カワムラケンジ(THALI)

10代半ばから数々の飲食の現場を経験し、20代半ばで物を書き始める。現在はスパイス料理研究家。1991年『P・AGE・BARA』(大阪府箕面市)開業、98年日替わりインド定食の店『THALI』(三重県松阪市)などなど。お店が大好き。店をやっているすべての人を尊敬してやまない。

裏町の大衆中華『新大蓮』のチーフ12

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6.出前の帰りにバチがあたる

ここだけの話だが、十八歳になる前から僕はたまに車を使って出前や皿下げに出ていた。運転するのはもちろんチーフの軽自動車。そろそろ自動車教習所へ行こうとしていた頃で、今のうちに運転に慣れておけば少しでも楽に試験にパスできるのではないか、というまったく浅はかな理由である。

大人のチーフがよくも高校生に車を貸すものだと思われるだろうが、実はチーフは気付いて

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裏町の大衆中華『新大蓮』のチーフ11

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5.常連客の仲にも礼儀あり

あれは確か日曜か祝日か、僕が1日通しで入っていた日のことだった。なんと常連ナンバーワンを争う柳川さん(前回に出てきたピストン工場勤めのパチンコ大好きなおじさん)からこともあろうに出前の注文が入ったのだ。

「おぅ、俺だ、柳川。ちょっと出前を頼みたいんだけど…」

「え? 嘘でしょ、なんで? パチンコは? あ、もしかしたら身体を悪くされたんですか?」

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4.パチンコ店長夜逃げ事件

九月のある祭日の昼下がり。僕は餃子用のキャベツのみじん切りに精を出し、チーフはロンピーをぷかぷかとしながら勝手口からいつものようにバス停方向を眺めている。

「うわぁぁ、あの子めっちゃくちゃ可愛いなぁ。長髪の毛がくるっとカールしてるわ。カワムラ君も見てみ。めちゃめちゃ可愛いから。ん? もしかしてあの子、前もおった子とちゃうか!」

また始まった。僕は背

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3.海へ魚を釣りに行く

ある日、釣りに行くことになった。釣りなんてものは、親父が生きていた頃に近くの池や湖に二、三回連れて行ってもらったくらいで、特に興味があったわけではない。しかし、常連客のオサムちゃんが「絶対に釣れるから行こう」と言い出し、それに乗せられたチーフが「よっしゃ、カワムラ君の内定祝いや」となった。

行き先は神戸西方にある瀬戸内海に面した舞子という地区だ。今は世界

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2.将来を決断するときがやってきた

夏休みが終わって二学期からはちゃんと一時間目から授業に出席した。それまでの僕は、学校ではなく行きつけの喫茶店を軸に一日を展開してきた。しかし『スナック・マラカス』で約束したとおり、学校へいって留年することなく、何がなんでも卒業せねばならない。

そして、いよいよ就職先も決めなければ。早い者はすでに1学期から準備しているようだったが僕は何にもして

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1.唯一無二の店のカタチ(半分は汚い話でごめんやす!)

『新大蓮』を語るにあたってこれだけは伝えておかねばならないことがある。

まず店の立ち方だ。イナイチとの間に幅一.五mほどの歩道があるのだが、店はこの歩道よりも二、三センチ埋もれるような格好で立っている。おまけに電柱が入口に立ちはだかるよにあるので、今時の目だってなんぼの俺様系とはまったく逆で、影でしょんぼりと立っている感じ

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