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改訂版2010年代ベストアルバム. 10~1位

どうも。

では改訂版2010年代ベストアルバム、いよいよトップ10です。

前回から4年後、今回のトップ10はこうなりした!

はい。素晴らしいアルバムがズラリと並びました。早速10位から行きましょう。

10(4).A Brief Inquiry Into Online Relationships/The 1975 (2018)

10位はThe 1975。これ、もう紹介のたびにこの長いタイトル書くの、嫌なんですけど(笑)改めて、「A Brief Inquiry Into Online Relationships 」です。82位のセカンドアルバムのところでも触れましたが、1975、何が新鮮だったかというと、これまでのインディ・ロックが「こういうのは邪道」としかねかった路線でロックの新しいルール作ったとこですね。00年代はじめのロックンロール・リバイバルというムーブメントは、暴力的でマチズモ的に肥大化した「オルタナティブ・ロック」に対して「ロック本来の原点」を示したものでした。その結果、インディ・ロックではガレージロックやポストパンク、シンセポップ、ロウファイ・ギターロックが「好ましいもの」として扱われました。ただ、その結果、サウンドがフォーマット化してしまって硬直してしまったんですよね。イギリスでTwo Door Cinema ClubとかThese New Puritans、Alt Jやら、アメリカでPassion PitとかJapandroid、Best Coastあたりがもてはやされ時代、申し訳ないですけどつまんなかった。彼らにロックの未来託したいとどうしても思えなかった。そこに1975は80sのソフィスティポップという、音楽史の盲点になってたところをついて、それで面白がられたんですよね。Tears For FearsとかPrefab Sprout、Blue Nileみたいなヤツですね。そして、そこは当時に日本で人気のあったところでもあり、本国イギリスでのように軽視されていたところではなかった。それでのしあがったのが痛快だったところにマティ・ヒーリーが「現代版のロンドン・コーリングを作る」と宣言して有言実行したのが本作でしたけど、これも輪をかけて愉快でね。ソフィスティポップ路線に社会的メッセージを乗せてみたり、トラップやネオソウルへの接近、ジョイ・ディヴィジョンやレディオヘッドへのオマージュまで。これだけのことが出きるバンドって今も本当にないし、すごい実力です。今回、ランク下げたつもりないんですよ。前回のランク、良くおぼえてなかったので。おそらく前回って、世界の媒体の年間ベストでロック軽視が酷くて、それに怒ってこれをロックの筆頭格にしたはずです。今回思い直して、これより評価上にしたロック・アルバムを2つ思いついたのです。昨今のマティの言動トラブルは無関係なのでご了承を。

9(5).Blonde/Frank Ocean (2016)

9位はフランク・オーシャン、2016年の傑作「Blonde」ですね。これ出たときは僕、しばらく毎日聴いたくらいハマりにハマったのを覚えていますね。21位にした「Channel Orange」もいわゆる「ベッドルーム・クラシック・ソウルの傑作」だったんですけど、前作の場合はその言葉でいうも「クラシック・ソウル」の方の比重が高かったアルバムだと思うんですね。今作の場合は「ベッドルーム」の方の比重が高くなってて、タイムレスなメロディも相変わらず冴えているんですけど、その音の鳴りかたの不思議さだったり、曲の構造の複雑さとか、そっちの方に耳と心を奪われましたね。この言い方、よくしてるんですけど、「世界一高価なデモテープ」みたいな究極なロウファイ・サウンドなんですけど、そのスカスカの音を作るのに恐ろしく金を賭けた感じがするというか。そして、表現難しいんですけど、ここでしか鳴ってない、ケミカルな音の質感があるんですよ。あれに妙な魔力があってね。それで曲調はソウル離れてスティーヴィー・ワンダーからバカラック、トッド・ラングレン、エリオット・スミスみたい「コードの鬼」みたいな人を踏襲したみたいな曲かいてるし。これ、ポップ・フリークにはたまらない展開なんですよね。ハマる人続出したの、わかります。ただ、前作同様、ライブを前提としては全く考えられていないので、そこで問題。それが今年のコーチェラのステージだったわけですけど、まあ見たけど、擁護しようとすればするほど「何を言ってるんだ。王様はなんと素敵な服を御召しになっているではないか」という感じにしかならないので、あまり引っ張らない方がいいと思います。別にそれでこの名作に傷がつくわけじゃないしね。


