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「もしも東京」展は地球を巡回してほしい

浅野いにお/安倍夜郎/石黒正数/石塚真一/市川春子/岩本ナオ/太田垣康男/大童澄瞳/奥浩哉/小畑友紀/黒田硫黄/咲坂伊緒/出水ぽすか/萩尾望都/昌原光一/松井優征/松本大洋/望月ミネタロウ/山下和美/吉田戦車

20人の漫画家が「自分の脳の中にある東京」をテーマにイラストやマンガを描き下ろした展覧会「もしも東京」が東京都現代美術館で開催中。

メンバーが豪華すぎるのもそうだけど作家さんの「現役感」がすごい。萩尾先生みたいな巨匠もいらっしゃいますが大半が今まさに脂が乗ってます!という連載中バリバリの作家さんたち。よくぞ集めたなあ。

オリンピックに合わせての開催なのでここまでできたろうし、ということはなかなかこの先同じようなことはできないし、本当は日本を訪れた異国インバウンドの方々にたくさんたくさん見てもらう予定だったと思うのですが、それは叶わなくなった今、少しでも多くの日本人で鑑賞したい。そしてあわよくば日本にきてもらうことが叶わないならば、なんとか世界を巡回する展覧会になってほしい。そんな気持ちを込めながら、感想を書き残そうと思います。

浅野いにお『TP』:短編読み切りマンガの原稿が横並びに展示。コロナを受けた近未来の東京を精緻な描写で。浅野さんらしいエモなオチが切なく刺さる。
安倍夜郎『我が心の新宿花園ゴールデン街』:カラーイラスト4点。ゴールデン街の風景は実に深夜食堂。締め切りが1年伸びたにも関わらず締め切りを過ぎていちばん最後に原稿を出したというエピソードも実に芸風。
石黒正数『密林食堂』『もしも、東京』:自伝的マンガとカラーイラスト1点。写植を貼ったアナログ原稿では上京からこの東京を生きた軌跡が描かれ、カラーイラストで近未来の立ち食いうどん屋が描かれる。どれだけアップデートされても生活の中のリアリティってのは出ますよね。
石塚真一『Tokyo Sound』:ブルージャイアントの巨大イラストインスタレーション。配置された中庭の温かみあるコンクリ感とマッチしててかっこいい。サックスには東京のエッセンスがびっちりと描き込まれてました。

市川春子『TOKYO20202 GOURMET/SPOT/HOTEL』:カラーマンガ。とはいえ大きな原稿に細かく描き込んで「展示される」醍醐味を十分に味合わせてくれる。近未来、異星からバーチャルに構築された東京を観光にきた宇宙人のスライスオブライフ。数ページのマンガなんだけどその世界観の巨大さ!画力も合わせて一生見てられる!

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岩本ナオ『海が見える大井町』:短編マンガ作品。東京で交わされる神様の末裔と白狐の道ならぬ恋。岩本さんらしい可愛らしくて冒険であったかくなる逸品。アナログ原稿なので凝った写植の貼り方とアシへの指示なんかも見れて楽しい! ↓ちょっとだけ

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太田垣康男『the next day』:自伝的カラーマンガ。上京してきて初めてアシスタントをはじめたご本人の思い出が語られる。絵がめちゃめちゃ上手い太田垣さんが師匠や先輩達に上手い上手いと感動しきりで、どんだけやねん!と昭和のマンガ職人達に想いを馳せる。東京はすごいとこに違いないと信じて上京してきて、割と普通で生活的だと感じた石黒先生とやっぱりめちゃめちゃすげえ!と感じた太田垣先生の対比も面白い。ご本人達もおっしゃってるが、東京はどこに住んだかでだいぶ印象の変わる町。
大童澄瞳『East East』:イラストのインスタレーション。流れる水の上に配置されたアクリルに描かれたファンタジックで浮遊感あふれる近未来生物たち。ピロティ部分の静けさや水の音と相まったまるで日本美術のような「枯れ」の美学に包まれる。

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奥浩哉『東京フィレンツェ化計画』:秋葉原に巨大な美少女の銅像があったら、というまさに「もしも東京」なイラスト。実写とイラストを混ぜる技法がめっちゃかっこいい。奥さんの脳内が現実に溢れでたら……という先生らしいアプローチでした!

