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映画『太陽の塔』を、関根光才監督が語る。

THEATRE for ALLの配信作品のアーティストやディレクター、プロデューサーなどをゲストに迎えるオンライントークシリーズ。《アーティストトーク「表現とバリアフリー」 VOL.2 「ALLなカタリバ:映画『太陽の塔』」》

今回は、配信中の注目作品『太陽の塔』を中心に、関根光才監督と、本作をパラブラピックアップとしてご紹介いただきバリアフリー版の制作にも携わっているParabla山上庄子さんをお迎えし、THEATRE for ALL統括ディレクターの金森がお話を伺いました。

(以下はアーティストトークを一部抜粋、編集したものです)

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<下段左:山上さん 下段右:関根さん 上段左:THEATRE for ALL事務局・宮崎 上段右:金森>

関根 光才(せきね こうさい)さん
クロスカルチュラルなストリーテリングと思索的なビジュアルスタイルで、長編映画や短編映画、CM、ミュージックビデオ、アートインスタレーション作品など多岐に渡るジャンルの映像作品を監督・制作している。2005年に初監督の短編映画『RIGHT PLACE』を発表。2008年独立後、国内外で多くの短編映画、CM、ミュージックビデオを監督、世界数都市に拠点を持つ映像制作会社Stinkに参加。2018年、初めての長編劇場映画『生きてるだけで、愛。』で監督・脚本。同年、大阪万博からはじまり、現代社会の構造問題を問う長編ドキュメンタリー映画『太陽の塔』も公開。これまでの国内外での受賞は、CMから映画まで、どれも数えきれないほど多い。現在、長編映画を含めた様々な映像の演出を手がけながら、社会的アート制作集団「NOddIN(ノディン)」でも創作を続け、原発問題や反戦、難民問題などをテーマにした作品を公開している。映像制作会社「NION」(ナイオン)共同設立者。https://www.kosai.info/
山上 庄子(やまがみ しょうこ)さん
Palabra株式会社代表。1983年神奈川県生まれ。両親が映画の仕事をしていたことから、生まれ育った環境には常に映画が身近なものとしてあった。中学生の頃から農業や環境問題に興味をもち、ご縁のあった山形県高畠に通い続けた末、東京農業大学国際農業開発学科へ入学。在学中は下高井戸シネマで映画館スタッフとして働く。向後元彦さんの「緑の冒険」を読み、マングローブという植物やその生態系、さらにはそこに暮らす人々の暮らしや文化に興味をもち、大学卒業後は沖縄へ移り住みNPO法人国際マングローブ生態系協会で研究員として7年間働く。マングローブや環境問題に関する外国人向け研修のコーディネーター、またモルディブやキリバスなどでマングローブ植林事業に携わる。2011年東京へ戻り、Palabra(パラブラ)株式会社の立ち上げに携わる。動画教室事業や字幕制作部門を担当した後、2017年より代表取締役に就任。「令和2年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」内閣府特命担当大臣表彰「優良賞」、「第7回糸賀一雄記念未来賞」受賞。 https://palabra-i.co.jp/

太陽の塔

太陽の塔
https://theatreforall.net/movie/tower-of-the-sun/

楽しい未来の祭典の裏に”真っ黒な冷たい顔”が張り付いていた

金森)本日のゲストは、THEATRE for ALLで配信中の『太陽の塔』の監督である関根さんと、本作品をTHEATRE for ALLの配信作品へ推薦いただいたParabraの山上さんにお越しいただきました。

関根さん)映像監督の関根と申します。これまで、テレビCMやミュージックビデオの監督をしてきまして、2018年からは『太陽の塔』や『生きてるだけで、愛。』など、長編映画の監督もしております。よろしくお願いします。

山上さん)Palabraの山上と申します。私は普段、バリアフリー字幕や音声ガイドの制作を中心に行なっておりまして、このほかにも、チケット購入や劇場までのアクセスなど、総合的なアクセシビリティの改善を目指すバリアフリーコンサルや、音声字幕ガイドアプリ「UDキャスト」の開発運営もしています。

金森)関根監督にはTHEATRE for ALLで現在公開中の対談「2つのQ」にも出演いただいております。そこで「本作品の監督は公募だった」と伺いましたが、そのあたりのお話からお願いできますでしょうか?

