・スモーキング』の主人公が企業の広報部長だったのに対して、こちらの主人公はPR会社側の人物。かなり有能なロビイストという役柄だ。

ロビイストとは、ある企業、団体を代表して、政府に陳情や請願などで働きかけをする人のこと。日本とは違いアメリカではロビイングは合法行為で政府の認定を受けているので、堂々と議員に面会したり陳情することができる。この映画ではロビイストの実態を窺い知ることができる。

有名なロビイストである彼女のところに、ある日、銃のロビー団体が来る。銃器所持を推進したい団体だ。主人公はそれを断る。そのことで上司と口論となり、彼女は自分のチームを引き抜いて転職することになる。転職先は、銃規制を推進するライバル会社だ。そこからロビー戦が始まり、広報・PRのテクニックを使って、世論を作っていく。どんどん場面が展開していって、ドラマとして完成度が高い。

見どころは、ロビイストやPRパーソンが、自分の主義や考えと、それに反する内容の案件を、仕事として請け負うかどうかの線引き。自分の思想や考えに基づいて仕事をするかどうかは永遠の課題だ。この作品の主人公は自分を貫いたが、現実ではそうではないロビイストもいる。

個人的に象徴的だなと思うのは、映画の中でしばしば主人公が口にする「フォーキャスト(Forecast)」という単語だ。フォーキャストは「予想」「予測」「予報」「予見」といった意味を持つ。

PRという仕事の本質は、ある意味「フォーキャスト」に尽きる。状況が不確実な中、いろいろなことを仕掛けて、どのようなアクションにつながるのかを徹底的に予測・予見することが必須であり、「どれだけ先を読めるか」に成功はかかっている。

いずれにしても、PRパーソンの仕事に対する矜持を問われる作品だ。

『空飛ぶ広報室』

原作:『空飛ぶ広報室』(有川浩/2012年/幻冬舎)
2013年TBS系『日曜劇場』で放送、新垣結衣主演

日本独特の広報の姿がわかる

映画ではないが、日本では数少ない広報・PRを扱ったテレビドラマなので取り上げておきたい。

舞台は航空自衛隊。戦闘機パイロットだった青年(綾野剛)が、不慮の事故で飛べなくなり、広報室に異動になったところから物語が始まる。新垣結衣はテレビディレクターという役柄。彼女とのすったもんだや広報室に持ち込まれる難題などを通してドラマが進んでいく。

ドラマ自体はとても面白い。けれども、広報という仕事の描き方という点においては、とても日本的だという印象だ。というのも、日本では広報やPRの経験のない人が広報を担当することがよくあるからだ。広報やPRのプロではなく、自分たちの組織をよくわかっている人間をトレーニングもなく広報担当に当てるケースは「日本あるある」だ。また日本の広報PRは、「どれだけメディア取材を受けて露出するか」が主目的とされがちだ。世論を動かす、というよりも、メディアリレーションが業務の中心になる。

対して、先に紹介した『サンキュー・スモーキング』『女神の見えざる手』の主人公はどちらも広報・PRのプロ中のプロ。彼らはさまざまな人脈や手法を駆使して世の中をダイナミックに動かしていく。そのような視点で見ると、とても日本的な広報の姿が描かれているドラマだと言えるだろう。

『フォーン・ブース』

原題:Phone Booth
2002年公開、コリン・ファレル主演

パブリシストの描写がユニーク

俳優コリン・ファレルの出世作でもある本作品は、これまで紹介した3つと違ってPRが本筋ではないサスペンス映画。けれども、主人公の職業の描き方が面白いので変わり種だが紹介したい。

この映画の主人公はいわゆる「パブリシスト」という設定だ。PRの仕事の一つに、セレブリティや有名人をテレビや雑誌といったメディアに出すという領域がある。それを専門にやっているのがパブリシストというわけだ。とにかく人脈ありきの職業で、有名ファッション誌の編集者やテレビディレクターなどを数多く知っている。クライアントは歌手や俳優など。彼らと個人契約を結び日々メディア露出のための交渉をしているのだ。

