グッてくる話

平日の大型ショッピングモール、昼。14:46。昼食を終えた会社員がデスクで眠気と闘っている時間帯だ。

「けい〜。あのさ、普段生きててさ、不意に『うわっ、なんか良い。グッとくるわ』みたいなことってあるやん?俺はさ、ロングコートからはみ出すスカートの裾とか、さ。ああいうはみ出しているもの?っていうんかな。なんかグッてくるんよな。」

また始まった。裕二はこんなことばかり言ってくる。

「まー、ロングコートのことはあんまり理解できんけど、わかるな。」

「そやろ?あるやんそういうの。なんか全員に刺さるわけじゃないけど、嫌なこととかだるい気持ちが吹っ飛ぶくらい刺さるあの感じ。」

「そこまでなんや、なんか若干怖いけど。」

「まーまー、そういうお前もなんかあるやろ、ほれ、恥ずかしがらんと言うてみい。ほれ、ほれ。」

「今更恥ずかしないけど別に、うーん…。あ、あー俺はな、マスク着けること多なってきたやん?ほんで今って人前でマスク外すことがちょっと恥ずかしくなったりしてきた頃やん?」

「ほんほん。」

「別にマスクの中が気になるとかそういう話じゃなくて、なんやろ、ご飯とか食べる時にその隠してる目から下の自分の顔を公衆の面前に晒すって言う行為がさ、ぎこちなく外す感じとか、めっちゃグってくるなー。」

「………。」

「………何で静かなんねん。」

「……いや、なんか、普通に怖いって、いやまあ分からんこともないけどさ、なんか、なんかな。」

「えぇ…お前が言えゆうたんやんか…」

「いや、そやなごめん。受け入れるわ。でもさ、今出た2つのやつってさ、俺のとか特に女の人のスカートの裾がはみ出てるのとかが良いって思うわけで、男のロングコートからパンツの裾出てるのとかはなんも思わんねんな。服のサイズ感とかも大事やし。」

「はいはい、多分くびれとかでキュってなってて、そこから広がるコートのさらに下のスカートの広がりってことやな?」

「そうそう!そう言う感じやわ。わかってるやん〜!髪の毛とかもピシってしてたら尚良いな。圭のマスクの話も、正直異性のとか、マスク美人とか、自分がちょっとマスクの下に向けての好奇心とか、みたいな条件がいるんやろ?多分そう言うことやろ?」

「いや、それは違うな、おれはマスクを外す人の気持ちとかを考えた上で、その瞬間に生まれる恥ずかしさとか、周り見渡す感じとか、口モゴモゴしてちょっと良い顔作ろうとしてるとことか、その人とその人の周りの空気感みたいなのを感じ取ってグッてくるねんな。やから条件として強いて言うなら、何もなくマスクをスって取られたりとかされたら別に何も思わんかな。」

「うん、やっぱ怖いわ。受け入れられへん、キャパオーバーや。」

「えっ」

「あ、焼き鳥の屋台来てるやん、久々見たわ、食って帰ろうや。」

「えっ、おん、まあええけど。」

「何しよー俺、ネギついてるやつ食いたいな。」

「あれのタレめっちゃ美味いよな、俺も食おうかな。」

「いや、あれは塩やろ。」

「いやいや、お前あれはタレやろ。」

「いやいやいや、お前さあの鳥とネギっていう組み合わせはシンプルに食べる方が.........」

「もー、また話し合いなるやん、おっしゃ、やったろうやないか。」

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