“海の強い回復力を信じて、「おいしい」を伝える” MOTOÏ 前田元
おいしいのに世の中に知られてない魚はいっぱいある
———魚を扱う時、どんなことを思って料理をされていますか?
僕、サーフィンが趣味で。仕事のリサーチだけではなく波乗りにいろんな地方の海に行きます。結果的にそれが産地巡りになっていることも多いのですが、水揚げされる地域だけで消費されているおいしい魚って、世の中にいっぱいあるんです。マイナーゆえに、通常の流通に乗せてしまうと評価されないので、京都の市場に通っているだけではそういった魚には出会えない。これは僕の性格でもあるんですが、せっかくだったら他のお店が使わないような魚を使ってみたくなります。
というのも、フランス料理というのは、素材の全てを無駄なく使う料理なんです。それって、いろんな魚を如何様にもおいしい料理にしやすいってことなんですよね。
骨やアラ、内蔵など、味が出る部位はすべてソースやスープのベースにして、味の骨格づくりに役立てる。だから、食べやすい部位が少ない魚も、使い尽くすことができます。
海の回復力に希望を与えてくれる「おいしい!」という発見
———料理人だからできる、海の環境をよくしていくための行動はなんですか?
海のことを学びはじめて感じたのは、僕自身が海のことを何も知らなかったことでした。京都の市場には毎日行くので、いろんな魚が減っているということは知識としてありましたけど、やっぱり実際に海で得る「現場の情報」は全然ちがっていた。「知らないって怖いな」って思ったんですよね。
でも、知ることによって解決策を考えることができます。「つくる」産業の農業とか畜産とは違って、天然の魚を「獲る」漁業は自然の力に完全に依存する産業です。本来は自然のキャパシティを守って漁をする必要がありますが、もし万が一獲りすぎて減ってしまったとしても、その後の対応次第で回復することがよくあるんです。漁獲量に規制をかけて数年保護すれば、人間が何か特別なことをしなくても魚の数が戻ってくる魚種も多いんですよ。それくらい回復力が強い。海にものすごい回復力があることには、僕にとってすごく希望の光が見えるんですよね。
知られていない魚たちのおいしさを上手く表現できたとき、お客様さんたちには「こんなにおいしい魚があるんだ」ということを知ってもらうことができる。漁師さんにとっても、普通なら値段がつきにくい魚を、いい価格で売ることができるからモチベーションアップになりますよね。
僕は、自分が培ってきたスキルを組み合わせて、いろんな魚に価値をつくっていきたいです。それが、いろんな人に海の環境を考えるきっかけを与えたり、漁師さんの助けになったりと、特定の魚種の獲りすぎを防いだりと、海への貢献につながると思っています。
いろんな水産物を食べて、「こんな魚もおいしい!」っていう経験をたくさんの人にしてもらうことが、この国の魚介類を守りたいという意識づくりになると思うんです。ひいてはこの国の食文化を守っていくことにも繋がるのかなと。
これから料理に関わる人は、未来のことを考えているのが当たり前であるべき
———シェフご自身が環境問題を意識するところから、若い人とともにつくる取り組みに参加したのはどうしてですか。
僕はホテルで中華のシェフを経験してからフレンチに移動したんです。20年くらい前になりますかね。当時のホテルの中華って食材ロスが結構多く出ていた。贅沢さを重視するあまり、食材のロスへの意識がすごく低くなってしまっていたんですね。
これは料理界に限ったことではないですが、若い人たちに環境悪化の負担を押しつけるような業界ではいけないし、次の世代に負担の繰り越しを続けてばかりでは、若い人は入ってきてくれないと思います。
だから、これからの一流の料理人の要素って、技術や味だけじゃなくて、環境に配慮して料理をしているかが重要。なんなら、そういったことをスタンダードにしていきたいし、地球のこと、未来のことを考えるっていうのが当たり前であるようにしたいですね。
MOTOÏではいま、どんどん若いスタッフを雇用して育てていくということをやっています。レストランがどんどん小型化しているなかで、MOTOÏは比較的大きな箱。このサイズのレストランというのは、積極的に人を育てる場だと僕は思っています。料理やサービスのスキルだけではなく、環境への意識を持った後進育成につとめたい。今回の取り組みも、僕自身が若い人たちから教わりながら、業界全体の底上げに繋がればいいなと。
料理人は本当に楽しい。楽しみながら大きなムーブメントをつくろう
———前田シェフの経験をもとに、今回参加するみなさんにむけてメッセージをお願いします。
料理業界って「きつい、しんどい」ってよく言われますよね。僕は18歳からこの業界にいるんですけど、しんどいって思ったことがないんです。もちろん、あくまで僕の場合は……ですけど。でも、それだけ料理ってものすごく楽しい仕事なんです。
こんなおいしいものがあるんだ!っていう発見、それをいろんな人に料理で伝えていけるメッセージ性の高さ、食の体験を通じて世の中のいろんな動きについて発信できること。料理人だからできることって多いのかなと。
いま、確かに海は危機的な状況ですが、その強い回復力を信じて、少しでも将来に夢を持ってこのプロジェクトに参加してほしいです。本当に、知れば知るほど希望の光がすごく見えるんですよね。
楽しみながら大きなムーブメントをつくって、たくさんの人を巻き込めるようなアクションが起こせたらなと思いますし、若い人たちのパワーを間近で感じながら、僕も刺激を受けたいです。
(photographs by Kaori Yamane/ text by Yasuko Hirayama)
↓今回のインタビューのダイジェスト動画です
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