関根さん)長年閉鎖されていた、太陽の塔内部のリノベーション(*1)にあわせて、ドキュメンタリー映画を制作する企画がありまして、公募で僕が監督に選ばれて参加しました。映画を作る前の僕は、岡本太郎さんについて、それほど詳しいわけではなかったんです。ただ昔から太陽の塔には、心惹かれるものがありました。万博公園で見ると、太陽の塔の大きさや質量に圧倒されるんですけども、それよりも、ずっと気になっていたのは塔の裏側にある真っ黒い顔なんです。それが、めちゃくちゃ怖い。冷たい顔が裏に張り付いてるんですよね。

僕の知る限り、当時の大阪万博は「日本中から家族みんなで押し寄せて、楽しく未来へ期待を膨らませ祭典を楽しむ」ところ。それに対して、この真っ黒い顔は、何かを突きつける表情をみせているーー。そこには、岡本太郎さんの深い理由があるのだろうなと思いました。ほかにも「屋根を突き破って建てられた」とか、訳の分からない感じも含めて気になり、監督に応募した経緯があります。 (*1)太陽の塔内部は、当時をできる限り再現され、現在は一般公開されています。

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<画像:映画『太陽の塔』より。屋根を突き破っている。>

金森)当初の企画と完成版では、ずいぶんと違うものになったのでしょうか?

関根さん)本来であれば、公募の面接でプレゼンテーションをするものだと思うのですが、僕は作り込まずに「手ぶら」でいきまして(笑)。というのも、映画は監督だけで作るものではなくて、チームアップしてみなさんと一緒に考えながら作るものだと思っているんですね。そして、そこで、僕は「過去の太陽の塔の話ではなく、未来の話をしたい」とお話をして、賛同いただいて一緒にやることが決まりました。

太陽の塔の地下にあった「地底の太陽」がどこかへいってしまった事件など、実は様々なミステリーやエピソードがあります。「でも正直言って、僕はどうでもいいです」と。

それよりも、現代に生きる僕たちや、これから未来を生きる人たちにとって、太陽の塔にどういう意味があるのかを考えていきたいし、それが岡本太郎さんの遺志なのではないかと思っています。

金森)まるで細密画を見ているように、どんどんと細かな世界へ入り込んでいく感じもあれば、宇宙的な視点で見ているような感覚にもなる作品でした。作中のインタビューで登場された方々は、何かに突き動かされて叙述的な言葉が紡ぎ出されているようにも見えます。インタビューの対象者はどうやって選ばれたんですか?

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<画像:映画『太陽の塔』より。菅原小春さんのインタビューシーン。>

関根さん)実際に太陽の塔の建設に関わった方々や、当時の岡本太郎さんを知る方へのインタビューを行いました。人類学や哲学をはじめ、岡本太郎さんの作品が持つ意味を紐解いてくれる方々や、一見すると全く関係がない方もお呼びしています。これは、表現方法は違う方でも、岡本太郎さんの精神性に繋がるような方の視点から紐解いていくと面白いんじゃないかなと考えたからです。予測できないお話をしてくださる方に参加いただいたことで、本当に刺激的な時間でした。一方で、ものすごく情報量が多いので、バリアフリー版の制作を考えるとドキドキしましたね(笑)

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<画像:映画『太陽の塔』より>

コロナで不安な時代だからこそ、希望を持ち未来を考えられる作品を

金森)山上さんがこの作品をご紹介いただいた経緯をお聞かせいただけますか。

山上さん)年間約1,200本もの映画が次々と流れるように日本で公開される中、THEATRE for ALLは動画配信の特徴を活かし、一つの作品をじっくりと繰り返し奥行きを感じながら鑑賞できるところがいいなと感じています。今回お話をいただいたときに「改めて見たい作品」は何かと考えて、一番最初に出てきたのが『太陽の塔』でした。コロナ禍で不安を抱える中、希望があって、この先を考えていく上で助けになる作品ということからセレクトした経緯があります。

バリアフリー版の制作をする際は、何十回と繰り返し一つの作品を鑑賞します。『太陽の塔』は何回見ても、全然違う発見がある作品なんですね。そこがこの映画の面白さなので、ぜひリピート鑑賞をおすすめしたいです。

作品中、画面上に心惹かれる言葉の数々が雪崩のように押し寄せてくるんですけれども、一般の方々からも「字幕版でもう一度見たいなと思って見に来ました」という声をいただいたのが印象的でした。

金森)監督はバリアフリー版制作を振り返ってみて、どういうお気持ちでいらっしゃいますか?