8(69).Starboy/The Weeknd (2016)

8位ザ・ウィーケンド。今回のランキングでいくつかを大躍進させてますが、実はこれこそが筆頭格。前回の69位から、一気に61ランク上がってのトップ10です。こうなったのには理由があります。ひとつは、海外評価の流れが時代の流れにそぐわなくなったと感じたことです。欧米の媒体だと、彼の評価が「インディ時代の初期EP三枚セットのTrilogy、もしくはその1番最初のHouse Of Baloonsこそを評価すべきだ」というものでした。2019年の頃は僕も同調してTrilogyを22位で評価して、こっちの評価を下にしてました。ただ、ここ最近の彼の状況を見るに「今の彼を導いたのは、本当にTrilogy なのか?」との疑問が湧いたわけです。あの三部作に注目してたのなんて、今の彼のファンの数からしたら微々たるものしかないですよ。たしかに2015年にアルバム「Beauty Behind The Madness」から「Can't Feel My Face」や「The Hills」が「今様マイケル・ジャクソン」のイメージで一気に一般的な人気アーティストとして大ブレイクしたとき「裏切られた」と思った昔からのファン、多かったことは事実です。2019年の時点までは、そのインディからのファンの怨み節が少し残っていたことはたしかだと思います。しかし、20年代最大ヒット曲の「Blinding Light 」が入った「After Hours」、さらに次作の「Dawn FM」はバカ売れしてかつ批評的にも好評でしたけど、あれはTrilogyの頃に立ち返ったからこの評価になったのでしょうか?あるいは、この二枚で急に一皮向けてのさらなるステップアップ・ブレイクだったのか?明らかに違うでしょ。その2枚の下地には明確に今作「Starboy」があるし、そこからの発展系じゃないですか。彼のR&Bの中にかねてからあったニューウエイブの要素はダフト・パンクと組んだこのアルバムでこそ大きく拡大されたし、彼が見せたアリーナ・スターとしての適正能力の高さもこのツアーの際に見せたものです。先日行ったアリーナ・ツアーも本当に素晴らしかったのですが、今や彼のサウンドはNothing But Thives やBad Omensといった、人気が着実に上がってきている次世代のアリーナ・タイプのバンドに強い影響力を与えるまでになっています。そして、彼のベスト盤「The Highlights 」は今や定番人気作として世界中でベストセラーとなってますが、そこからtik tok人気も加わって遅れてシングルヒットしてるのも「Die For You」など、このアルバムの曲です。まだ30代の若さでベスト盤が人気というのは彼が当代最高のソングライターと認められた証拠だし、その影響力がロックバンドにまで及んでいる。そんなの評価されて当たり前じゃないですか。あと、さきほどのフランク・オーシャンのところで「ライブの悪さが作品を貶めることにはならない」と書きましたが、近い力の持ち主でライブでの実力もあるならそっちの方を評価したいので、抜かさせていただきました。

7(1)To Pimp A Butterfly/Kendrick Lamar (2015)

