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芸術監督対談シリーズ①「竹田モモコ(ばぶれるりぐる×山口茜(メニコン シアターAoi芸術監督)」

 注目の演劇ユニット「ばぶれるりぐる」が、4月20、21日、メニコンシアターAoiに初登場する。主宰は、劇作家協会新人戯曲賞(2020年)、「日本の劇」戯曲賞2022最優秀賞などを相次いで受賞し、活動の幅を広げている大阪在住の劇作家、竹田モモコ。18年のユニット旗揚げ以来、自身の故郷、高知県土佐清水市の方言「幡多(はた)弁」を用いた軽妙な会話劇で観客の心をとらえてきた。新作「川にはとうぜんはしがある」は、とある家の母屋と離れをつなぐ「通り土間」が舞台。その家の次女と、20年ぶりに帰郷した長女を軸に、家族の物語が展開する。上演を前に、メニコンシアターAoiの芸術監督を務める劇作家、山口茜が、創作に向き合う思いや姿勢について、竹田と語り合った。(取材・文:畑律江)

◇      ◇

山口 私はいつも「圧倒的なもの」を体験させて下さった方をメニコンシアターAoiにお招きしたいと思っています。ばぶれるりぐるさんが21年に初演された『いびしない愛』は、圧倒的でした。

竹田 お招きいただいて本当に光栄で、うれしいです。今からドキドキしています。

山口 ところで、私は1977年生まれなんですが、竹田さんは?

竹田 81年生まれです。

山口 やっぱり! 私が4つ上ですが、ほぼ同世代ですね。私たちの世代って、バブル期を知っていて愛とロマンを信じられた50代半ば以上の人と違って、どこか社会に期待していないところがありますよね。

竹田 青春が日なたに向かってキラキラしてたというんじゃなくて、愛の定義もじめーっとしてて、手触りがあんまり良くない。

山口 わかります。私は、竹田さんは絶対に同世代だと思っていました。

 

(写真左)ばぶれるりぐる・竹田モモコ (同右)メニコン シアターAoi芸術監督・山口茜


 ――頭の中で起きていること


山口 いきなり深い話になりますが、台本って、自販機に百円入れたらジュースが出てくるようには出てきませんよね。竹田さんは、本が出てくるまでに頭の中でどういう作業をされるのか、そこをお聞きしたいです。

竹田 私はネタ帳を持っているんです。面白い音の言葉、使いたいせりふなどを書き留めておきます。さらに新作について言うと、今自分が転換点にいる気がするので、自分のことも、世の中で頑張ってきた人のことも、いったん褒めてあげよう、それから先に進もう、と思ったんです。そしてネタ帳から使えそうな言葉を引っ張ってきて、つなぎ合わせる作業をしました。

山口 ご自身の人生とか、普段考えていることが、本と密接に関係しているんですね。

竹田 密接です。自分のメンタルとか、考えていることが丸出しで、かつ自分がそれを演じるので、めちゃくちゃ恥ずかしいです。

山口 本を書く作業は単純にしんどい。そのうえ、情報の断片を系統立てていくことって、とても大変な気がします。書くことがお好きなんですね。

竹田 いえ、本当は布団の中で暮らしていたいくらい、寝てるのが一番好き(笑)。確かに書くことはしんどいです。でも、書かないことよりはまし、と思って書いています。私は俳優をしていたんですが、演劇にかかわるのがしんどくなって、勤務先と家を往復するだけの数年を過ごしました。でもそのうちに心のバランスがとても悪くなったんです。誰にも会わないし、何かやらないと誰も自分のことなんか気にかけてくれないし。じゃあ自分の力を全部使って、もう一回、演劇と向き合おうと、ユニットを立ち上げました。

 

自身の創作について語る竹田モモコ(ばぶれるりぐる)


 ――新作に込めた思い


山口 新作は、独身で働いてきた姉と、子育てをほぼ終えた妹の物語ですね。竹田さんは今回、子育ての手が離れたお友達の姿を見て、台本を書かれたとか。

竹田 周囲の同世代の人の中には、子育てが一息ついた人や、親の介護が始まった人など、他者の人生をある程度背負わないといけない人が多いんですよ。私は、そんな人たちに「お疲れ様」と言いたいし、私自身も「お疲れ様」と言われたい、と思いました。今回は、その両方がかみ合ったところに運よく着地した感じです。いつもプロットがないので、どこに着地するかはわからないんですが。