専門性の高い仕事ではあるが、大企業や政府の仕事に従事する「PRエリート」からは、ちょっと下に見られる職業かもしれない。この映画を見るとわかるが、コリン・ファレル演じる主人公は見た目も仕草もちょっと”チンピラっぽい”のだ。たとえばある場面ではケータイを二丁拳銃みたいに持ち、右のケータイの先にはクライアントのセレブ、左のケータイの電話口には有名雑誌の編集者という感じで、ニューヨークの街を練り歩きながら、ペラペラと口先で交渉する姿が描写される。要するに「チャラい」人物像として描かれているのだ。

映画では主人公がある事件に巻き込まれる。

たまたまマンハッタンの電話ボックスで仕事をしていた主人公。受話器を置いた直後、切ったばかりの電話から呼び鈴が鳴る。思わず電話に出た彼に、電話の向こうの男は「電話ボックスから出るな、出たら殺す」と脅し始めた。訳がわからないうちに主人公は凶悪犯と誤解され、ガラス張りの電話ボックスから一歩も外に出られないという悪夢に追い込まれる(ここから広報PRは一切関係ないのであしからず)。

最後どうなるかは観てのお楽しみ。純粋に完成度の高い異色サスペンスだ。

『ニュースの天才』

原題:Shattered Glass
2003年公開、ヘイデン・クリステンセン主演

そのニュースは誰かの捏造かもしれない

アメリカの政治雑誌『ニュー・リパブリック』の記者スティーブン・グラスが、3年にもわたって記事を捏造していたという実話を元にした作品。舞台はメディアの話ではあるが、フェイクニュースというPRパーソンにも大いに関係するテーマだ。

ヘイデン・クリステンセン演じる主人公グラスは『ニュー・リパブリック』誌のスター記者で、他社から記事の執筆依頼が来るような売れっ子。周りへの気配りもできる人柄から同僚からも高く評価されていた。

ある日、グラスは「ハッカー天国」という記事を掲載する。それは、ある少年ハッカーが大手コンピューターメーカーを恫喝し、社員として雇われた上に大きな報酬を得たという内容だった。

それを疑問に思った『フォーブス・デジタル・ツール』誌の記者が独自に調査を始めたところ、そもそもハッカーの少年もコンピューターメーカーも実在しないことがわかった。

それを知ったグラスの上司である編集長が、グラスのそれまでの行いを暴いていく、という内容だ。

この作品はメディアや記者など、報道する側の倫理観を問う内容だ。そして、ファクトベースで物事を組み立てていく仕事であるPRも無縁ではない。

作品の元となった事件当時(1998年)は、ニュースの内容が本当かどうかを確かめる手段はあまりなかった。それゆえグラスは3年も捏造記事を描き続けられたとも言える。フェイクニュースという言葉が生まれた現在もまた、当時にも増してニュースの真贋がわかりにくくなっていると感じている。

誰もがインターネットで発信できるいま、悪意のあるなしに関わらず、情報源のあやしいニュースがSNSであっという間に拡散されてしまう。面白かったりセンセーショナルな内容の投稿が知り合いのSNSから流れてきたら、何も考えずに脊髄反射的に拡散してしまうのは、人間の性と言ってもいいだろう。膨大な量の情報を仕分けして「本当」を見つけ出すことは至難の業になっている。

PRパーソンは仕事上、ニュースの出所チェックには念を入れているだろう。しかし、そもそもの”源”のところで捏造されている可能性もゼロではない、ということは、心の片隅に置いておいた方がいいかもしれない。

日本ではまだまだ、PRや広報の役割がメディアリレーションのみに留まっている感が否めない。また、最近はいわゆる「ひとり広報」も急激に増えている。目の前の作業に追われ、社内の理解者も少なく孤立して、「憧れてたPRの仕事ってこんなもんだったかなあ……」と日々ため息の人もいるだろう。

しかし、真のPR=パブリックリレーションズは、世の中を動かす力を持つダイナミックな仕事だ。ここで紹介した作品には、そんなPRの面白さや哲学が満載されている。特に若いPRパーソンはぜひ、PRという仕事のダイナミズムを楽しみながら味わってほしい。

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