関根さん)プロデューサーの曽根さんから「岡本太郎は壁を壊すスタンスで制作活動をしていたのではないか」と聞き、僕らもそれをどう取り入れるかが大事だと思いながら制作してきました。

バリアフリー版は、色々な人たちに理解されやすいよう、どんどん「易しいもの」になっていくことが多く、それ自体は大事なことだと思います。一方で、障害を持つ人は、その削ぎ落とされていった状態のものばかりに触れているのではないかと思い至ったときに「そうでないもの」に挑戦してみようと思いました。

この作品は、どんなに削ぎ落としても、削ぎ落としきれないくらいの情報量があります。「今までの人生で、こんな映画はなかった」というくらいボリュームがあるので、こんな作品もあるのだと多様なケースに触れてもらうことが、バリアフリーに繋がるのではないかと感じています。山上さんたちに協力いただいた努力の結果が、広く届いていくと嬉しいなと思います。


僕らは精神文化が急激に変化する時代に足を踏み入れている

金森)お話を伺って、この作品は人間の創造性に根本的に向き合っていると改めて思いました。監督はドキュメンタリーを制作する際に、どういったことを大事にされていますか?

関根さん)今回、色々な人たちの言葉を繋いでみなさんの太陽の塔に対する想いを抽出して繋げていくと、一つの物語になったらいいな、と思っていました。同じような手法は、先の参議院選挙で制作した、小栗旬さんや菅田将暉さんが投票について自分たちの言葉で語っているのを繋げた「VOICE PROJECT」でも取り入れていましたが、この原型のようなことを試していました。「筋書き」があらかじめあるものではなく、話されたことの中から真実を抽出して繋げると、ある種の物語になるというものです。

今回の太陽の塔では、みなさんのインタビューを掘り下げていき「人の大意識」に触れる体験ができればいいなと考えています。それぞれ言ってることは全然違うんだけど、どこか共通点があることで「人間が一つである」感覚に触れられたら、岡本太郎さんの精神に繋がることにもなるはずです。

また、みなさんの言葉を切り取るので、そこに対して失礼がないように確認をいただきながら、相違がないようにもしています。「嘘がない」ことが、人の心に届くといいなと思います。

金森)作品の締めくくりは、ほかにも候補がありましたか?

関根さん)実は不思議なことに、当初予想していたエンディングとほとんど変わらなかったんですよ。僕らが頼んだわけでは全くなくて、想像していた方向にみなさんの話がどんどん向かっていって、本当に不思議な体験でした。これも、太陽の塔が照射している先が、みんなのハートの同じようなところをガツンと撃ち抜くようになっているんだなと感じて、すごく面白かったです。

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<画像:映画『太陽の塔』より。現在は渋谷駅にある岡本太郎の大作「明日の神話」>

金森)見る時代によって、太陽の塔が示す意味も変わっているのではないかと感じますね。そして70年代に日本人が思い描いていた未来への期待は、今は形が変わっているようにも思います。コロナ禍により『太陽の塔』が制作された2018年頃からも、短期間で大きく時代が変わりましたが、この作品はどんな意味を持っていると監督は思われますか?

関根さん)どんな意味を持ちうるかは、ご覧になる方それぞれだと思いますが、非常に印象的なのは、コロナ禍で「もう1回上映したい」とお問い合わせが多いことですね。コロナで価値観がガツンと変わって「今まで自分たちが信じてたことは、本当は全部嘘なのかもしれない」と、世界の転覆が起きたわけです。今僕らは、精神文化が急速に変わる時代に足を踏み入れていて、その中で、人は人間本来に立ち戻ろうとしていると僕は思います。

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<画像:映画『太陽の塔』より。太陽の塔の内部。>

そして、人間の命や存在そのものに立ち戻るとき、哲学や人類学、生命学が必要にならざるをえなくなっている。太陽の塔の内部はピラミッド構造になっていて、一番下にアメーバが巨大な存在としてあります。人間はピラミッドの一番上に居るんですが、サイズとしてはすごく小さいんです。この関係は、まさに現代を象徴していて、コロナウイルスというミクロの大きな存在に人間の社会全体を変えられました。岡本太郎さんは、生命の平等性や自然環境との対峙の仕方を考え直すときに来ている現代の僕らに、ドストライクにメッセージを投げかけていると感じています。

