「キャリア教育 based 原体験ドリブン」 高校生向け原体験ドリブン実践報告
以前、中学生・高校生へのキャリア教育に関して一般的に欠けていると感じる視点
といったことを起稿させていただき、ありがたいことに大変反響をいただきました。
本稿では、実際に高校生に対して行った原体験ドリブンの内容について詳しく書いてみようと思います。
「キャリア教育 based 原体験ドリブン」
キャリア教育において、実現すべきは生徒の幸せな人生。幸せの人生の定義は様々あるかと思いますが、私は
「しっかりと自己実現を果たせている人生」
と言えると思っています。
そう考えてみると実現したい自己が見えていなければ、そもそも幸せを考えることはできないのです。したがって、キャリア教育には「未来を想像させる」ことと「自分自身の価値観を知る」ことの両輪が必要である、というのが私の考えですが、現在学校では「未来」に偏りすぎていると感じます。
原体験ドリブンを行い、今の自分を形作っている原体験を考えることで自分自身の価値観を知ることができる、そう考え高校生へ原体験ドリブンのワークショップを行いました。
※原体験ドリブンについては、「チカイケ秀夫」さんの以下の記事、書籍を参照ください。
実践報告
進行案
ワークショップ作成時の懸念
①時間が短すぎる
LHRの時間で行うため、ワークショップの時間は45分しか取れません。短かすぎるということは案作成時から分かっていました。限られた時間で効果を出せるかは正直不安でした。
②ペアワークで問題は起きないか?
原体験ドリブンをペアで行うには、ある程度の自己開示が必要となります。ペアワークを行うとすると問題が起きないか?あるいは恥ずかしがってきちんと自己開示できず、効果が上がらないのでは?個人ワークのみにすべきか?と最後まで悩みました。結局好きなもの同士で良い、また無理しなくても良い、という条件で行うこととしました。
③真面目に取り組めるのか
そもそも高校生がこうした自分自身の深堀りを真剣に行えるのか?照れて適当なことを書いて終わりにしてしまうのではないか?という懸念も当然ありました。有用さを理解し、真剣に取り組まなければ意味はないのでここも不安でした。
実施状況
上記のような不安を抱えつつも進行案を作り実践してみることに。どうしても時間は1コマ45分しか取れず、その中でできる限りのことを行うこととしました。
1.導入
原体験ドリブンの目的・方法を説明し、自由にペアを作るよう指示
→ペア作成・机の移動
→ワークシート配布
生徒は素直に聞き動いてくれました。担任しているクラスなので私(ファシリテーター)との関係性が出来ており、かつこれまで何度かワークショップや特別授業を行い、興味を持っている生徒が多かったということもあるかと思います。(10分)
2.個人ワーク
机はペアの状態で個人ワークを開始。まずは「基本の3項目」を直感的に書いてもらう。(3分)
その後、一旦全体に向けて「深掘り」の方法を、下の例をプロジェクターで示しつつしっかりと説明。
難しい!という反応を予想していたが、それほど戸惑っている様子はなかった。そこで早速先ほどの「基本の3項目」から1つを選び、深掘り開始を指示。(10分)
多くはスムーズに進んでいるようで、良い雰囲気。数名なかなか進まずヘルプを求めてくる生徒がいたので個別に対応。それぞれ簡単に1 on 1 で問いを立ててあげるとコツを掴んでいたようだ。
3.リフレクション
一度ワークシート全体を俯瞰して眺め、あらためて出てきた原体験、自分自身を見つめ直す。
「意外な自分に気付いたことは?」
「久しぶりに思い出したことはなかったか?」
という問いを立て、じっくりと考えるよう指示。
クラス全体が集中状態で、極めて良い雰囲気となった。生徒の心に刺さっている!という実感を持つ。(5分)
4.ペアワーク
次にペアでお互いに深掘り。ここは簡単に「1人が自分の原体験について相手に説明して、聞いた方は気になった点を質問してみて」という程度の説明に留める。その際自分の内面の話を開示することになるので、無理はしないこと、答えにくいことは答えなくて良いこと、否定しないことを伝え、ワーク開始。(5分×2)