7位はケンドリック・ラマー、前回1位の「To Pimp A Butterfly 」、これがこの順位となりました。これはサプライズとして受け止めてる人、多いかもしれません。ただ、これは今回のランキングを決める際、何位にするかは決めてなかったんですけど、1位から外すことは最初から課題として思っていたことです。もちろん、このアルバムの重要性に関しては今日まで疑ったことはありません。Black Lives Matter(BLM)の気運が高まる中、そこに対して強烈な反黒人差別のメッセージを、この時代きってのコンシャス・ラッパーがアメリカ黒人の出自の時点から歴史的な観点にも立ち返った形で冷静かつ力強いアンサーを行った。これまでの音楽史の中でもヒューマニズム溢れる声明を行った作品はカーティス・メイフィールド皮切りにスライ、マーヴィン、スティーヴィー、ボブ・マーリーにパブリック・エネミー、NWA、トゥパックと出てきてはいましたが、ここまでタイムリーなさくひんもそうあるものではなかった。加えて、この作品に参加したサンダーキャット、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントンといったジャズ系のミュージシャンに対して、多少意識高いタイプのリスナーが彼らに対して興味を抱くようになったことも良いことだと思います。僕自身も「Alright 」「King Kunta」「I」と、愛してる曲も多いです。ただ、「そういうアルバムだからこそ、いつも聴きたいか」と言われたら、そこに素直にウンと言えない自分がいたことも実は事実です。言いにくいですが、聴いてて飽きる瞬間がちょっとあって。むしろこの前後のアルバムの方が聴き飽きの要素少ないんです。それはどうやら僕だけの話ではないようで、この前後のアルバムの方がチャートにおいてもロング・ヒットしていて、今作やサウンドの質感の近い昨年の「Mr.Morale & The Big Steppers」みたいなアルバムの方が早くチャート圏外になってファンの間で長く聴かれない現象があったことも前から知ってました。さらに言えば、今作の曲がライブのセットリストで最多となる組み方をされたこともないんですよね。そこで思うのは「普遍的なポップスとしての力」がこのアルバム、少し落ちるのかな、ということ。プラス、そうした格式の高いアルバムということで、それ以前からの普通のヒップホップ・ファンが、評判聞いてかけつけた違う人種の、時にスノッブにも映るファンを敬遠してるのかな、ということですね。たしかにロックファンでもこのアルバムしか知らない人とかいますしね。「おまえがケンドリックの何を知ってるんだ」と思うような人がいても不思議ではないんですよね。そこらで一度、冷静になるのもいいかなと思い、今回は下げてみた次第です。

6(7).Currents/Tame Impala (2015)

6位はテイム・インパーラ。2015年の傑作「Currents 」が入りました。このアルバム、今でこそその評判を色々耳にするアルバムになってますけど、2019年当時の各媒体の世代ベストで評価が低く、当時かなり憤ってました。僕はその時から高く評価してて7位にしてました。僕の気持ち的にはもっとあげても良かったくらいですよ。このアルバム、8年たった今でもビルボードのアルバム200位にたまに再登場するくらいのロングヒットになってるのもすごいんですが、具体的な数字を言っておくとですね、収録13曲中9曲で一億ストリーム超えしてます。しかも「The Less I Know  The Better 」に関しては14億ですよ。ものすごい聴かれ方です。特にtik tokでの聴かれ方がすごくてそれで若い人に浸透してる感じです。11歳のうちの息子にとっても重要作になってようですしね。僕は彼らはこの二作前に出てきたとき、フレーミング・リップスとかMGMTのセンスを70s前半に寄せた感じですごく趣味が良いなと思って、この前作の「Lonerism」の直前にサンパウロ公演で来たときにトッド・ラングレンの「Wizard, A True Star」の冒頭の「International Feel」をカバーしたのを見たときに「ああ、このセンスなら間違いない」と確信。このアルバムでELOとピンク・フロイドと今日的なミニマルなエレクトロ・ミュージックを融合させた雄大な音楽表現に圧倒されました。そのセンスはマニアだけでなく、リアーナやレディ・ガガとのコラボを通じてもっと大衆的なイメージの音楽ファンにも10年代の中頃にはすでにリーチしていて。それが今も拡大傾向なのは言うまでもありません。2020年の「Slow Rush」に続く新作がいつ頃聴けるのか。現時点ではわからないし、それはすぐではない気もしています。ただ、次に新作が出る頃には、もう彼らを迎え入れる体勢が音楽リスナーの中でかなり大きなものになってることは間違いないと思いますよ。

5(21)When All Fall Asleep Where Do You Go/Billie Eilish (2019)

