長澤哲也

弁護士@大江橋法律事務所。東京と大阪を行ったり来たり。主著として、『優越的地位濫用規制…

長澤哲也

弁護士@大江橋法律事務所。東京と大阪を行ったり来たり。主著として、『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第4版〕』(商事法務、2021年〔初版2011年〕)、『独禁法務の実践知』(有斐閣、2020年)。

最近の記事

労務費転嫁ガイドラインの読み方

2023年11月29日、内閣官房(新しい資本主義実現本部事務局)と公正取引委員会が連名で、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しました。 労務費転嫁ガイドラインの位置付け この労務費転嫁ガイドラインは、2021年12月から始まった「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」の一環として位置付けられます。 公正取引委員会は、転嫁円滑化施策パッケージを受けて、2022年1月、下請法運用基準を改定するとともに、翌2月、同内容で、HP上

    • インボイス制度の導入に伴う独占禁止法・下請法上の留意点

      インボイス制度の導入に伴う免税事業者への対応につき、2022年10月から11月にかけて3回にわたり、「裏Q&A」と称した記事をこのnoteに書いてきました。幸い、多くの方にご覧いただき、今般、これらの記事にいろいろ加筆した冊子を、SMBC経営懇話会・実務シリーズNo.267として標記のタイトルでSMBCコンサルティングから出版いただくこととなりました。 そこで、noteでも加筆後のものを冊子頒布価格と同額での有料記事として差し替えて掲載いたします。冊子は、一般の書店では販売さ

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      • カルディの下請法違反は何が問題だったのか

        公正取引委員会は、2023年3月17日、株式会社キャメル珈琲(「カルディコーヒーファーム」の運営会社)に対し、下請法違反を認定して勧告を行いました(公取委の報道発表資料、カルディのプレスリリース)。 本件で下請法違反とされた行為は、よくある典型的なものではなく、公取委としてはわりと「攻めた」印象があります。 本件でどのような行為が下請法違反として問題とされたのか、順に解説したいと思います。 なお、以下の分析は、公取委の報道発表資料記載の情報のみを基礎としたものであり、も

        • 下請法運用基準の改正

          2021年12月に取りまとめられた「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」の一環として、公正取引委員会は、2022年1月26日、下請法運用基準の改正を発表しました。 その内容は、コスト上昇分を取引価格に反映させずに据え置くことが問題となるのはどのような場合であるのかにつき、深掘りしたものとなっています。 この点につき、従前の下請法運用基準では、買いたたきに該当するおそれがある場合として、次のとおり定められていました。 (改正前の運用基準第4-5

        労務費転嫁ガイドラインの読み方

          インボイス制度の導入に伴う免税事業者への対応に関するQ&A

          はじめに2023年10月から実施される消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)に関しては、免税事業者が不利益を受けることが懸念されています。 インボイス制度の下では、仕入税額控除をするため仕入先からインボイス(適格請求書)の発行を受ける必要があるところ、仕入先が免税事業者である場合にはインボイスの発行を受けることができません。 そのため、免税事業者と取引している発注者としては、インボイス制度の導入に伴って消費税額の負担増とならないように対策を講じようとするでしょう。

          インボイス制度の導入に伴う免税事業者への対応に関するQ&A

          下請講習会テキストの改訂(令和3年版)

          毎年11月は下請取引適正化推進月間だそうです。この時期になると下請法関連のイベントが盛んとなります。私も便乗して『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析』の第4版を上梓しました(こちらについてはおいおい書かせていただきます)。 それはさておき、この時期最も注目しているのが、下請法に関する公式マニュアルとでもいうべき「下請取引適正化推進講習会テキスト」(通称「講習会テキスト」)の改訂です。この度、令和3年版が公表されましたので、令和2年版からの変更点をチェックしました。 結

          下請講習会テキストの改訂(令和3年版)

          事業者団体による価格の実態調査

          2021年6月9日、「独占禁止法に関する相談事例集(令和2年度)」が公表されました。昨年同様、興味深い事例を数回に分けてご紹介していきたいと思います。 今年の相談事例集では、事業者団体による情報活動が幾つか採り上げられています(事例1、事例2、事例3、事例10)。その中でも事例10では、珍しく「独占禁止法上問題となるおそれがある」と指摘されました。 事例10の概要事例10の相談者は、業務用設備である甲製品のメーカーによって構成される事業者団体(X協会)です。甲製品について

          事業者団体による価格の実態調査

          契約の解消(取引拒絶)は優越的地位の濫用に該当するか

          継続的な取引を将来に向けて解消することは、優越的地位の濫用に該当するでしょうか。 契約を解消される側からすれば、取引依存度が大きい場合など、取引を喪失することによって大きな不利益をこうむるものであり、当然、優越的地位の濫用の問題になると言いたくなります。 しかし、取引拒絶や契約の解消について、公正取引委員会が優越的地位の濫用の問題とした例はありません。そのような違反事例がないだけでなく、ガイドライン等でも頑なに言及が避けられているように思われます。例えば、2021年3月に

