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グローバルなデジタル先進女子の、一歩先行くファッションとは?

●加速するファッションのデジタルシフト

新型コロナウイルスの感染拡大により消費が落ち込むなど、先が見えない時代を彷徨う中、どの業界においても未来を描く力が必要とされている。それはファッション業界も同じくで、これまでHRテックやフィンテックなど、他業種に比べるとデジタルシフトに対するマインドセットが遅れた業界と揶揄されてきたが、この段階になってようやく急ピッチで変革を進めようとしている。昨年ワールドが子会社化したことでも話題になったブランドバッグのシェアリングサービス「ラクサス」、洋服のサブスクとして定着した「エアークローゼット」、D2Cの「ファブリック トウキョウ」など、すでにサービスとして市場で認知を得ているものもあるが、今後ファッションはどのようにテクノロジーと結びつき、利便性だけでなく、ファッションならではのファンタジーをも魅せてくれるのだろうか? 物質主義に彩られた経済的な成功から、心が満たされる精神的な成幸へと、豊かさの定義も変化してきている。ここでファッションテック先進国、アメリカからの事例を紹介しよう。

●ウクライナ女性起業家によるアメリカでの挑戦

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ダリア・シャポヴァロヴァ (Daria Shapovalova)。日本では聞き覚えのない名前だが、ヨーロッパのハイエンドなファッション界隈では、彼女を知らない人はほぼいないのではないだろうか。ウクライナ出身の彼女は、元々ファッショニスタとして注目を浴び、パリコレクションでは常にスナップカメラマンにパパラッチされる存在だった。自国のデザイナー達をグローバルに広めたいと思った彼女は、「MORE DASH」というセールス&PRエージェンシーを立ち上げた。現在ウクライナはもちろん、ロシアやジョージア、その他各国の新進気鋭のブランドをアメリカやアジア、ヨーロッパ、中東のバイヤー達に斡旋する役目を担っており、パリでショールームを開設している。またウクライナのモードシーンを牽引する立役者として、メルセデス・ベンツと協賛で「キエフ・ファッション・デイズ」というファッションウィークを立ち上げたことでも知られている。

そんな彼女が共同創業者のナタリア・モデノヴァ(Natalia Modenova)と共に次に挑戦しているのが、ファッションテックの領域だ。そのため、彼女達は拠点をLAへと移した。そして、近頃発表したのが「デジタル専用の服を着る」というコンセプトの元誕生した「Dress-X」だ。

デジタルで広がる「着る」という体験

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現在、ファッション業界は世界で2番目に多くCO2を排出する環境汚染産業だと言われている。サスティナブルな取り組みが声高に叫ばれているいま、「Dress-X」ではフィジカルなファッションが生み出す美しさや興奮を共有しつつも、デジタル上で服を着る楽しみを通して、環境に優しい持続可能なファッションを謳歌することを提案している。操作はいたって簡単。自分の全身をスマホで撮って保存し、「Dress-X」のプロダクトページにアップロードするだけ。支払いが済んだら、およそ1週間ほどで自分のデジタルルックがメールに届く。理想の姿を手に入れるには写真の撮り方など色々とコツがあるので、詳細は「Dress-X」のサイトで確認してみよう。

アムステルダム発のデジタルファッションハウス「The Fabricant」や、カンヌライオンズでグランプリを受賞したコペンハーゲン発の「Carlings」など、すでにデジタル空間でのみ着用できる服を開発しているファッションテックはいくつか存在する。また、普段からビデオゲームでスキンを購入している人にとっては、特に目新しいサービスではないかもしれない。記録的ヒットを飛ばしているNintendo Switch用の「あつまれ どうぶつの森」では、ヴァレンティノやマーク ジェイコブスといったハイブランドが衣装提供したことも話題になった。

