見出し画像

調整力の本質

UXデザイナーをしていると、戦略レベルの議論から実装中のアクシデント対応に至るまで、多くのフェーズで無数の調整業務を経験します。

今回は、ビジネスパーソンに必須スキルとされている「調整力」を具体化します。
巻き込み力に関係する話も多くあるので、こちらも合わせてお読みください。


調整の本質は、関係性を対立から協力に変えること

利害の不一致が発生したとき、調整が必要になります。たとえば、なんらかの事情で納期を早めないといけない状況が発生したと仮定します。

納期を前倒しして欲しいディレクターと、事前に取り決めた納期を守りたいデザイナーの関係性は対立状態です。お互いに「どうしたら自分の主張を通せるか」「どうしたら相手から譲歩を引き出せるか」に焦点を当て、相手を説得しにかかります。

そして対立関係の結末は、割合の差はあれどどちらかの主張が通り、もう一方が損をする形で終わります。

この対立関係を協力関係に変えていく力が調整力です。

調整の概観を図にするとこうなります。

協力関係では、二人の間に引かれていた対立軸がずれて、目線が共通の解決するべき課題に向いています。そのため、相手は敵対者ではなく課題解決に手を貸してくれる協力者になります。
そして協力関係の結末は、互いに得する形か、少なくとも互いに納得した結果に終わります。

この対立から協力への関係性の変化こそが調整力の本質です。僕はこの変化を「対面から隣に座る」と表現しています(打ち合わせでは本当に隣に座るときもあります)。

関係性は課題と解決策の質、そしてビジネスの持続可能性に影響する

対立するよりは協力する方が良いというのは直感的に理解できますが、ビジネスの側面からも大きな意味があります。

それぞれの関係性のメリットデメリットを一覧にした図がこちらです。
対立関係のデメリットの視点から内容を見ていきます。

対立関係のデメリット1:課題の質が下がる

対立関係では、相手は打ち負かす対象です。
そうなると、自分が持っている情報は駆け引きの材料になり、相手が有利にならないよう開示する情報を最小限に絞る力学が発生します。

結果、出てくる情報量の総数が少なくなり、本当に解決すべき課題を見つけられないリスクが高まります。

対立関係のデメリット2:解決策の質が下がる

対立関係である以上、相手の積極的な協力は望めません。
情報量の不足に加え、解決策を考えるリソースも自分ひとりだけになるため、良い解決策が見つかる確率が下がります。

対立関係のデメリット3:関係性が持続しない

この関係性のまま事態の解決を試みたら、どちらかが割を食う結末になります。
割を食った方は当然面白くありません。もう二度と相手と一緒に仕事をしたいとは思わないでしょう。どれだけ気を遣った勝ち方をしても、相手はしてやられた感を拭えず、最悪の場合は恨みを買うことにつながります。相手によっては今後のビジネスの持続可能性にも影響するため、長期的に見て無視できない要素です。

協力関係は課題と解決策と関係性の質の全てにプラスに働く

協力関係はこの逆転現象が起こります。協力関係は互いに情報をオープンにし、知恵を出し合うため、課題と解決策の質の向上が期待できます。

そして互いに共通の課題に取り組むため、結果がどうであれ良好な関係を維持できます。

以上の理由で、調整の本質は関係性を対立関係から協力関係に変えることだと言えます。

関係性を協力関係に変化させる2ステップ

対立から協力へと関係性を変化させるポイントは、対立軸をずらすことです。大きく2ステップに分けて考えます。

ステップ1:理解者であることを示し、安心させる

最初に、相手の向かい側から隣に座ることを目指します。

調整する側もされる側も、相手からどんな要求が飛び出してくるか身構えているものです。怯える人もいれば、なんとかしてやり込めてやろうと鼻息を荒くする人もいます。

なので、自分は敵ではなくこの難題を共に切り抜ける仲間であることを示し、感情を落ち着かせる必要があります。こちらのポジションを明確に伝えるだけで、相手は安心してその後の会話に集中できます。

課題解決に長けた人は、最初から詳細情報をヒアリングしたくなるかもしれませんが、その後のコミュニケーションコストを下げる意味でも、会話の最初に伝えるべきです。

同じ理由で、初期段階で相手の要求に対して明確な判断を伝えるのは避けましょう。最初にNOと伝えてしまうと、相手のスタンスが一気に対立モードに移行してしまいます。

例:
相手「クライアントの偉い人が急にデザインを自分で確認したいと言い出して、納期を1週間前倒しにできませんか?」

🙅‍♀️「無理ですよ!こっちはスケジュール通りにやってるんだから、そっちもちゃんとクライアントコントロールしてくださいよ!」
🙆「ディレクターさんも大変ですね……調整お疲れ様です。状況は理解しました。どうすればディレクターさんの問題を解決できるか一緒に考えさせてください!正しく理解するためにいくつか聞いてもいいですか?」

ステップ2:解くべき課題を再定義する

相手の隣に座れたら、次は互いを見ていた目線をずらして同じものを見るように働きかけます。

具体的には、一緒に解くべき課題を定義します。今の論点をベースに議論するのではなく、「なぜその問題が発生しているのか」から考え、本当に解決するべき課題を設定しましょう。

そのためには互いに持っている情報は全てシェアすることが必要です。一見すると関係ない情報でも、解決の糸口につながる可能性があります。様々な切り口から情報を分析していきます。

このとき、調整当初の課題を継続して議論してしまうとどちらかが譲歩しないといけなくなり、隣に座った意味がなくなるので注意してください。

例(続き):
相手「その人は前のプロジェクトでひどいデザインを納品されたことがあるらしくて、自分の目で品質を確認しないと嫌なんでしょうね……」

🙅‍♀️「そうなんですね……。一週間は無理でも3日なら前倒しにできるかもしれないので、それでもいいですか?今日は徹夜ですね…」
🙆「もしかして、我々のデザイン品質に対して安心してもらえば解決ですか?過去の類似案件のアウトプットを共有したり、途中段階ですが今までできているものをご説明すると安心してもらえるかもしれません」

調整とは、理想を描く仕事

「さっきの話、調整しておいて」

これが、社会人生活で最初に僕がもらった業務でした。

何をしたらいいかわからず、とりあえず関係各所に話をしに行くも一蹴され、右往左往する毎日。
そんな僕が上司からもらったアドバイスが、「何をどうしたいか、お前なりの理想を描け。それを因数分解して話してこい」でした。

調整業務は面倒くさくて嫌な思いをするだけの仕事に思えるかもしれません。
事実そういう側面もあります。実際は今回のnoteほどスムーズには進まず、机を叩かれたり怒鳴られたり、場合によってはそもそも相手が話し合いの椅子に座ってくれないこともあります。

しかし、調整とは本来、理想を描く仕事です。一人では成しえない大きな成果を目指すために、大きな目標を相手と共有する営みが調整なのです。

調整をただの利害調整と捉えず、抱えるミッションも考え方も違う人たちと仕事をする楽しさに目を向けて、これからも調整したり調整されたりしながらやっていきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました!

最後までお読みいただき、ありがとうございます!投稿のお知らせや日頃の気づきを呟いているTwitter( https://twitter.com/thin_valley )も、よろしければご覧ください。