下流 :解説

下流に転がっていた石を見て、綺麗に丸く整った形になっていたのが悲しくなった。
少し前の上流で見た石はゴツゴツと凹凸があってかっこよかった。
削り落とされた欠片も想像できないほど、すっかり綺麗に整ってしまった石。

上流に行って川に飛び込んだ私。澄んだ綺麗な川の音が聴こえる。「落ちないでね」と心配する声は私には届かなかった。私はもう速い川の流れの中にいるのだ。

上流の石の魅力に吸い込まれるように引き込まれた。
私が飛び込んだ飛沫が立つ、惚れ込んだゴツゴツした石にぶつかる痛みが心地よく感じた。まるでサーカスのように川の流れと石の転がる音が聞こえて、下流に向けて転がる石(ゴツゴツしている)と共に流れていた。

鼻や口から石を丸くした川の水が入ってくる。感覚が研ぎ澄まされていく感じがする。それは流れて落ちる私の体が川と石と一体化しているせいなのか。
石の先端は次第に丸く削られていく。
流れて転がる石(削れてきている)を撫でている。
無くなってきている先端の欠片は、
(私にとっての)何かの出来事に対して集まる野次馬の民衆(まるでパスタ)を絡めとるフォークのようだった。

上流から流れる石は下流に流れるにつれて丸くなってしまうという常識的な真実を感じていた。
しかし、私のゴツゴツした石であって欲しいという妄想と事実は食い違っている。丸まった石が出来上がる場所には、私は進めないような気がした。
川で屈折した太陽の光に照らされた私は、まだ削られていない上流の石のままだった。(こんなに流れてきても、本当の気持ちは削られる事は無く、変わる事はなかった)
嘆かわしく思っている、丸くなった石に私の想いは届く事はない。石たちは速い流れに乗ってどんどん削られてしまう。上流から下流に流れる石が削られて丸くなってしまうのは変えようのない事実で、世界の常識だった。

やっぱり私は上流のゴツゴツとした石に魅力を感じていた。流れも落ち着いてきて、川で立つ飛沫は緩やかになっていた。ゴツゴツとした先端がかっこよくて、まるでサーカスのように川の流れと石の転がる音が聞こていた上流の記憶を思い出しながら、私は速い流れに逆らえず流れていった。

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