しかし、「Dress-X」は単にデジタルにしか存在しない3Dデザインの服を提供するのではなく、フィジカルな服の生存性を尊重することで他との差別化を図ろうとしている。つまり、デジタルな服はただボディを抽象的に包めばいいという話ではなく、いかに没入感をユーザーに体感してもらうか、「リアルな信憑性」を感じ取ってもらうか、に注目しなければならない。また、デジタルと実物の両方で今後服を販売するブランドが増えると想定されるが、その場合、緻密な「カッティングの技」はデジタルの世界においてもかなりの肝となる。実際、他ブランドでは最初から3Dでデザインしているため、フィジカルな領域で機能できる構造とシェイプを持っていない服が多いらしい。そのあたりの差異を埋めるのは、これまでリアルな卸売業でファッション経験を積み、服の構造をよくわかっている「Dress-X」の得意とするところではないだろうか。


環境にも配慮したデジタルドレッシング

生地のドレープやフィット感を正確に作るために、現在パターンカットのバックグラウンドを持つ優秀な2D、3Dアーティスト、そしてテクニカルデザイナーと協働しているが、今後は集中的な手作業をなるべく削減するためにAIによる自動化プロセスの準備に取り組んでいるという。開発については今後より改善していくことになるだろうが、ローンチ1日目には2,000人のユニークユーザーが訪れたそうで、注文はその後も日々2倍のスピードで上がっているとのこと。「Dress-X」では「デジタルアイテム1点を生産する際の総二酸化炭素排出量が、フィジカルな服の平均生産量よりも 95%少ない」という彼らの指標を導き出し、CO2の削減を試みている。またブランドや消費者に新しい買い物の発見を提案し、返品が多いEコマースに代替案をもたらそうとしている。そういう未来を見据えた計画も、サスティナビリティに関心の高い若年層からの支持を集める要因となるだろう。目指すKPIは「10年以内に10億着のデジタルアイテムを販売すること」らしいが、あながち夢ではないかもしれない。

以前、『ELLE JAPON』の取材でダリアは「ファッションが持つポジティブなエナジーというのは、時代が良い方向へ進むために必要な要素」と語っている。不安定な政治問題や経済状況が続くウクライナで生きてきたからこそ、見えてくるファッションの方向性もあるのだろう。共産圏で他国の情報も入ってこないという、制限された不自由な時代があったからこそ、無からアイデアをひねりだすクリエイティビティにも長けているのではないだろうか。ダリア、ナタリア、そして仲間たちが現在アメリカを基点に心血を注ぐファッションテックが、今後どのような新しい思考を私たちにもたらしてくれるのか楽しみである。しかも、彼女たちは日々アップデートするコンテンポラリーファッション、そしてその顧客の嗜好も感覚としてよく理解している。

彼女たち、Fashion Tech Summitというテクノロジーに特化したファッションサミットも実は開催しており、こちらもモード誌を協賛に巻き込んだり、シリコンバレーのアクセラレーターとも繋がったりと、徐々に勢力拡大中。海外好き&ファッション好き、ついでにテックにも興味がある女性ならば、必見! ちなみに、2020年9月5日&6日にオンラインで最新カンファレンスを開催するのでそちらもチェックしてみては。

ちなみに、私が最初にダリアを見かけたのは2012~14年頃。はっきり年月は覚えていないのだが、シンガポールで開催されたファッションウィークで、彼女は確かロシア版VOGUEのコントリビューターとして取材に訪れていた。彼女や他国のグループとシンガポールでランウェイやトレードショーを回ったことを覚えている。その頃まだ彼女は26、27歳くらいだったと思うが、その時から強烈な、それは高貴な存在感を放っていた(だから、覚えているのだけれど)。「この人、いつか何かやるな」というオーラは、大成を為す前から滲み出るのか。きっと、この頃から彼女のマインドにはただのおしゃれさんではなく、ビジネスウーマンとしての起業がふつふつと炎をチラつかせていたのだと思う(実際、母でもある彼女はその後LAに渡り、2018年にはMBAも取得している)。

それから色々ご縁があり、私も「MORE DASH」に通う一人となり、ナタリアのほうは彼女が卸売業で東京にやってきた時も、少なからずちょっとだけ情報提供やサポートをさせていただいたり。彼女たちのアクションは私にとってとても刺激的だし、ビジネスのヒントにもなっている。コロナが落ち着いたらまた会いたい!


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