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調査趣味誌『深夜の調べ』第1号関連記事

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調査趣味誌『深夜の調べ』第1号で紹介しているnoteの記事をまとめました。 雑誌とともに参考いただければ幸いです。
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記事一覧

『日本人は何を捨ててきたのか』鶴見俊輔・関川夏央に関するメモ④―『影往テレスコープミュージアム』と杉山龍丸の党派性

 少し前に購入した『影往テレスコープミュージアム VOL.2 机上のユートピア』という雑誌(表紙もすごいので以下に写真を載せたい。)を読み進めているが、黒幕ちゃんさんの投稿された「夢野久作と地方創生」という記事で夢野久作の孫の方や地域の歴史資料の保存に関わっていらっしゃる方へのインタビューが掲載されている。この記事の中で夢野久作の子供でインドの緑化に大きく貢献した杉山龍丸のことも紹介されているので、私もこの人物のおもしろいエピソードをひとつ紹介したい。  『日本人は何を

佐渡の郷土研究者・青柳秀雄の所蔵していた『二戸郡の植物地方言』―青柳秀雄宛のハガキを読み解く

 先日、古本即売会の帰りに神保町で買い物をしていたところ驚きの掘り出し物があったので紹介していきたい。ある古本屋の棚をあさっていたところ、『二戸郡の植物地方言』藤原純蔵編(福岡尋常高等小学校理科研究部、1931年)という本を発見した。聞いたことのない本だったので奥付を確認したところ非売品と書かれていたため、貴重なのものであると判断して購入することにした。以下に写真で本の写真を掲載しておきたい。 本の内容は各植物の学名と方言での呼び方がリスト化されており、五十音順に並べられて

集古会の会員だった木戸孝允の養子・木戸忠太郎―すごすぎる『昭和前期蒐書家リスト』より③

 何回か拙noteで紹介したように、『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(編集:トム・リバーフィールド、監修・解説:書物蔵, 2019年)は眺めているだけでおもしろいが、眺めていて私にとって再び新しい発見があった。 この本には、木戸孝允の養子でダルマの蒐集家であった木戸忠太郎が掲載されているが、引用元が『千里組織』(集古会, 1935年)となっているため、木戸忠太郎は集古会の会員であった。『追憶の柳田國男 下野探訪の地を訪ねて』中山光一(随想舎, 2

集古会の会員だった南方熊楠の高弟・上松蓊―すごすぎる『昭和前期蒐書家リスト』より②

 以下の記事でも紹介したように、『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(編集:トム・リバーフィールド、監修・解説:書物蔵, 2019年)は眺めているだけでおもしろいが、今回眺めていて私にとって新しい発見があった。 この本には、南方熊楠の粘菌研究の高弟である上松蓊(しげる)の名前も登場する。本の中では、上松の名前の典拠は「1935千里」、「1938古通」とされており、引用されている本の正式な書名はそれぞれ『千里組織』(1935年)、『日本蒐書家名簿』(1

大物趣味人・伊藤喜久男の生没年が判明

 伊藤喜久男は旅の趣味会を主宰、戦前から戦後にかけて様々な趣味誌に投稿、自らも『旅の趣味』、『蒐集時代』など様々な趣味誌を編集・発行していた蒐集趣味会の大物として知られている。伊藤の調査は串間努が行って、伊藤の小伝を彼の編集していた雑誌『旅と趣味』第6号(2011年)に発表しているが、串間の調査によれば、伊藤の生没年は不明であるという。松本喜一が編集していた『蒐集趣味雑誌』に伊藤が連載していた「東京蒐集家列伝」があるが、第2巻第4号(1937年)にこの連載の第3回として「自己

実は発行されていた?雑誌『化け物研究』―『列伝体 妖怪学前史』伊藤慎吾・氷厘亭氷泉編を読んで

柳田国男が「妖怪談義」の中で以下のように言及している雑誌があるが、この雑誌の詳細は分からず、私の中で疑問のままであった。 先日、この雑誌の詳細が、『列伝体 妖怪学前史』伊藤慎吾・氷厘亭氷泉編(勉誠出版、2021年)で紹介されているのを知った。この本によると、『化け物研究』は盛岡の方言研究者・橘正一によって発行が計画されていた雑誌であり、栃木県の高橋勝利の発行していた『芳賀郡土俗研究会報』2巻3号(1931年)に広告が掲載されているという。そして、この雑誌は計画のみで発行され

江戸文化研究者・松川弘太郎の『江戸時代語研究』第3号に掲載されている加賀紫水の『土の香』の広告

 以下の記事で紹介した江戸文化研究者・松川弘太郎が編集していた雑誌『江戸時代語研究』の第1巻第3号(1935年6月)、第4号(1935年10月)もかなり前に購入したものがあるので紹介していきたい。以下に写真と目次を掲載しておきたい。  個人的に興味深いのは、第1巻第3号に松川も投稿していた加賀紫水の編集していた雑誌『土の香』の広告が掲載されていることだ。以下に写真を掲載しておきたい。『土の香』は地域で発行されている貴重な土俗趣味研究雑誌であり、商業的でなく趣味的であることを

謄写版職人・本山桂川、加賀紫水の雑誌『土の香』に物申す!