5位はビリー・アイリッシュ。長すぎて繰り返したくないタイトルですが(笑)、要はデビュー・アルバムです。このアルバムは2020年2月のグラミー賞で、史上2度目の主要4部門制覇を達成したということで、それだけで歴史に残りそうなアルバムではあります。前回のランキングはそれが起こる前のもの。「伝説には残りそうだけど、リスト作成の年にリリースだし、今あまり高くつけすぎても」と自重の気持ちが働いての21位。今見ても、すごく様子見な感じの強い順位だったと思います。ただ、僕にとってはグラミーの結果とかではないですね。このアルバムが重要なのは、作られたタイプでは全くないアーティストが、すごく低年齢層にまでインディ・テイストの暗い音楽を浸透させたこと。まさにそこしかないし、それこそがものすごく重要なことです。そうなりそうな予感はリリースの前年、2018年のときからあったんですよ。「When The Party's Over」と「You Should See Me In A Crown」の2曲が全米の総合とオルタナティブ・ロックのチャートでそこまで上ではないものの同時にヒットしていて。あの時点でビリーは16歳で、前のEPがジワジワとロングヒットしてた頃。「ああ、これは来るな。そろそろ本格チェックしとかないと」と思い、「プロデューサー、誰なんだっけ」とクレジット調べたら、「えっ、誰だこれ?えっ、実の兄さんなの!」と驚いて、そこから俄然本気になったんですよ。そして、年明けて「Bury A Friend 」、それも「友達を埋めろ」という、待望のアルバム直前に似合わない不穏な曲を聴いたときに、「ああ、もうこれは間違いない!」とニヤリ。あとはもう、詳しく言う必要はないでしょう。彼女の存在はそれこそ、一昔前のフィオナ・アップルとかポーティスヘッド、そしてこの10年でのラナ・デル・レイやLordeが表現したものを何も知らない女の子にまで浸透させたことがあまりに大きいです。Lordeでさえインディロック風に見えたところが、ビリーはそういう風にも見えなかったですからね。若いポップスターから、背徳の美学が知らぬまに浸透していくようなそういう危うさを感じさせて。図らずもアルバム直前の時期に「ブレイク直前のニルヴァーナがまさにこんな感じだったんだ」と発言。「なんでもロックの手柄みたいに結び付けるのもどうか」なんて批判の声もあがったんですが、ロックかどうか関係なく「ヒットチャートの中に明らかに異質なものがひとつ混ざっていて、それが何か変えそうだ」という意味では、これ、「一致」と呼んでさえ良いと思いますよ。その後も成功しようがなんか満たされない、長いものに巻かれない地に足のついた言動がビリーから聞こえてくるので、僕としてはかなり安心して見ているところでもあります。

4(3).Lemonade/Beyonce (2016)

4位はビヨンセ。作品はもちろん、2016年の「Lemonade」です。前回も3位。ほとんど評価を変えていません。ケンドリックのTo Pimp A Butterfly のところでも言及しましたけど、TPABが今の時代のマーヴィン・ゲイでいうところの「What's Going On」みたいな作品なら、この作品は「現代版スリラー」ですね。R&Bに地盤をおきながら、ロックを含めあらゆる音楽にトライするような包括的な内容で。カントリーまでやってますからね。ジャック・ホワイトやヴァンパイア・ウィークエンドのエズラ・コーニッグ、ジェイムス・ブレイクも参加してたのでロックファン的な食いつきも良かったですね。まさにマイケル・ジャクソンが「スリラー」でTOTOやエディ・ヴァン・ヘイレン起用した感じにも似ていて。それで歌詞の方も、それこそケンドリックを招いた「Freedom」でアメリカ社会が抱える社会問題にメスをいれながらも、「Formation」で夫ジェイZの浮気を公開断罪するかかあ天下ぶりも見せるなど、対社会のシリアスなことから私生活のゴシップまで網羅した内容でね。こんなに広くエンタメに徹した作品もなかなかあるものではありません。もっともケンドリックのTPAB以上に、この作品の優先順位、ビヨンセの中では低いです。ライブのセットリストでの頻度も高いことがこれまでないし、ファンもこれまでと比べて曲調の違いに戸惑うのかヒット曲はないんですよね。ただ、彼女の場合、音楽の趣味的なコンフォート・ゾーンが広い人とは決していえず、それがある時期の音楽的停滞も招いてはいたので、これぐらい無理して広げた方がキャリアのためには絶対良かったと思うし、それでこれまで「ポップスターなんだろ」とばかりに無視していた人を振り向かせるのにも成功したんだから、必要な過程だったとは思いますね。その意味では、「現代版ドナ・サマー」みたいな感じで、自分の叔父さんへのオマージュも込めて先進的なもの作った昨年の最新作「Renaissance 」の方が彼女自身にはより合っているんだろうとは思うんですけどね。