          契約の解消(取引拒絶)は優越的地位の濫用に該当するか

          外国取引への下請法の適用

          外国企業が日本企業に発注する場合、外国企業は親事業者として下請法上の規制を受けるでしょうか。また、日本企業が外国企業に発注する場合、当該取引は下請法の対象となるでしょうか。 この論点はかねてから不明確なものでしたが、最近、目立たない変化がありましたので、ご紹介します。 外国企業は親事業者となるかまず、外国企業は親事業者として下請法上の規制を受けるかどうかについて。 この論点に関しては、つとに、中小企業庁が公表する「中小企業向けQ&A集(下請110番)」において次のような

          外国取引への下請法の適用

          出資者はスタートアップに対し優越的地位にあるか

          公正取引委員会は、令和2年11月27日、「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」を公表しました。 本報告書では、スタートアップが出資者等から受けることのある行為の実態調査を踏まえ、独禁法上の考え方が示されています。公正取引委員会は令和元年6月14日にも「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」を公表しており、今回はそのスタートアップ版といえるでしょう。示された問題行為の類型についても、それほど目新しいものが挙げられて

          出資者はスタートアップに対し優越的地位にあるか

          工法普及団体による標準施工歩掛の策定

          しばらく間が空きましたが、独占禁止法に関する相談事例集(令和元年度)の解説を続けます。今回は事例9です。 事案の概要コンクリート構造物の補修・補強工法であるA工法の普及活動等を行うX協会が、A工法での標準施工歩掛を策定し、ウェブサイト等で公表するという取組を計画したものです。 コンクリート構造物関連の土木工事(特定土木工事)においては、多くの公共工事の場合、まず設計業者による設計入札が行われ、その上で、当該設計を実現するために施工業者による工事入札が行われます。設計入札の

          工法普及団体による標準施工歩掛の策定

          マーケットプレイス部門で得た情報を小売部門で利用することは独禁法上問題か

          欧州委員会は、2020年11月10日、マーケットプレイス部門で得た非公開の小売業者のデータを小売部門で利用したとしてAmazonに対し異議告知書(Statement of Objections)を発した旨発表しました(欧州委員会プレスリリース)。本件はまだSOの段階であり中身のコメントは差し控えますが、提示された論点には興味深いものがありますので、一般論をおさらいしておきます。 同じ社内の別部門で得た情報を利用することが独禁法上問題となるかどうかについては、以前から議論があ

          マーケットプレイス部門で得た情報を小売部門で利用することは独禁法上問題か

          「田澤ルール」は独禁法上何が問題か

          公正取引委員会は、令和2年11月5日、日本プロフェッショナル野球組織(NPB)によるいわゆる「田澤ルール」につき、独禁法違反の疑いが解消されたとして審査を終了した旨報道発表しました(「日本プロフェッショナル野球組織に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について」)。 「田澤ルール」云々はともかく、公正取引委員会が「田澤ルール」について独禁法上どのように考えたかについては、非常に興味深いところがありますので、少しまとめてみたいと思います。 「田澤ルール」問題の本質世間で「田澤

          「田澤ルール」は独禁法上何が問題か

          下請講習会テキストの改訂(令和2年版)

          下請法に携わったことのある方であればおなじみの「下請取引適正化推進講習会テキスト」の令和2年版が公表されました。 以下では、令和元年版と比較して改訂された内容のうち重要なものを紹介いたします。 センターフィーの下請代金からの控除令和2年版では、以下のとおり、物流センターの利用料(センターフィー)を下請代金の額から差し引くことについての考え方が新たに示されました。 下請代金の減額の禁止(第4条第1項第3号) 【減額の禁止についてのQ&A】 Q77: 親事業者が,物流センタ

          下請講習会テキストの改訂(令和2年版)

          メーカー団体による取引先に対する配送効率化や付帯作業の削減・有料化の要望

          独占禁止法に関する相談事例集(令和元年度)の事例8です。 事案の概要包装資材Aのメーカーを会員とする団体であるX協会が、次の事項を要望する文書を作成し、会員を通じて取引先に配布するという取組を計画したものです。 配送について ・ 取引先が希望する日時より前の時間帯に納品することの承認 ・ 納品に係る待機時間の短縮 ・ 休日配送の削減 ・ 需要予測を踏まえた計画的な発注による納品頻度の引下げ 附帯作業について ・ 附帯作業(納品場所での商品仕分や運搬作業)の削減又は有料化

          メーカー団体による取引先に対する配送効率化や付帯作業の削減・有料化の要望

          工事業者団体による作業時間短縮の取組

          独占禁止法に関する相談事例集(令和元年度)の事例7です。 事案の概要特定建機を使用する専門工事業者(甲地域所在)を会員とする団体であるX協会が、工事現場における1日あたりの特定建機の作業時間を2時間短縮するよう会員に呼び掛けるとともに、工事の発注者に対しても同様の要請を行うという取組を計画したものです。 事案の概要図は次のとおり(出典:公正取引委員会ホームページ)。 生じうる独禁法上の懸念は何か工事業者は、工事現場での作業という役務を発注者に提供しています。工事業者が作

          工事業者団体による作業時間短縮の取組