 本山桂川は、『謄写版印刷術の秘訣』(崇文堂、1926年)、『最新謄写版印刷術』(崇文堂、1939年)と謄写版印刷に関するノウハウ本を出版するほど謄写版印刷に精通していたが、以下の記事で紹介した『史談と民俗』第一冊(日本民俗研究会、1934年)の「謹告」には当時何冊も発行されていた民俗学・郷土研究の謄写版雑誌に関する本山の評価が謄写版印刷の観点から述べられており興味深い。以下に引用してみたい。 謄写版印刷といふものは何と云っても便利で重宝なものです。これまでも手刷機械として

斎藤守圀と柳田国男を結ぶ縁―すごすぎる『昭和前期蒐書家リスト』より

 先日、1年越しに『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(編集:トム・リバーフィールド、監修・解説:書物蔵, 2019年)を入手した。この本は約1年くらい前の文学フリマで販売されていたが、当時何らかの理由で私は文学フリマに行けなかったので、代わりに友人に購入してもらっていた。すぐに受け取るはずであったが、例のウイルスに伴う混乱など紆余曲折があり、受け取りが非常に遅くなってしまった。先日ようやく受け取った次第である。(遅くなってしまいたいへん申し訳ありませ

スタンプ蒐集家・今井源之助が編集した『全国蒐印趣味家名簿』

 拙noteでは以下の記事で紹介したようなあまり手に入らない蒐集家名簿を紹介してきたが、今回は『全国蒐印趣味家名簿』今井源之助編(神戸スタンプ同好会、1936年)という蒐集家名簿を紹介したい。この名簿は『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(編集:トム・リバーフィールド、監修・解説:書物蔵, 2019年)でも紹介されていないものである。以下にいくつか写真を掲載しておきたい。 神戸スランプ同好会に関しては、名簿内に述べられているので以下に抜粋してみたい。

復刻された蒐集家名簿『和漢楽(わからん)』

 以下の記事で紹介したように、『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(編集:トム・リバーフィールド、監修・解説:書物蔵, 2019年)は様々な蒐集家、蒐書家名簿を合わせてリスト化したものであるが、この本の書物蔵さんの解説に蒐集家名簿のひとつとして『和漢楽(わからん)』(和漢楽、1930年)がある。私が確認した限りでは、この名簿は国会図書館サーチでも所蔵が確認できずめずらしい名簿であると思われるが、書物蔵さんの解説によると、この名簿は復刻されたことがあるよ

忘れられた郷土玩具蒐集家にして大物趣味人・鷲見東一小伝

1. はじめに―当時の有名趣味人? 昨年久米龍川が編集していた雑誌『郷土風景』(後に『郷土芸術』と改題)を以下の記事で紹介したが、この雑誌の創刊号に鷲見東一という人物が投稿している。 この記事を投稿した当時は特にこの人物のことが気にならなかったが、後に加賀紫水の編集していた雑誌『土の香』に鷲見がいくつも文章を投稿しているのを発見してからこの人物のことが気になり始めた。そこで雑誌記事索引データベース「ざっさくプラス」で確認すると、鷲見の投稿していた雑誌が少なかったため、当時も

考古学研究者・大場磐雄が発行していた謎の民俗研究誌『土の香』―正体不明雑誌の存在を実証する

 先日更新した以下の記事で『変態崇拝史』斎藤昌三(文藝資料研究会、1927年)に引用されている『土の香』が加賀紫水の編集していた『土の香』ではなく別の雑誌であり、この雑誌は『民俗学』赤松啓介(三笠書房、1938年)が言及している「「土の香」(横浜)」ではないかということを推測した。 上記の記事を更新した後に戦前の民俗学関連の雑誌には、以下に紹介したように寄贈雑誌・図書一覧が設けられていることが多いので、もしかしたら同時期に発行されていた民俗学関連の雑誌に斎藤が引用した「土の

斎藤昌三が『変態崇拝史』に引用している幻のもうひとつの『土の香』?

 Twitterで金沢文圃閣が書誌学、性に関する文化の研究・蒐集など様々な仕事をした斎藤昌三が発行していた趣味誌『おいら』、『いもづる』(以毛図流)の復刻を出版するという情報を目にして、(私のまわりだけかもしれないが)斎藤昌三が今話題なので私も斎藤に関する話題を取り上げたい。  斎藤の著書のひとつで梅原北明たちが企画した「変態十二史」シリーズの第9巻として出版された『変態崇拝史』(文藝資料研究会、1927年)(注1)には、性に関する信仰の先行研究を行っていた雑誌のひとつとし