「もう1回上映したい」と問い合わせいただく背景には、こういった理由があるのではないかと考えています。

金森)今の時代に対する監督のこういった視点は、ほかでも表現されていらっしゃいますか。

関根さん)「ちいさなものとおおきなもの」という誰でも見れるデジタル絵本を作りました。生命のスケールの差をテーマにした話です。クラウドファンディングで実際の本にもしました。

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デジタルえほん「ちいさなものとおおきなもの」 https://teeny-and-mighty.net/


人間が持つ想像力の豊かさを信頼して作られた映画は「届く」

山上さん)この作品は、ドキュメンタリーでありながら、オープニングから特徴的で、すごく面白い作り方をされているんですが、監督は、あの形は企画段階から考えていらしたんですか?

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<画像:映画『太陽の塔』より>

関根さん)既成概念にチャレンジしてきた岡本太郎さんにならって、ドキュメンタリー映画の既成概念を壊そうと考えていたところはありました。オープニングでは謎の女の子がボロボロの服を着て、荒野に急に出てきます。そして謎の景色がどんどん繰り広げられて行くんです。面白いことに、このシーンは自分の中に突然、降って湧いたんです。監督に決まって半年、岡本太郎記念館の平野館長から本を送っていただき、ひたすらに勉強をしていて、まだ岡本太郎さんが縄文文化を再発見した張本人だと知らない段階で、縄文模様や縄文文化が頭に浮かんできたこともあり、それには後で本当にびっくりしました。岡本太郎さんの「呼び声」がいたるところに込められていて、想像を誘発されたと推測していますが、こうして導かれたことに驚いたと同時に、怖いなとも思いました。

山上さん)字幕と音声ガイドの制作をするとすごく感じるのは、映像はやっぱり「画」と「音」だということです。映画制作の上で、関根監督の音に対する考えがあれば、ぜひお聞かせいただきたいのですが。

関根さん)半々ぐらいの比重で映像と音に気を配って作っています。視覚的な情報は、頭の中でロジカルに咀嚼して解釈するのですが、音に関する情報は、感情に直接訴えてきます。実は人間の感情は、音でコントロールされるので、音の要素は非常に大事です。

山上さん)バリアフリーの制作時、私達が大事にしてるのは、字幕や音声ガイドをユーザーに伝わるようにする「当事者性」と、作家の演出に寄り添って考える「作品性」です。映画が持つ余白は、そのまま伝えたいんですね。字幕やガイドは映画を分かりやすくするためではなく、その余白の先にある自由な想像の広がりを、同じように想像し楽しんでもらいたい。そのためのガイドのバランスは本当に難しいところではあるのですが。

関根さん)そういう風にバリアフリー版を考えてくださっていて、ありがたいですね。実際「優れた映画」と言われる作品は、解釈を観客に委ねているものがほとんどだと思うんです。制作側の意図よりも、いかに自分のものにしてもらえるか。観客へ「あなたの解釈の方が大切です」と期待と愛を込めた開かれた姿勢の作品というんでしょうか。人間が持つ想像力の豊さを信頼して作られた作品は、意外に「届く」と思っています。制作側の意図をこえた自由な解釈になるのは、映画の醍醐味でもありますしね。


あなたはどんなバリアを感じていますか?

金森)最後に、アーティストトークにご出演いただくみなさんにお伺いしているのですが「あなたはどんなバリアを感じていますか?」

関根さん)先日、障害を持ったユーチューバーの高橋尚子さんとお話する機会がありました。彼女は車椅子で生活されていて「周りの人が段差に気づいてくれて、手を差し伸べてくれると、実際に段差はないのと同じことになる」と、思いやりや心の動きで、バリアが消えると伝えてくれました。「この人はこういうことで困るのではないか」「自分が同じ状況だったらどうするか」という想像力で社会や生きやすさを変えていけ、それによりバリアを取っ払い繋がっていけるのではないかと思っています。

山上さん)私は、前回も難しい質問だなと考えていたのですが、バリアという言葉自体がバリアを作り出していると感じています。「バリアフリー」という言葉がなくなるような社会を目指したいですね。

金森)ありがとうございます。我々もサービスを提供する中で、自分たちができることを考えながら日々を積み重ねています。ちょっとした気づきや想像力を使うことが当たり前になる社会が来るといいなと思っています。今日はお二人、どうもありがとうございました。


文:藤 奈津子



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