3(8).AM/Arctic Monkeys (2013)

3位はアークティック・モンキーズの「AM」。これもTame Impalaの「Currents 」同様、いやそれ以上ですね、各媒体の世代ベストの評価が著しく低く、ものすごく憤ったことを覚えてます。リリース当初に10点満点与えたNMEが1位にしたほかは100位にさえいれてないところが珍しくなくて。「ロック低評価にするのも大概にしろよ」と、ときの勢い任せの評価にすごい疑問を感じたものでした。これについて、僕に関しては「手のひら返した」なんて決していわせない自負はあって、それは前回の8位という数字にも現れてますが、今考えても、それでも控えめだったとさえ思いますね。だって、出たときのブラジルのメディアの騒ぎ、すごかったんですから。地元のロック系のラジオ、「R U Mine」「Do I Wanna Know」「Why Do You Only Call Me When You're High」「Snap Out Of It」の4曲は年がら年中ラジオつけると必ずかかってたし、「新たなロック名盤誕生」の勢いでしたよ。イメージとしては、ビートルズやストーンズの頃のロックをイメージさせながらも、同時にブラック・サバスを彷彿させるフィジカル的にヘヴィな重量感を持ち、歌詞を読むとパンク/ニューウェイブ以降の知的さがある。しかもスカッとする曲が多く、アンセムになりやすい。そうしたこともあって、まずこのアルバムは「最後のクラシック・ロック」としての信頼感がまず強いんです。そして、それだけじゃない。このアルバムは下の代からの推しも強い。tik tokは楽曲登録ないはずなのでそこ経由ではないんですが、Spotifyのストリームでは延々聴かれ続け、ライブで披露されたことがなかったはずのラスト・チューンのバラード「I Wanna Be Yours」が17億ストリームを記録して現在もヒット中。全12曲中10億ストリーム超3曲の全曲1億ストリーム以上。全英チャートで10年以上100位圏外への陥落がなく、全米チャートでも最新チャートで282週200位内に現在もランクイン中。ものすごい影響力なんですよ。もう今となっては、このアルバム全体に漂う、そこはかとない中毒性の高さでも論じた方が良いかもしれません。とりわけあの心地よい重低音。解明できずに僕もなかなか名状できないんですけどね。

2(12).good kid MAAD City/Kendrick Lamar (2012)

2位はケンドリック・ラマー。今回7位に落ちた「To Pimp A Butterfly」と入れ替わって、その前作にあたる今作が12位から浮上してきました。先ほども言いましたけど、ビルボードではこのアルバムがオンチャート582週を数え、これの2作後の「DAMN」が349週でまだアルバム・チャートのトップ100にランクイン中で、TPABは200位圏外に姿を消してかなり久しい状態が続いています。ただ僕としてもこのデータに何も追随したわけではなく、実は前回のランキング作成時から自分の中で感じていたことでもあったんですよね。前回これを12位にした際、このアルバムを聴きながらランクと文章つけて紹介しました。これはLA郊外のコンプトンで、周囲の人たちの生き方になんとなく流され、ときに悪さもしながら過ごしていた少年がそれを乗り越え行く過程を描いた、いわば「NasのIllmatic の現代版」みたいなアルバムなんですよね。TPABみたいに社会的、哲学的なものではないんですが、劣悪環境からラッパーを目指すことに集中して悪い誘惑をシャットアウトした自身の自伝的話ということもあり、すごくリアルで引き込まれるものがあったんですよね。あと、トラックそのものも、僕がいちばんヒップホップにハマってた90sのヴァイヴが感じられて楽曲としてすごくこなれた良い意味でのポップ感があって(逆にポップ感あってもトラップ色の強いDAMNは好みでなし)。これを聴きながら、「順位決めちゃったあとだけど、トップ10入れ直せないかな」「もしかしたら、僕は本心ではこっちのアルバムの方が好きなのかも知れない」と思いながらTPABの1位を紹介していたといういきさつが、実はあったのですよ、ハイ。10年代前半インディ・ロックの多くを20sの勢いあるアーティストたちと代えること、2016年的ヒップホップ・ユーフォリアからバブルになってきた部分をスリム化させること、「AM」と「Currents」の改めての重要性の再主張、そして世情に流されボウイの「Blackstar」とLordeの「Melodrama 」、そしてケンドリックのTPABを、僕自身が本当に好きな方より上にしてしまったことへの悔恨。それこそが今回、僕にこの改訂版の作成に向かわせた具体的な根拠だったのだなと、自分でも改めて感じる次第であります(笑)。断っておきますけど TPABが好きじゃなくて理屈だけで評価してるとか、そういうのではないんですよ。機会あったら歌詞を見ながらこのアルバム聞き返してください。言ってることが少しわかってもらえるかもしれないので。

