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ピースジャーナリズムで希望を~soar代表 工藤瑞穂さんのお話

もし自分や家族が障害を負ってしまったり、珍しい病気になってしまったら……

病気かどうかはわからない、でも自分は人とこんなところが違うと思う……

人が悩みや課題を抱えたとき、読むと前向きになれる、解決への糸口が見つかるメディアを運営する方のお話を紹介します。

2020年1月23日、LGBT・うつ・貧困、あらゆる困難を抱える人に向けたウェブメディア「soar(ソア)」を運営するNPO法人soar代表理事 工藤瑞穂さんの講演会に参加しました。

工藤瑞穂さん
NPO法人soar代表理事・ウェブメディア「soar」編集長。2015年12月より、社会的マイノリティの人々の可能性を広げる活動に焦点を当てたメディア「soar」をオープン。2017年1月に「NPO法人soar」を設立。

お邪魔したのは、社会課題に関心のある中小企業診断士の方々が運営するソーシャルビジネス研究会/ダイバーシティ研究会の2020年1月定例会。

soar代表の工藤さんがインターネットを通じて対人支援をしていこうと決めたきっかけや、メディアsoarに込めた思いをお聞きしました。

対話×発信の重要性を感じたのは2011年の震災

facebookをはじめ、インターネットで人と人とがつながることが当たり前になりつつあった2011年。そして起きた震災。学生の頃からストリートダンスをしていた工藤さんは「自分も何かできるかもしれない」と考えダンスイベントを企画、そこで集めた会費を被災地に寄付しました。またアメブロを使って支援物資を呼びかける発信もするなどインターネットの力を使って支援を続けた工藤さん。

あるときtwitterを通じ、被災地のいくつかの避難所の中で、比較的規模の小さい避難所には物資が行き届いていないことを知ります。工藤さんは困っていた避難所を何度も訪れ、物資を届けるなどのサポートを行い、仲間を集めてダンスイベントも開催しました。ダンスを見て元気になった、あのイベントはよかった、など被災地の方から受け取った感謝の言葉。

自分の意志で何かを作り出せる、対話×発信の大切さを知った経験にだったと語る工藤さん。

soarをはじめるきっかけは大切な人の総合失調症

あるとき工藤さんの親戚の叔父さんが総合失調症に。その症例については、まだあまり認知度の高くない頃でした。家族そして職場も十分なサポートができず、叔父さんは精神科へ入院するほかなかったそうです。

その後のこと。北海道浦河町にある「べてるの家」という施設を知ります。「べてるの家」は、総合失調症など精神疾患を抱える人々が一緒に暮らし働く地域活動拠点。精神系の病気になると、とにかく休むように促される世の中。社会との関りがなくなる分、苦労が減るように見えます。でずがそれによって、他人との関りで感じる困難や苦労と疎遠になり、人間らしさがなくなってしまう、デメリットがあるのです。

「べてるの家」では、病気があっても自分たちの暮らしに苦労を取り戻そう、稼ごうとすることで人とつながろう、という創設者の明るいビジョンで運営されています。

工藤さんの関心を引いた活動の一つが「幻覚&妄想大会」です。精神系の病を抱える患者さんが、自分がどのようなことを考え、どのような行動を起こし、そして何が起きてしまったのか、過去のエピソード(事件も含む)を面白おかしく話す大会。病気=恥ずかしいことではない、病気はよくならなくても幸福度は上げることができる、と多くの人に伝えてくれるイベントです。

「もし早くに知っていたら、叔父さんを連れて行ったのに」

「べてるの家」を知ったとき工藤さんはこう考えたそうです。

情報を知っているか知らないかで、人生の明暗を大きく分ける。困難を抱える人の課題について調べました。

例えば、
普通に生活は出来るけど「数が数えられない」という発達障害をもつ女の子。就業先を探すためのサポートを受けたいけれど、どこに情報があるのかわからず困っています。
一方で、サポート活動をしている団体はあるものの、日々の業務に追われ情報発信・広報まで手が回っていないことが多いそうです。

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困難を抱える人とサポートする活動。両者の課題を解決し、困難を抱えるひととサポートを媒介者になろう、と考えた工藤さん。

震災でのボランティア経験から、発信することの重要性を感じていたため、インターネットを使い、ウェブメディアとして情報を発信していこうと決めたのです。

そして、2015年からウェブメディアsoar(ソア)をスタート。対象者は抱負で、包括的にあらゆる困難を抱える人々に届ける記事を配信しています。

例えば、日本に8万人いると言われる上肢切断者の方に向けたこちらの記事。
handiiiという筋電義手(信号を使って動かすことのできる義手)を紹介しています。事故で右腕を失った男性がデモンストレーターとして義手を装着し、イベントに参加した子どもたちと握手をする写真が印象的。見た目はロボットのようでスタイリッシュ。写真に写る子どもたちはみんな笑顔です。

認知症の方が働く「注文を間違える料理店」を紹介するこちらの記事では、間違いを認める社会の寛容さを問い直します。

トランスジェンダーや認知症夫妻が共に暮らすシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を紹介するこちらなど、soarの扱う対象はさまざまです。

また最近では、見えづらい困難を抱える人に向けた記事も配信しています。例えば、会食恐怖症の当事者経験を伝えるこちらの記事。

soarが心掛けているのは、ただ困難を伝えるのではなく、人々に希望を伝えること

自分の病気、周りの人の抱える困難について検索すると、当事者の困難だけが記されたブログであったり無機質な医療径のサイトが出てくるため、より不安になってしまう方が多くいます。希望を求めていたのに逆に失望してしまうことにないよう、soarではポジティブな発信を心掛けているそうです。

紹介されていた一つのツイート。

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昨日とあるツイート見て思ったんですけど、ほんと自分の悩んでる症状とか病名で検索すると、当事者のブログで見てるだけでつらくなるようなものor無機質な医療系のサイトだけだったんですよ。当事者がつらさを吐き出せる場所があるはいいことなんだけど、自分がしんどいときは引きずられてします。

困難や課題だけではなく、希望を伝えたい。そんな"ピースジャーナリズム"の精神を大切にしていきたいと工藤さんは話していました。

月1000円からのサポートが私たちの力になります

soarの記事は無料で見ることが可能です。独自性を保っていきたい、美しいデザインで記事に集中できる姿で発信したい、という願いから広告は無し。つまり広告収入もありません。またsoarでは、他の団体でやっているようなマネタイズはしておらず、soarを応援している方からの寄付によって運営しているそうです。

soarでは月1000円~のサポーター会員を募集しています。2020年1月23日時点ではサポーター会員数は812名。より多くの方からの支援を必要としています。オンラインコミュニティや寄付者限定のイベントにも参加できるそうです。寄付ページはこちら

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あらゆる困難を抱える人に向けた、情報のセーフティーネットでありたい。蛇口をひねればsoarが出てくる。そんなインフラのような存在になりたいと思っています。

すべての人の可能性を応援したい、当事者とその家族や友人まで含めて元気にしたい、という工藤さんの優しくて強い信念を感じることができました。

工藤さん、そしてソーシャルビジネス研究会のみなさま、ありがとうございました。

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