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ゆりこみ堂

ゆりこみ堂 『郷土の民話』中播編 
一人の虚無僧が大山の地蔵堂で一夜を明かすことにして旅装を解いた。夜気の中、尺八を吹いていたが、いずれ眠気が来て、眠りが訪れた。ふと気配に気づき、そちらを見ると月明かりの中に、障子を通して女性の影が見えた。障子を開けると一人の娘が立っていた。
「わたしはこの近くに住んでいる者ですが、あまりに美しい尺八の音を聞きましたので、家を出てきてしまいました。もう一曲お聞きしたいのですが、申しあげかねますので、このまま帰ります」と娘は言った。

僧は深山幽谷のみ聞いていたと思っていたので、人が聞いていたのが嬉しく、娘に尺八を吹いて聞かせた。娘は一曲聞いてから自らが川の主であることを告げ、それを他人に話さないようにと言って去っていった。

翌朝、僧は高熱におかされて、起きることもできなくなった。
村人は僧が病に倒れたことに気づき、あれこれ尋ねるが答えなかった。しかし、熱のせいか、ついに漏らしてしまったのだ。

途端に大嵐となり、川は溢れ出した。村人に逃げるように言い残った僧もろとも堂は水に流されて消えていった。

それから数年が過ぎ、堂は再建され、ゆりこみ堂と呼ばれるようになった。


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