こちらも予想以上に順調に進んでいた。自己開示についてもあまり気にしている様子なく、かなりプライベートなことまで踏み込んで話している生徒も複数いた。男子生徒2名が、ここで緊張が切らしてしまい残りも真剣に取り組めなくなってしまったのが残念でしたが、全体としては素晴らしい状況でした。
5.リフレクション② ※予定していたが、実施できず。
ペアワーク後、他者からの視点をもらった後にどう感じ方が変わるのか、リフレクション①と同様に俯瞰する時間を取りたかったが、実際には時間が来てしまい実施できずにまとめに入りました。本当はここが面白いところであったので、残念。やはり時間は短すぎました。
実施後の反応
実施後の主な生徒の反応は以下の通り
進路、将来について、なぜこう思っていたのか理由が分かった。 (確認):6割
意外な自分が出てきたから進路、将来についてはもう1回考え直したい。(発見):2割
余計自分の将来像が分からなくなった。原体験と整合性がない。 (混乱):2割
まったく効果がなかった、何をやっているか分からなかった、という反応の生徒がいなかったのが驚きであった。
原体験ドリブン実施後①
面談や進路相談のときに、自分の原体験の説明、そう考えた理由を先に言うようになった。多くの生徒が「今の自分を形作っているもの」を考えるクセが付いたようだ。
原体験ドリブン実施後②
後日、今度は未来を見せるワークショップとして、ONE CAREER さんの YouTube動画「いきなり最終面接」を見て気づきを話し合う機会を持った。
そこで面接官が質問している姿を見て、原体験を聞かれている!と気付き、これから大人になっていく過程でしっかりと「自分は何者なのか」を問い続けなければならない、と自覚してくれた生徒が多かった。
さらに、合計5名の生徒が 1 on 1 で原体験ドリブンをやって欲しいと自ら申し出てきた。それぞれ放課後に、90分〜120分ずつ実施。全員涙を流すところまで深掘ることができ、1名は現在も継続して行っている。
原体験ドリブン実施後③
「原体験」「未来ヘのキャリアワーク」を繰り返し行ったことが心に刺さり、将来教師になって、これを生徒たちにやってあげたい!と言う生徒が出てきた。
まとめ
実施してみた感想は「思った以上に生徒の心に刺さっている!」です。実際に生徒の行動が変わり(上記の面談等)、多くの生徒が「面白かった」「またやりたい」と言ってきました。
ただしこれは、比較的落ち着いた素直な生徒たちであったこと、担任との良好な関係がすでにできていたことが大きかったのではないか、とも感じています。
今後初めて会った学生たちに、単発で効果を出せるワークショップにしていきたい、と言うことを考えると、まだまだ研究・改良が必要だと思います。
また、本来教育とは単発の授業で作るものではなく、幾つものことを複層的に組み合わせて行うものです。今回生徒のポジティブな反応を引き出せたのも、その他の企画含めバランス・タイミングよく教育をデザインできたことが大きかったと感じています。
反省点
やはり時間は短すぎた。90分から100分が適切だと思われる。
ペアにより深掘りのレベルは変わってくる。当然、効果や納得具合には差が出る。これは1対多数で行うワークショップでは仕方のない部分ではあるが、効果的に行っていくためにはどうすれば良いのか考えていくべきところだと思う。
今後について
予想以上の効果を実感でき、正直自分自身驚いているくらいです。「原体験ドリブン」というピースを得たことで、学校教師として行うキャリア教育のデザインが1つ確立した、と感じます。
次の目標として
1.周りの先生に良さを伝え、巻き込み実施できる先生を増やしていく
2.ワークショップ単体として完成させ、学校外へも「学生への原体験ドリブン」を広めていくこと
を考えており、これからチカイケさんや仲間たちと一緒に研究を進めていきたいと思います。
これを読んでご興味を持たれた方は、ご連絡いただければできる限りのシェアをしていきたいと思います。また、ご意見あれば、ぜひいただきたいと思っております。
長い文章をお読みいただき、ありがとうございました。
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