そして、お待たせしました。残るは1位。これです!

1(2).Born To Die/Lana Del Rey (2012)

ということで1位はラナ・デル・レイで「Born To Die」です。「そりゃ、あんただから、そうだろう」と思われてそうですが(笑)。まあ、そりゃそうでしょうね。私的オールタイムでも限りなくトップ10に近いレベルで愛聴してる作品だし、このnoteでも何度でも言及している作品ですからね。この作品がいかにクラシックかも改めて言うまでもないかもしれません。さっきのケンドリックのアルバムも500週超えて全米アルバムのトップ200に入り続けているんですけど、このアルバムも515週でチャートイン中。イギリスのトップ100でも230週入ってます。あとストリームでもアークティックの「AM」同様、収録曲が全て1億ストリームを超えています。それでも前回はこのアルバムを2位にするの結構勇気いったんですよ。それは本作が「孤高」と立ち位置の作品であり、「シーン」を背後に抱えたものではないと思っていたから。ところがこの数年を見てください。このアルバムの抱えていた「女性のダークネス」は、自らフォロワーを自認してるビリー・アイリッシュを介し一般的なものとなっている上に、フィービー・ブリッジャーズやミツキを筆答して「サッド・ガール」と呼ばれるブームまで起きるに至っている。今やラナはその流れの源流とでもいえる存在にまでなっています。

そして、このアルバムの何がすごいかというと、これ、実はものすごくわかりやすいことでもあるんですよ。例えていうなら、バート・バカラックとかエルトン・ジョン、ビリー・ジョエルといった巨人たちと近いレベルの普遍的な名曲のメロディが書けることがまず一点ですね。欧米だと、エレベーター・ミュージックとか歯医者の音楽とか電話の待ち受け音楽とかそういういわれ方もしますけど、そういうものに選ばれておかしくないような普遍的なメロディを彼女は書けるんです。それは「Video Tapes」にせよ「Born To Die」「Blue Jeans」「National Anthem 」、そして「Summertime Sadness」、いずれもそうです。そこに、語感として優れた言葉を乗せることが出きる。それは言語の響きと文学やポップカルチャーの粋な引用、乙女の外側・内側の美しさを示す魅惑的なものから、そうしたものを一切破壊しかねない暴力的で悪魔的なものまで。言葉に関しては、この両極の操りによって生まれる背徳性が見事で唯一無二ですね。しかも、この先の歴史で彼女は本作レベルのものを極めて短期の間で量産できる力さえある。彼女がしばし「天才」と呼ばれるのはそうした所以ですね。

そうした圧倒的才気が最初から素直に認められなかった負の宿命を背負わされたのもこの名作の運命でした。リリース2週前の2012年1月14日に放送された「サタディ・ナイト・ライブ」のパフォーマンスでラナは酷評を受け、それでこの名盤があたかも駄作で、業界が仕込んだまがい物であるかのような評価を下されてしまいます。間違いなく、この10数年の世界のエンタメ界がおかした最大級のミステイク。並みの人ならそれで潰されていたところ、このエピソードが本作の持つ「禁断の果実」のような手の出しにくい神秘性を高める役目をいみじくも果たしてしまい、長らく本作を「影の名盤」扱いに不当にさせてきたのも、ある種の運命だったのかもしれないですね。



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