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【め #5】同僚に視覚障害者がいたこともあり…

渡辺 哲也さん


 渡辺さんは現在、新潟大学工学部の人間支援感性科学プログラムの教授を務めておられ、ICTを活用した視覚障害者支援技術の研究・開発に取り組んでいる(参考:研究室HP)。

 この分野に取り組むきっかけは、大学院時代の所属研究室であり福祉工学の第一人者でもあった伊福部達先生の紹介で「障害者職業総合センター」に勤めたことだった。

 そこで出会ったのが、視覚障害者がパソコンを操作するために画面を音声で読み上げてくれる「スクリーンリーダー」の開発。視覚で操作するマウスに代わってアクセシビリティを担保する。インターネットが家庭に普及するきっかけとなった「Windows 95」に日本語対応するスクリーンリーダーの開発も中心メンバーとして取り組んだ。

 こうした開発を通じて、また同僚に視覚障害者がいたこともあり、視覚障害の世界に「フォーカスしていった」。その後、障害のある子どもの自立や社会参加を支援するナショナルセンターである「国立特別支援教育総合研究所」へと活躍の場所を広げた。


 現在、渡辺さんが取り組んでおられる一つが、「触地図(しょくちず)」だ。視覚障害者が触覚により空間認識を行うための地図のことで、建物や道路などを凹凸のある線や網目模様で表す。視覚障害者の課題と言えば「一人での移動」がすぐに思い浮かぶかもしれないが、知らない場所や引っ越し先など道路や街全体、または駅構内などの全体像を把握できるようにするニーズもある。

 渡辺さんは、この触地図の自動作成システムを研究するとともに、要望があれば無償で、立体コピー機で作成した触地図や同様に3Dプリンタで作成した立体模型の提供を続けてこられた。11月に開催された視覚障害者向け総合イベント「サイトワールド」でも、その場で触地図を作成して、3日間で400枚以上を提供した。最近は、国際情勢のニュースが多く入ることから、ウクライナやイスラエルの地図を求める視覚障害者も多いそう。


 初めて福祉工学に触れた30年前を振り返って渡辺さんは話される。「時代は変わった。昔に比べて学会で話す機会も増えたし、東京オリパラの影響もあって、障害のある人へのアクセシビリティ対応も当たり前になった。大学の研究室に留まらず、(富士通発で、聴覚障害者が音を体で感じられる)Ontennaや(HONDA発で、視覚障害者の単独歩行を支援するナビを提供する)Ashiraseなど、大企業から製品が出てきたことも大きい。」

 ただ、同時に懸念も吐露された。「後はどれだけ根付くか、広まるか」。例えば、渡辺さんの研究室による触地図提供サービスは無償だ。作成機械の資金はクラウドファンディングで調達できても一度きり、「サービスを提供し続けるには人をどうするか」。福祉財団からの支援もあるが、年単位になる。福祉分野によくある“ボランティアが夜なべする美談”を乗り越えて“健康に続けられる仕組み”が必要と話された。

 例えば、駅構内の触地図であれば鉄道会社側にノウハウ提供して実施を移管できないか?さらに、“視覚障害者のための触地図”を乗り越えて、子供の感覚統合に重要と言われる触覚を育てる知育玩具としておもちゃメーカーと開発できないか?そんな議論も出た。持続的な事業の仕組みが求められている。


 渡辺さんと「ニーズと技術がわかる人間が間に入って動かしたいね」と互いに確認した。ご自身の経験から、課題を解決するのに「必ずしもハイテクである必要はない。結果的に世の中に広まったものは地味でローテクなものも多い」と教えてくれた。

 例えば、近年広まるタッチパネルは、視覚障害者にとって新しい課題だ。それぞれの機器をアクセシビリティ対応にすることは現実的ではないが、「同じことを自分のスマホでできるようにWebアプリ化すればいい。技術的にハードルが高いわけじゃない。」とヒントをもらった。


 「それは自分の仕事じゃない、と言わないように気を付けている」とおっしゃったのが印象に残る。「研究者として発表して終わりではなく、技術的に難しいとか、自分の仕事じゃないとかで線を引くと、そこで途切れちゃう。その先に本当のネタがあるかもしれない」。

 そんな少し先にある福祉分野における持続的な事業の仕組みを一緒に探したい。


▷ 障害者職業総合センター


▷ 国立特別支援教育総合研究所

https://www.nise.go.jp/nc/


▷ サイトワールド


▷ Ontenna(オンテナ)


▷ Ashirase



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