山口 プロットがないということは、登場人物と場所を、ある程度、具体的に決めたら、その人たちがしゃべっているところを想像して書く、ということですね。

竹田 おっしゃる通りです。その人の性格など、パーソナルなことを決めたら、ぱーっと走らせてみるんです。

山口 だから面白いんですね。竹田さんの本は、文字で読んでいるだけでも普遍的な感情がわきあがってきて、「なんでそんなに私のことを知ってるの!」と感動して泣いてしまう。そして最後には、作家が私の頭をなでてくれているように思える。特に今回の作品は、普段演劇を見ないママ友に見せたいなと思います。私は子育て中ですが、子育てしていない人には子育てのつらさがわからない、なんていうのは絶対ウソだと思っています。私は社会的に振り付けられた「母」を演じているし、この子を生かすために死なないといけないなら死ねる、とも思うけれど、結局、人はみんな「自分」「自分」なんです。そこは母も全く一緒。竹田さんの本を読むと、それが分かってホッとします。いろいろあるけど頑張ろうと思えます。

竹田 私は「続くことは地獄やな」と思っていて。人は、節目のセレモニーに向けてなら頑張れるけど、継続させることはつらい。とにかく明日一日は頑張ろう、そう思いながら人生を何とかつないでいくんでしょうね。

 

 

 ――仕事への向かい方と「あて書き」


山口 竹田さんは、作・演出・出演の中で、作・出演の二つを選んでおられますね。

竹田 私はチャーハン・ラモーンさんの演出が好きなので、ばぶれるりぐるでやる時には、いつも演出をお願いしています。私が演出をしないのは、圧倒的に知識不足だと思うから。演出家さんって、音楽や映像とか、あらゆるアートにアンテナを張っていらっしゃるじゃないですか。それに私は、人物を頭の中で動かしながら本を書いているので、実際の舞台では違う演出が見たいですね。


「ばぶれるりぐる」での創作について質問をする山口茜

山口 演出家や俳優さんに「ここがわからない」と言われたらどうしますか?

竹田 そこは普通に「こうです」と説明します。本当はワークショップなどをして、ユニットの共通言語が作れたらいいのですが、なかなかそこまで時間がとれないので。

山口 でも竹田さんの本は、とても精査されていて、情報の出し入れがとてもうまい。

竹田 私は戯曲は全部、上演台本だと思うので、ばぶれるりぐるの時は、俳優さんにあて書きして書きます。あるいは、あの人がいいなと思う人を思い浮かべて書いていって、台本が半分くらいできた段階で、俳優さんに台本を見せて出演を依頼するんです。そうしたら、だいたいOKして下さいますね。

山口 一日のうちで、どの時間帯に書くんですか?

竹田 会社に仕事に行ってるので、平日は夜で、土日はお昼かな。夜は寝たいんですけど、本を書いていて頭が回った状態だと、目が冴えて、なかなか寝られなくなります。

山口 書いている時は、何か食べたり飲んだりします?

竹田 チョコを食べたり、コーヒーを飲んだりしますね。それから、家にネコがいて、パソコンに向かうと乗ってくるので、仕事がブツブツと途切れてしまう。ネコのお腹の透き間からキーボードを打ってます(笑)。

山口 私は子供が2人いますが、下の娘は3歳で、ほぼほぼネコと同じですね(笑)。私もパソコンに長く向かってはいられません。しかも毎晩、寝る前に、娘に〝演劇〟をやらされてるんですよ。私が娘の役、娘がエプロンをつけて保育士さんの役をやったりして、娘から「違う!」とダメ出しをされてます。

竹田 私は、デスクトップ型とノート型、両方のパソコンを持っていて、家の中のいろんな場所で書けるように工夫してます。出先で、スマホのメモに書くこともありますね。

 

 

 ――「年に一度」への覚悟


山口 以前拝見した「いびしない愛」には、関西のベテラン俳優、蟷螂襲さん(23年10月に死去)が出演されましたが、登場のさせ方が本当に効果的でした。せりふの量でシーンを回すのではなく、「彼が彼である必要がある」という状態で出ておられました。

竹田 劇団だったら、俳優さんにあえて合わない役をあてるといった実験ができると思うんですが、個人ユニットの公演は年に一度、多くの人にかかわっていただく機会なので、失敗できない。だから私が見た中で一番合いそうな俳優さんに役を当てます。