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小畑友紀『願い』:イラストと詩。マスクが白い鳥に例えられ、男の子の口から飛び立っていき、舞うたくさんの白い鳥はやがて桜になる。小畑さんが「東京」からビジュアルとして連想したイメージは無意識に都の鳥ユリカモメと都の花ソメイヨシノへ着地したという興味深い作品。

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黒田硫黄『 天狗跳梁聖橋下 てんぐのあそぶはひじりばしのした』:屏風!お茶の水の「あの橋」が描かれています。形式と文化と土地と芸術と…古きと新しきが混じり合う、これは実に東京!

咲坂伊緒『星の王子さま』:短編マンガ。この展覧会屈指の挑戦作。咲坂さんぽい甘酢っぱ学園マンガだな……と思いきや。咲坂さんこういうの描くんだ!という驚き。アナログ原稿の配置の仕方もテクニカルになってて、唯一展示の進行方向が定められている作品でもあり、すべてに意味がある。ひとつのジャンルで頂点やられてる方がゲストで別ジャンルに来たときの凄みですね。
出水ぽすか『ここにいる街』:イラスト集。いやすごい。「お茶いれるから座ってて」「こんな日に授業なんて」「引っ越しシーズン」「僕はデートがしたかった」こんなステキなタイトルのイラストが全部めちゃくちゃ不穏!!!ゾーン全てがめっちゃ不穏!!!ぜひタイトルを頭に入れてから各イラストを見ると。いやすごい。「約束のネバーランド」は出水先生の可愛らしいのに不穏という作風が炸裂してたんだよなあ、という事実を再確認。

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萩尾望都『江戸〜東京300年マーチ』:1枚カラーイラスト。雑誌のピンナップぽい感じ。1964年から2021年が1枚の絵に落とし込まれていて。東京のカオスをギュッとした作品
昌原光一『江戸×東京 ジオラマ合戦』:横つながりの2枚絵。現代的な技術で江戸のジオラマを作る東京の子供達と、伝統的な技術で東京の絵を描く江戸の子供たちがお互いを眺め合っているという入れ子構造の作品。感じたものを描くというよりも表現をするということに重きを置いた作品。本展は実にアプローチがバラエティに富んでいる!
松井優征『東京の脅威とギンギンの未来』:美少女とマッドな博士、ロボットに変形する都庁……都庁ロボは超巨大展示にしてもらってます。本展でいちばん楽しそうw

松本大洋『東京の青猫』:萩原朔太郎の詩にイラストをつける。詩の展開とともに流れてゆく東京の風景。そして1匹の青猫。萩原さんの世界観なのでもちろん古い東京を捉えているのですが、松本先生は千代田区生まれらしく、どこか捉え方が都会的。



望月ミネタロウ『丹下健三の東京計画1960』:カラーイラスト2点。建築家丹下健三が1960年に発表した東京湾の海上に都市を作るという壮大な計画について。なるほどまさに「もしも東京」。自分のもしもでなく他人のもしもをテーマにとてきたところがまたこの展覧会の幅を広くしている。よくもここまで話し合って分担したみたいにアプローチが散るものです。

山下和美『世界は変わっても生活は変わらない、という夢』:3枚のイラストを立体的に組み合わせた作品。手前には美しい東京の端正な街並みが。奥には空を飛び交う山下先生のキャラたちが。山下先生は古い建物の保存運動に携われているそうで、その問題意識からできた作品だそうです。

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吉田戦車『好きな東京』:吉田先生も上京してきた当時の自伝的短編マンガ作品。上京してきた人たちはやはりその時が強く思い出に残るんだろう。かわうそ君もカブトムシの斉藤さんも出てきてファンにはたまりません。なお、吉田先生にとって今の東京は自身の出身岩手県と奥様伊藤理佐先生の故郷である長野県の真ん中の街、という位置付けだそうです。そういう言い方も吉田先生らしさでいいですよね。

こんなご時世ですが、観れる方にはぜひ観てほしい展覧会でした。無料ですが密にならないように完全予約制。お出かけの際はまず予約してからで!



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