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ひかりごけ 1992 日本ヘラルド

いつもnoteを読んでばかりで申し訳ないので、大昔に見た映画に関するつまらない文章だが、一つ置いておきます。

スタッフ
監督 :熊井啓
製作 : 内藤武敏 / 相澤敏
原作 : 武田泰淳(1954年発表の紀行文、小説+と戯曲のミックス)
脚本 : 池田太郎 / 熊井啓


キャスト

三國連太郎(船長、校長(二役))
奥田瑛二 (西川)
田中邦衛 (八蔵)
杉本哲太 (五助)
内藤武敏 (作家)
笠智衆(裁判長)
井川比佐志 (検事)
津嘉山正種 (弁護士)

 

戦争中に実際に起こった人肉事件を元にした、武田泰淳の昭和29年の名作小説(と言っても戯曲の形式も取っている)を、元劇団民藝の俳優内藤武敏が製作し映画化した。主演は彼の親友三國連太郎

ストーリー


作家は北海道で、ある校長と出会う。
校長は、天然記念物のひかりごけを見せてくれた。
そして戦争前にその地で起きた事件を語りはじめる。


真冬の北海道知床。
軍属の漁船がペキン岬で遭難し、船長と三人の乗組員が雪に閉ざされた洞窟に逃げ込む。
マッチがあったので、暖を取ることは出来たが、食物は何もない。
岬は人里から40キロも離れていて、助けを求めることは不可能だ。
やがて五助が死ぬ。船長と西川は死んだ五助の肉を食う。
八蔵だけは、五助の生前に、彼が死んでも肉だけは食わないでくれ、と約束していたので食わなかった。
八蔵は、西川の頭の回りに光の輪を見た。実際に光っていたのは、ひかりごけであった。

そして栄養失調で八蔵が死ぬ。船長と西川は、八蔵の肉を食った。
西川は、次は船長が自分を殺して食うんじゃねえかと、疑心暗鬼になる。
彼は海に身投げして死のうとするが、船長ともみ合う内に誤って死んでしまう。
結局、船長は西川の肉も食う。
船長はとうとう一人になってしまった。
このまま死を待つぐらいならと、雪の中を出発して、40キロ離れた村に奇跡的にたどり着く。
船長は他の三人のことを黙っていたので、村では船長の生還を祝った。
しかし夏になって、村に大事件が起きる。


雑感


劇団四季では、昭和30年に既に上演していたそうだ。
当時の劇団四季はフランス近代劇を中心にやっていたから、レパートリーとしては珍しかった。
でもこの作品は、そんな芝居と近いところがある。四季の演出家浅利慶太の言うとおり、極限状態におかれ神の不在としか言いようのない状況で、人を食う人間を誰が裁けるのだろうか。


この船長は平成元年まで生きていたそうだ。43年間生きていたわけだ。
私は、生き残る人間と死んでいく人間は定まっていると思う。
生命力のある人間は、人の肉を食ってもちゃんと消化して生きている。
こういう話は決してレアではない。
大岡昇平の「野火」のように南方戦線やシベリア抑留など人を食わなければならなかった事件は多発している。
登場人物のうち、西川は、屍肉を食ったが自己嫌悪に陥り結局死んでしまう。
八蔵は、屍肉を食えたのに食わずに死んでしまう。
五助は、何もしない内に最初に死んでしまう。
この四人の中で誰に自分は近いだろうか?


映画としては、はじめの洞窟でのシーンが面白かった。
しかし裁判シーンになると戯曲的になって、いかにも新劇を見せられてると言う感じが出た。(原作の通りなのだが)


その中でも笠智衆の裁判官は救いだった。このあと「男はつらいよ 寅次郎の青春」に出演したのが遺作といなったようだ。
三国連太郎と笠智衆の絡みは見応えがあった。


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