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対話とは「わかり合えなくても、テーブルから離れないこと」

最近「イイダさんにとって対話とは何ですか?」
という質問をされることがけっこうある。というか、けっこう増えた。

NHKの番組で「あなたにとってプロフェッショナルとは?」と問われているみたいで、余計なプレッシャーを感じ「ちょっとは気の利いたことを答えなきゃ・・・」なんて妙に身構えてしまうのだが・・・

まあ、それはそれとして、私なりに対話というのは


わかり合えなくても、テーブルから離れないこと


だと、わりと真面目に思っている。

もちろん、わかり合えたなら、それは素敵なことだし、対話をするからには「わかり合おう」という姿勢も大事な要素の一つだとは思う。

ただ実際には「わかり合えないこと」もたくさんあるし、そしてそれが対話の価値を損なっているとは私は思わない。

むしろ「人はわかり合えるんだ」という前提を強く持つことが、結果として「一つの正解」への過度なこだわりに繋がったり、「正しさを競うやりとり」になってしまうことも少なくない。

だから私は


そもそも人はわかり合えない


という前提を持っている。

といって、悲観しているわけでも、諦観しているわけでもなく、自分と違う意見や価値観をフラットに尊重するための、ベースとなる「あり方」や「心構え」のようなものだと捉えている。

わかり合えないからと言って、テーブルを離れたりはしないし、むしろその「わかり合えない」を前提として、お互いが腰を据えて向き合う。

それが対話だと思っている。


最近は「社会が多様化している」「多様性が大事だ」なんて話をよく耳にする。
それはその通りだと私も思うのだが、「多様化」や「多様性」というのは、じつに誤解を生みやすい言葉だと同時に懸念を抱いてもいる。

「多様化」や「多様性」についてけっこう多くの人が


● いろんな価値観が認められる社会
● いろんな生き方、働き方が尊重される社会


という文脈で語っている。
そうした側面があるのも事実だが、私はむしろ


● 自分の価値観が認められにくい社会
● 自分の生き方、働き方が通じにくい社会


という側面が、もう少していねいに説明され、認識されたほうがいいと感じている。


考えてみればじつにあたりまえの話で、自分とまったく同じ価値観、同じ考え方の人しかいなければ、そこに多様性はまったくないけれど、自分の価値観が否定されることは絶対にない。

反対に、自分と異なる価値観、異なる考え方、生き方、働き方の人がいればいるほど、自分の主義主張は否定されやすく、通りにくいという状況になっていく。

なんてことはない。じつにあたりまえの構造だ。


多様化された社会のことを「尊重する」「認め合う」という文脈で語れば、もちろん聞こえはいいけれど、実際には「自分の価値観が通りにくい」「否定されやすい」「いろいろ納得がいかない」という現実に、あっちこっちで出会う社会でもあるのだ。


シンプルに言ってしまえば、多様性が認められる社会とは、


あなたの価値観は〝尊重〟されるけれど、
決して〝受け入れられる〟わけではない


というものなのだ。

さて、ここからが問題だ。多様性が認められる社会だからといって、


「あなたの価値観は尊重します。
  でも、受け入れることはできません。さようなら・・・」


なんてコミュニケーションばかりをしていたら、それこそ何も進まないし、何かを一緒にすることなどできなくなってしまう。
共同、協働の社会は崩壊してしまうし、もっと言うなら、世界平和からも遠ざかってしまう。

そこで必要となるのが、

「わかり合えなくても、テーブルを離れない」というコミュニケーション

すなわち〝対話〟だと私は思っているのだ。


乱暴かつ極端な言い方にはなるが、多様化された社会では、自分の意見はまず通らないし、まったく異なる(なんなら、理解に苦しむ)価値観に出会いまくる。

でも、それがもはや社会のスタンダードなのだから、それを前提としたコミュニケーションや合意形成のプロセスを学ぶ必要があるし、そんな対話のスキルを身につけ、そんな環境に慣れていく必要がある。

私の表現に置き換えるなら、


わかり合えないけど、テーブルを離れないで!


ということだ。

もちろん私だって対話が万能だとは思っていない。むしろ、対話には多くの限界があるし、対話によって話がややこしくなったり、時間ばっかり消費してしまうことだってあるだろう。

でも、今という時代。
価値観が多様化し、正解が見えない社会において、対話というコミュニケーションが多くの場面に求められていることもまた紛れもない事実だと思っている。

だからこそ、物理的にも、精神的にも、テーブルから離れないで欲しいのだ。





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