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読書感想文 『家紋の話』 上絵師が語る紋章の美

数学から幾何学に興味を持った際に、日本の柄に強く惹かれた。

どこまでも平面を埋め尽くすことができる図形に対して、この世ではあり得ない ”無限”、”永遠” といったロマンを感じた。

そこから自社仏閣を訪れた際は、紋を見るようになって、自分の家の紋も再確認した。

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丸に三つ星。立派な紋である。こう見ると結構丸が太い。

さておき、この本では実際に紋を描く上絵師が紋の歴史や由来を書き連ねている。

なじみある紋や非常に写実的なものまで紋は様々で、なぜそこまで多くの紋が生まれたか、という点で私が感じたのは、矢張り職人の ”遊び心” である。

紋を並べてみたり、回転してみたり、組み合わせてみたり、変形したり、重ねたり、粋な遊びに見える。

これはおそらく、やらされている雇われの身、以上の興味がないとなし得ない業だと感じた。

その中でも時代に合わせて、戦国の世は無骨なもの、敵味方が分かるようにシンプルなものが好まれたり、江戸の平和な時代には繊細で出過ぎないデザインだったりと紋にも文脈が存在するところがおもしろい。

紋の由来をずーっと説明されるのだが、気づいたことがある。

これって現代でいう、"ロゴデザイン" だよなと。

丸の中に、祈り・願い・希望・姿勢を表現する。

そしてそれが使われる場面を想定して、意匠を調整する。

上絵師は粋なアーティストであり、デザイナーである。


ほぼすべてが分廻しと定規で描かれるのにも感嘆させられる。

つまり、幾何学の上に成り立つものを私たちは美しいと感じてしまうのである。

自由な曲線の美もあるが、円とそこから生まれる正方形を基準にした美には、
日本らしい美意識が潜在するのではないか、と個人的に前々から感じていたが、よりそれが確信に近づいた。

幾何学模様は浮世離れしているように感じるが、実はこの世の真理をミクロ・マクロに表現したものだと僕は思っている。

分子構造、雪の結晶、天体の形・動きなど。

そういった本来自然に存在するものから借りてきたものを、ある様式内で表現する、というのが粋の一側面なのではないか。

日本文化の良さを認識するためのヒントになるかもしれないと感じた。

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