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【ノーベル医学・生理学賞】【解説】熱が痛みになることを初めて証明した~TRPV1のクローニング~

いや~、今年のノーベル賞はアツいですね!!!
(そーですね)
まさか自分の研究分野の方が受賞されるなんて、ビックリですね!!!
(そーですね)
テンション上がりすぎて全然眠れませんね!!!
(そーですね)

と、いうことで今年のノーベル医学・生理学賞は、
David Julius先生とArdem Patapoutian先生でした、本当におめでとうございます!!

今回は特に、私の研究分野で受賞されたDavid Julius先生の研究について、
ネットの記事より少しだけ深堀しつつ、当時の背景も交えながら解説していきたいなと思います!(胸を借りる思いで)


1. なぜトウガラシを食べると痛いのだろう

時は遡り1990年代、カリフォルニア大学でDavid Julius教授はこの研究を行っていました。

トウガラシに含まれるカプサイシンは痛みを引き起こす天然物として知られていましたがその受容体(センサー的なもの)が不明であり、世界中の研究者がこぞって競争していました。

当時痛みに関与している天然物としてもう一つ、オピオイド(モルヒネやアヘンなどのこと)が知られており、ヒトの体内においても重要な役割を担っていることが分かっていたため、同じ天然物由来であるカプサイシンもきっとヒトにとって重要な役割を果たしているのだろうと考えられていたからです。

そんな厳しい競争の中、1997年、Julius教授の研究グループがこのカプサイシンの受容体のクローニング(遺伝子をつくること)に成功したのです。
当時その研究室に留学していた、富永真琴先生(現生理学研究所教授)もその時のことを振り返って、
「論文がでてホッとしたのを覚えています」と述べています。

https://www.nips.ac.jp/release/2021/10/nobel_tominaga.html

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この論文はNatureに投稿され、とても大きなインパクトがありました。
ちなみに論文中では、カプサイシン以外に胡椒の抽出物もTRPV1に反応することを述べています。

ともかく、経験則でしかなかった「トウガラシを食べると痛い」
現象が、「トウガラシの成分であるカプサイシンがTRPV1に反応し、痛みを引き起こす」という現象であることを証明し、これから痛み研究が飛躍的に加速するだろうと大いに期待されることとなりました。


2. トウガラシって痛いしちょっと熱いよね

この研究には、実はもう一つ大きな意義がありました。

それは、TRPV1は熱刺激にも反応するかもしれない、ということです。

トウガラシを食べると痛いのと同時に熱っぽさも感じることから、そのような発想に至ったそうです。

そして研究を行っていくと、やはりTRPV1は熱刺激にも反応し、ある一定以上の熱さは痛みとなることがわかりました。

また、TRPV1は痛みを増強する働きも持っていることもわかりました。

これはどういうことでしょうか?

例えば、みなさん日焼けしますよね?日焼けしている時のお風呂ってめちゃくちゃ痛いじゃないですか。アレです、はい。

つまり、日焼けしてTRPV1が活性化することにより、普段痛くないような熱刺激でも痛くなるようになってしまうわけです。


3. TRPV1はかゆみにも関与する

これは完全に余談なので飛ばしていただいても結構ですが…
私はかゆみについても研究しているので話しておきます。

みなさん、あったかい場所や暑い場所に行くとなんか身体がかゆくなる経験ってありませんか?

実は、代表的なかゆみを引き起こす物質であるヒスタミンの受容体は、TRPV1と共発現(共存)していることが知られています。

痛みだけではなく、かゆみ研究にとっても、この発見は大きな意義があったわけです。


4. 現在の医学への応用

この発見以来、TRPV1の研究はたくさん行われてきましたが、実はこれをターゲットにした鎮痛薬っていうのはあまり開発されていないんですね。

何故かというと、何回言う通り、TRPV1は熱を感知するセンサーであるため、これをふさいでしまっては熱の感知に鈍感になってしまうかもしれません。
きっとそれは私生活に支障をきたすこととなるでしょう。

そしてもう一つは、TRPV1は様々な部位に発現(存在)しているからです。

TRPV1は主に皮膚であったり口の中であったり、いわゆる末梢で痛みを感知しますが、TRPV1は末梢だけでなく全身に発現しているため、その分副作用も大きいわけであります。

しかし、だからと言って無駄な発見だったわけではもちろんありません。

全身に発現しているということは逆に言えば、色んな生理機能に関与しているということです。

つまり、TRPV1の研究を進めることは、様々な病気のメカニズムを解明することにもつながるわけです。


5. 受賞後の反響

ここからは解説というか、僕の周りの後日談みたいな感じなんですが笑、

ノーベル賞が発表され数十分後、私の指導教員の元に取材の電話が殺到しました。

私の先生は富永先生によくお世話になっており、先日も共同でTRPV1に関する論文を出したので、記者の方たちはそれを見つけてきてくださったのでしょう。

(その論文について過去に解説した記事です)

https://note.com/tfayt_h__8/n/n938a74e72080

ですが、取材で話したことが少し違うように解釈されてしまいネットの記事になってしまっておりガッカリしていました(笑)

やはり研究をかみ砕いて説明するのは難しいことだなあと改めて実感するのと同時に、自分の研究の情報を発信することはもっと大事だなあと痛感しました。

また、私の先生曰く、富永先生も留学期間の最後のほうでギリギリ論文としてまとめられたそうなので、研究もまた巡り合わせなのかなと思いました。

―――
記事の内容は以上になります!長くなりましたが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!


☟過去のTRPV1に関する記事

https://note.com/tfayt_h__8/n/n938a74e72080


☟他の痛みの抑制メカニズムに関する記事

https://note.com/tfayt_h__8/m/m4ba29b353062


☟そもそも痛みとは何なのか

https://note.com/tfayt_h__8/m/m4ba29b353062


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