「しね」に隠された意味

児童養護施設の子ども達と関わるすべてのみなさん。
今日も一日おつかれさまです。
今日のがんばりは、あなたの糧に。
今日の怖さは、「怖かった」と言葉にしてあげてください。

今日の+1はこちらです。
・子ども達が放つ「しね」は、「死ね」ではない。

以下詳細を記しています。
読める方のみ、ゆっくりお付き合いください。



児童養護施設で働いていると、日常的に飛び交う言葉があります。
それは、殺す、死ね、消えろ、ゴミ、などの暴言とされるものです。

初めて聞いたときは、その言葉に圧倒されますよね。私は働いて10年以上たった今でも
その言葉を聞くと体が強張り、「防衛」モードに入る自分に気づきます。
※防衛モードとは、"相手のことを敵と認識し、自分を守る体制にはいること"を指します

それは、私達大人が知っている「死ね」「殺す」という意味で
子ども達がそれらを顔面にぶつけに来てると思うから。

しかし、子ども達が発する「しね」「ころす」は
本当にそのような意味で使われているのでしょうか。

ここで、ある一例です。
子どもとのやりとりの行程を細かく記載しています。


学校に行渋り、欠席を決めた子がいました。
その子の希望をもとに一緒に居室の片づけをします。細かい所のほこりまで綺麗にしたいと、一緒に本棚や机の隅まで拭き上げます。
「こうしたら綺麗になった」「みてみて、私も」など
時間は穏やかに過ぎました。
その後、その子は以前私と一緒に取り組んだワークを思い出し
「今日もそれしようよ」と提案、もちろん快諾。
そのワークをその子に手渡した後、その子はこういいました。

「は?しねよ」  と。

え?私にそれ言ってるの?

突然の発言に、私も思わずそう反応していました。
その子は私の問いに返答せず、「しねよ」を繰り返します。

それまでの穏やかな空気は一変。
言葉だけを聞いていれば、私は間違いなく防衛に入っていたと思います。
そう、「しね」という言葉だけを聞いていれば。

突然の「しね」という言葉に、私は考えました。
「この子は何に死ねと言っているのか、私の何かに腹が立ったのか」そんな疑問と防衛を持ち合わせていた時
ふと、その子の手元を見ました。

そこには、はさみで切って、それを貼る。そんなワークがあります。
その子の目線、その子の苛立ち、その子の焦りはどこにある…?

①それらを総合し考えた私は、一旦「しね」をあえてスルーし、その子に声をかけます。

「これ、はさみで切って貼るワークなのね」
『は~もうめんどい、むり、しね』

②この子は几帳面で、失敗を嫌がる子だったのを思い出します

「たしかにはさみで切るの、失敗したらどうしようって心配になるよね」
『もうどうしたらいいの、うっとうしいって』

③器用だ、頭がいいと大人から言われ期待されてた入所前の生活。また出来ないことがあると大人からバカにされ殴られていた過去があったことを思い出します。
「上手に切れなくたって、だーれも怒る人はいないよ。私とあなただけの空間だもの。あなたが切りたいように切って、貼ればそれが正解。だから何も心配せずにやりたいようにやって大丈夫よ。」

そこまで伝えると、子どもの不安がはっきり分かりました。
その子は「しね」といわなくなり、
「こうかな」と確かめながら、自信なさげにハサミを使いワークを始めました。
そうそう、いい感じ!そんなやりとりに変わり、
その子は1人になった後もワークに取り組み
一冊やり終えていたのでした。


安易に"しね"と発する子の多くは
自分の感情を言葉にできない、自分の感情を抱えきれないという一面を持ち合わせているように思います。

困り事がある、心配している、不安になっている。
その内にはこの様な複雑な気持ちが確かにあるのに
、それを的確に言い表せない。

何だこの気持ち悪い感覚は。ここらへんがモヤモヤする。全てがもどかしい。自分で抱えることも怖くて出来ない。
もう、全部まとめて

【しね】

私たちが普段耳にする子ども達からの言葉には、こんな道があるのかもしれません。



暴言に隠された、絡まった意味をほぐし見る。

この過程が、本当は現場では必要なのだと思います。
まとめて投げられた言葉に隠された、細かな気持ち。不安、心配、恐れなど。
それらを知ることで、おとなは必要以上に傷つかずに済む。子どもは本当の胸の内にあるSOSが解決に繋がる経験を重ねられる。

でも、現場ではこのような状況がいたるところで発生していて
発生していることにも気づかないまま、目の前で起こる対応に次々に追われているのです。

「助けて」「困ってる」と分かりやすく言えない子どもと
本当のSOSに気付けず傷を増やしていくおとな。

そんな互いにずれてしまっている現場を、どうにか変えられたなら。

子どもの分かりにくいSOSを、全てを拾い上げることは難しいかもしれない。
けれど、「この子のあの発言、もしかしたら…」と頭に残ってるシーンがあったなら
そこに隠された心配、困り事がないか想像してみませんか。

次の勤務のとき、
いつもと同じ言葉をかけられても
違うことばを私たちがかけられたら。

その子は、表情を変えるかもしれません。


実際に試してみた、という方がいらっしゃったら
ぜひコメント欄に感想や疑問を残してください。

あなたの素直な感想が、日々頑張る人を救うヒントになるかもしれないのです。

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