ばぶれるりぐるの活動について語る竹田モモコ

山口 きっと、その腹のくくり方、覚悟が、作品のクオリティーにつながっているんですね。私にもプレッシャーがないわけではないけど、その覚悟、気迫みたいなものが窮屈に思えてしまうところがあります。

竹田 でも、それが持ち味になっているんだと思います。山口さんの作品にはいつも「この物語って、どこにいくんだろう」と思わせるところがあります。面白そうな道が見えたら、ちょっとそれるかもしれないけど、すっとそちらに行っちゃう、流動的な感じ。そのフットワークは私にはないもので、うらやましいです。山口さんは、私とは違うやり口で演劇と向き合っておられるのです。

山口 私は何に関しても薄くちょっとずつやっていくところがあって、一つのところにぐーっとのめり込めないんです。きっと私の演劇は、120歳くらいになった時に熟すんじゃないかな。だから健康第一に生きようと思っています(笑)。竹田さんの本に「頭をなでてもらえる」感じがするのは、竹田さんが、ぐっと深いところに潜って下さっていて、子育てで深く潜っている私にタッチして下さっているからだと思いますよ。


 ――自身の家族の形も背景に


山口 竹田さんには、ごきょうだいがいらっしゃいますか?

竹田 いいえ。一人っ子です。

山口 そうなんだ。わかった! だから竹田さんは台本で一人遊びをしてるんですね。

竹田 母は早くに亡くなり、父は再婚して別の家庭を持ちました。私はおじいちゃん、おばあちゃん子やったんです。かつ一人っ子なので、空想することで遊んでいました。

山口 私は弟が2人いて、しかも従妹の3人娘と一緒に育ちました。家には父母と祖父母がいて、近くにおじ、おばがいて。常に全員で何かするのが苦じゃなかった。でも一つのことにぐっと潜り込む力は弱いんです。

竹田 私は宴会やパーティーが苦手です。こうして1対1でお話するのは好きなんですが、これが3人、4人になると、もう苦手。

山口 おじいさん、おばあさんは、竹田さんをさぞ可愛いがられたのでしょうね。

竹田 猫かわいがりされました(笑)。私は脳内「お花畑」で、少女漫画を描いたり、女子向けの文庫本を読んだり。だから社会人になって、がっかりしました。世界はお花畑じゃない、自分の中にしかないと気づいて。

山口 ああ、だから優しいんですねー、竹田さんの本は。

竹田 いえ、甘っちょろいだけで。私は、この人がこういうタイミングでこんなことを言ってくれたらいいなあ、と思って書いてるんです。実際には誰も言ってくれないけど。

山口 でも竹田さん自身が本の中でちゃんと言っていますよ。ただ、そこには何かをあきらめたような一抹の悲しさも漂います。深い喪失感がありながら温かい。だから幅広くお客さんが入ってこれるんじゃないかな。

竹田 人は、時間が流れたら、いつかいなくなるじゃないですか。意識していなくても、人の死は心の底の方に積もっていく。そのことが常に心にあって、だからこそ、この瞬間だけでも、心がふわっと軽くなったらいいなという思いがあります。それがじんわりと本に出るのかもしれませんね。

山口 うん、うん、そんな気がします。

竹田 今後は託児室などを設けて、各都市で、お母さん方が公演を見られるような体制を作れたらいいなと思います。今は予算も力もないけど、そうしないと、演劇は先細りになると思うんです。これが今の私の夢です。

山口 今回は、竹田さんとじっくりお話ができて、とても有意義な時間になりました、4月、劇場でお待ちしています!


同時期に関西で活動してきた2名の対談は笑いがたえない和やかな雰囲気で進行した


(取材・文:畑律江、取材日:2/4(日) オンラインにて)


◼︎公演情報

ばぶれるりぐる『川にはとうぜんはしがある』

脚本:竹田モモコ 演出:チャーハン・ラモーン
出演:竹田モモコ、大江雅子、 上杉逸平(メガネニカナウ)、鄭梨花、窪田道聡(劇団5454)

2024年4月20日(土)14:00、21日(日)14:00
会場:メニコン シアターAoi(愛知県名古屋市)
(他、大阪公演、東京公演、高知公演あり)

主催:公益財団法人メニコン芸術文化記念財団

公演情報
https://meniconart.or.jp/aoi/schedule/babureruriguru-sonokawa.html

その他の会場の公演情報は、ばぶれるりぐるWEBサイトをご確認ください。

「川にはとうぜんはしがある」チラシビジュアル(デザイン:チャーハン・ラモーン)

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