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【こえ #33】みんな明るくて、病気があるけど、病人ではないよ…

王 美林さん


 「感染力」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?コロナ禍を経験した今、ネガティブな印象を思い浮かべるかもしれない。しかし、中国語にはそれとは別の意味がある。「影響を受け、それに染まること」。

 喉頭(声帯)を摘出して発声障害のある方々の力を「感染力」と称した中国出身の王さんは、障害のある当事者でもそのご家族でもなく、課題解決に取り組む研究者でも開発者でもない。

 そんな王さんが、これまで自分が障害のある人と会いたくなる理由を明確に表現できなかった私に、明確な答えをくれた。


 王さんにとって第1話でご紹介した篠さんは、中国での仕事の先輩だった。その篠さんが急に日本に帰国し、がんだと聞かされた。当時はビザも簡単に下りない時代で「一生会えないと思った」。そんな篠さんが中国に戻ってきたときには、喉頭(声帯)を摘出して「小指も入らないぐらい口も開けられず、驚くばかりだった」。


 その後、数年経って来日した王さんを迎えてくれたのは、「もう一度お喋りできるようになった」篠さんと、同様に声帯を摘出して発声訓練に取り組んでいる「銀鈴会」のメンバーだった。右も左もわからない日本を案内してくれ、よく一緒に飲みにも行った。

 「みんな明るくて、病気があるけど、病人ではないよ」という紹介が印象的だった。「自分の気持ちが落ち込んでいるとき、こんな前向きな方々を見て、健康な自分はどうなのよと元気出る」とも教えてくれた。全くの同感である。


 来日して喉頭(声帯)摘出手術を受けた中国人の姚(ヤオ)さんに篠さんの通訳として寄り添ったことがある。術後数週間、「(姚(ヤオ)さん)は超暗くて、人生終わりって感じ」だった。「(声を取り戻すのは)私には無理」とうなだれる本人に対して、なだめる奥さんの傍ら、篠さんは大丈夫と励ましながら発声方法を教え続けた。

 術後に再来日する彼は、少しずつ会話ができるようになっていた。「普通に話せて笑えることに奥さんと一緒に泣いて喜ぶ姿に、感動した」。

 話はそこで終わらない。コロナ禍で来日できなくなっても中国現地で喉頭(声帯)摘出を受けた患者さんの発声訓練のためにWeChatグループが立ち上がる。姚(ヤオ)さんはもちろん、篠さんや第2話でご紹介した山後さんが、音声で「こんにちは」「今日も練習しましょう」と中国語で投げかける。それも「3年ぐらい毎日」のことだ。最初の一文字から音声で返事を返したり、まだ話せなくてもテキストが返ってくることで皆の元気も確認した。

 実は、「銀鈴会」はアジアの他の国に対してもこうした発声訓練の支援を行っている。


 王さんは最後に、喉頭(声帯)を摘出した方々との出会いを振り返って、「ちょっと日本語変だったらごめんね」と前置きして話してくれた。

 「例えば、篠さんなんて、もともと健康的には弱い方じゃないかと思う。でも、他の方も含めて、たとえ弱くても、人に太陽や光を与えられる。弱いと力をもらいたくなるのが普通。でも、逆に与えている、光を出している。私は、その光を浴びて、自分もそういう“いい人間”になりたい。」

 そうだ、私もその「感染力」にやられたのだ。


▷ 銀鈴会


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