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2021年のwebtoon②:ストレージ型読者とクラウド型読者

近年のマンガ業界は電子書籍市場のおかげで大きく発展したのですが、少し解像度を上げて分析すると「ストレージ型読者」を攻略していった歴史であると言えます。

そもそもの始まりは紙の市場において「雑誌が売れなくなった」ことです。
マンガは様々な角度で2種類に分けることができるのですが、そのひとつが「雑誌で読むか/コミックスで読むか」です。
昔、雑誌が充分に売れていた頃は雑誌だけで成立しているマンガがたくさんありました。黒字の雑誌に載っているマンガ作品はそれだけでビジネスとして成立していますし、コミックスを出さないことも多かった。中堅版元に多かったパターンです(対して大手版元は雑誌自体は赤字で発行し、コミックスでその赤字を回収しながら黒字を出すビジネスモデルですね)。
このビジネスモデルが、出版不況になり雑誌が売れなくなったことで崩壊しました。

雑誌単体では黒字が確保できなくなったので、雑誌上で人気があった作品を終わらせてコミックスが売れそうな作品を作り、今までコミックスを重視していなかった版元も強くコミックスを意識して雑誌を作っていくようになります。当然、より雑誌が売れなくなる要因ともなってしまうのですが背に腹は、ですね。

同時に電子書籍ビジネスが勃興し、電子書籍でもやはり雑誌は売れずコミックスばかりが売れたことから、マンガ業界はどんどんコミックス中心のビジネスに傾いていきます。

コミックスを買う、ということはいつでも好きな時にその作品を読み返したり、所有することそのものに価値や喜びを見出したり、まさしくそれはストレージ的な消費であり、コミックス派の読者とはすなわち「ストレージ型読者」と言えると思います。

近年、オンラインでもオフラインでも徹底的にこの「ストレージ型読者」を狙ったビジネスモデルが成熟し、市場を急成長させていくなかで、しかしそこの成長率はやはりどこかで鈍るもので、ほんの少しの上げ止まり感が出てきたいま、市場に登場したのが韓国でレジンさんが発明し、日本でピッコマさんが完成の域にまで持ち込んだ「待てば無料」モデルだったのです。

「待てば無料」はつまり出版界が「コミックス派=ストレージ型読者」に向けてのマーケティングに特化したが故に大量に取りこぼすことになった「雑誌派=クラウド型読者」を再び獲得する手法なのではないでしょうか。
「コミックスとして作品を保持するユーザ」「いつでも読み返せることにお金を払うユーザ」ではなくて「1度しか読まないし、作品を保持しないユーザ」を出版界は「定期刊行誌」という形で確保していました。しかし、雑誌ビジネスの衰退とともにいつしかそのタイプの「クラウド型読者」たちはマーケットから消えてしまっていた。いや、ニーズはあるんだけどそこに届ける方法がなくなってしまっていたということですね。

そう考えると雑誌という媒体を持たなかった韓国で、クラウド型読者を獲得する手段として待てば無料が生まれたことは必然だったのかもしれません。
「待てば無料」は韓国及びグローバルに広く存在する、所有としてのマンガではなくその場のコンテンツ消費、ゲームや映像やSNSと可処分時間を奪い合うような、としてマンガを読む層でのマネタイズとして機能するとともに、日本へ上陸して空白となっていた「雑誌しか買っていなかった」クラウド型読者たちを大きく掘り起こすことになってのではないでしょうか。

そう考えると、その雑誌連載しか読まなかった元祖クラウド型読者たちに重きを置いていた「漫画サンデー」の看板作品「静かなるドン」が待てば無料で大ヒットしたのはもはや必然以上のものです。

そして、おもに雑誌を読むことでマンガを消費していたクラウド型の読者たちも、特にお気に入りの作品に関してはコミックスを購入するストレージ型の消費行動を行います。ジャンプ+だけ毎日無料で読む読者が「鬼滅の刃」だけはコミックスを購入するような。そしてその中のさらに一部の読者はクラウド型消費からストレージ型の読者へ転換することも起こります。これがピッコマ金社長言うところの「縦マンガのユーザが横マンガを購入し始める」仕組みです。

さらに「待てば無料+アプリ(スマホ)」に特化したUIとしての縦スクロールマンガ表現が突き詰められるうちに、余録としてグローバルの読者にリーチしやすい表現が獲得されました。横スクロールの日本のマンガ独特のコマ割りは慣れてない人には読みづらい、縦スクロールの方がわかりやすい、という説明も間違ってはいないのですが、それよりも縦スクロールになったことによる「左開きからの解放」の方が大きいのではないかと感じています。コマ割りという独特の技法もそうなのですが、それよりも欧米を中心に世界各国右開きの本の方が圧倒的に多い中でのマンガの左開きはまさにガラパゴスです。よってグローバルに対して翻訳本を作る際には左開きそのままでいくか右開きに変更するか選択を迫られるのですが、どちらを選んだにせよ読者にストレスをかけることになります。これが縦になって全くなくなるというのが相当大きなことではないかと。
フルカラー化やファンタジー設定(異世界転生モノ、悪役令嬢モノの流行)による文化ギャップの希薄化などもグローバル読者へのストレスフリーが志されている一環でしょう。

というわけで結論として、

「待てば無料」とは近年失われた「雑誌だけ読む」「クラウド型の読者」をあらためて獲得するビジネスモデルであり、
「縦スクロールコミック」とはその待てば無料とアプリ(スマホ)に最も適したUIでありつつ「フルカラー」「右開き左開きからの解放」「スクロールドリブン」「ファンタジー設定」といった「グローバルでストレスの少ない」性質を獲得した作品群である。
また縦スクロールというUIはあくまで「スマホ」に最適化された表現であり、そういった表現形態よりも「待てば無料」という「アプリ」に最適化されたビジネスモデルが新しいマーケットを切り開こうとしている。

そしてそのことにより、

世界中に存在するクラウド型読者がストレスフリーなUIと「待てば無料」モデルによって掘り起こされて、その中の一部がコミックスを買うようなストレージ型読者へと転換され、結果縦と横、待てば無料とアラカルト販売、ふたつのマーケットが大きく発展する。

ということが起こるんじゃないですかね。


2022年は受注元のフーモア、発注元のDMM.comのお手伝いを通じて、縦スクコミックや待てば無料サービスの発展、ひいては既存の横マンガの更なる発展に関わっていくくことになるようです。
新年から新しく作られた縦スクコミックがどんどん配信になりますし、プレイヤーとしてもなのですがまず読者として実に楽しみですね!


最後の一つはこれもまたマンガ界の課題感の一つである「表現規制」にまつわる活動です。

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