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かわいい


「かわいい」という言葉をよく使う。
太鼓持ちの会社員が上司に「すごいっすね」「さすがっすね」と唱えるくらいの頻度で「かわいい」と言っている。
今まで気づかなかったけれど、クラスメイトに指摘されて気づいた。

「この5分の間で10回は“かわいい”って聞いたぞ」

ぼくは彼のことが好きだ。
嫌なところがないし、良いところがたくさんある。
ボケることもないし、つっこむこともない。
性格も話し方も身体的特徴もぼくとの共通点が少ない。
だからなのか魅力的に感じる。
そんな彼に言われて気づいた。
たしかに、「かわいい」と何度も言っている。
それは恋愛の話をよくしているからかもしれない。

ぼく主導の会話は主に3つの主題に分けられる。
1つめは、学びの中で面白いと思ったこと、2つめは笑ったこと、3つめが恋愛だ。
1と2は話す相手を選んでいるが、3は誰にでもしている。
ある程度人数が集まると、自分の面白いと思ったことが全員に受け入れられない可能性がある。
ぼくが「日本語文法」や「量子色力学」にどれほど興味をもっていても、友人からしたらどうでも良いテーマかもしれない。
どうしてそんな話をするのか、と思うかもしれない。

二人っきりなら、相手の意見や関連する知識を聞きながら話すことができるが、4人以上いると難しい。
だから、みんなが興味がありそうな恋愛の話をしている。
恋愛の話といっても、それほど恋愛に傾倒していない友人もいる。
「好きな子いる?」などと聞いても何も返ってこない。
そういうときは、ぼくのフラれた話をすればよい。
ぼくと遊んでいるくらいだから、ぼくには興味があるはずだ。
ぼくが全力でフラれたら笑ってくれるだろう。
それに他人のフラれた話を笑う機会は少ない。
貴重だ。

フラれた時に盛大に笑ってもらうためには、種まきが必要だ。

その女の子がどんなに素敵で、どんなにかわいいか伝えなければならない。
素晴らしさと美しさを伝えて、ぼくの気持ちの強さを理解してもらったうえで、数週間アメリカの牛肉みたいに寝かせてから結果を発表する。

すると全く同情せずに笑ってくれる。

「かわいい」はそのための布石なのだ。


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