【ザッピングして選んだ洋楽アルバムをてきとうに紹介する企画】#1…森氏とマーとオスカー・ワイルド

 さっそくやってみましょうか。第一回です。

【アーティスト名】

The Smiths(ザ・スミス)…イギリス

【アルバム】

Hatful Of Hollow(ハットフル・オブ・ホロウ)

初期のシングルやライブ音源を集めたコンピレーション・アルバム

【発売年】

1984年

【ジャンル】

オルタナティブ・ロック、インディー・ロック

【ざっくりとした感想】

 パンクロックというジャンルがありまして。アメリカで生まれてイギリスでばくはつしたロック音楽の一分野です。

 どういうのかというと、それまで音楽なんかやったことないようなちんぴら兄ちゃん共(例外あり)が、若い世代のうっぷんやら不満やらを、なんかこうへたくそでうるさくてやかましいけどとにかくオラーッと表現するような、そういうアレです。まぁこれはステロタイプな見方で、じっさいはもっと幅があります。ニューヨークパンクだと、どちらかというとインテリ学生たちがメインになって知的な感じでやってたわけで。ただやっぱりイメージとしてはイギリスのSex Pistolsとかがメインだと思うので、そっちに比重を置いて話をしますね。

 このパンクムーブメント、政治的主張とかはさておいて、とにかく「誰でも出来る」って部分が大きかったわけですね。勃興した70年代中盤ってのはちょうどほら、Led ZeppelinとかDeep PurpleやらPink Floydなんかが猛威を奮ってた時代でありまして。ライブやる会場行くには遠いわ金高いわおまけに音楽としても複雑だしなんか高尚だし、おいおいロックってのはもっとこう、キッズがギターでギャーッとやってバカをやるアレなんじゃねぇのかYO! という不満があったわけですね。だから、その中で出てきたパンクっていうのはある意味ではロックンロールのギターズギャーンクソバカ音楽に先祖返りした偉大なジャンルなわけです。

 こんかい紹介する(ことになった)The Smithsも、その流れで生まれたバンドとされておるようです。メンバーは前述のピストルズのライブで出会ったらしいですね。とにかく現状の音楽はクソだぜ政治もクソだぜモテないぜカネがないぜみてぇなアレから始まった連中ってわけなんですね。しかも結成が80年代初頭で、その時代っていえばマーガレット・サッチャーさんが結構ぶいぶい言わせとった頃なので、貧富の差広がりまくりで色々ファッキンだったのですね。反逆するための材料はR.E.A.L.に山ほどあったわけです。

 じゃあよ、このスミスっちゅう連中もあれか、なんか髪逆立てた連中が唾飛ばしながら安物のギター弾き倒すようなことやっとったわけか、となると思いますが。これが違うのですよ。こいつらの、なんつうか、取り組み方みたいなのは、唯一無二です。

 メンバーを紹介しましょう。ドラムとベースは空気なので覚えなくていいです。でもベースは結構目立つかな。割とファンキーで良いです。

 まずはMorrissey(モリッシー)という男。ボーカルです。画像検索してみれば分かると思うんですが、なんかひょろ長くてヘロヘロしててメガネで変な髪型でどうしようもないアレな男です。元はと言えば根暗で卑屈な文学青年で、音楽の趣味もニューヨークパンクから始まり、なんかオールディーズのよく分からん女性歌手とかそういうメインストリーム外れまくりの逆張り野郎。まあ要するに「我々」の側です。歌は別にうまくない。譜割りも適当だ。しかしそのネクラ共のハートを直撃するどうしようもなく詩的で鬱くしい歌詞は唯一無二だし、それに合わせる声といえばこいつしか居ない。というわけでロックスターという典型の真逆を行くような奴ですが、このバンドにはこいつが居なきゃ始まりません。コンセプトも何もかも、こいつがメインです。ケツポケットに花を挿してくねくね踊れば、今日から君も森氏だ!

 続いてギタリスト。「Johnny Marr(ジョニー・マー)」。イケメン。以上。……と言えば終わってしまうのでもうちょっと詳しいことを。こいつも上で紹介した森氏に負けず劣らずの奇人です。それまでのロックギタリストといえばジミーペイジやらリッチーブラックモアやらですね。「俺が俺が」と前に出まくってなっげぇソロやるわボーカルを完全に食うわでもう無茶苦茶です。それがいいんですけどね。ところがこの男はそれを「全く」やらなかった。どういうことかというと、「ボーカルの伴奏に徹したギターを弾く」ということなんです。もっと分かりやすく言うと、歌の裏で流れているメロディやらなんやらの部分に注力して演奏をやるということですね。なんというエゴの抑制。ブディズムを感じますね。しかしまぁそんなことをやろうと思ったら相当なテクニックが必要なので、実際はすげえギタリストなわけです。ぐちゃぐちゃの譜割りの裏側で涼しい顔で流麗なメロディを紡ぐんです。しかも色んな音だったり何重にも重ねたり。そのむかしアメリカにフィル・スペクターっちゅう変人プロデューサーがおりまして、ポピュラー音楽でそんな凝ったことやらん時代においてオーケストラ何重にも重ねたり色んな音響効果を試したりそういうことをやってた真の男なんですが、このマーとかいうイケメンはそれをギターでやった、などと言われてるんですね。というか長くなりすぎた。イケメンなので……。

 じゃあそんな二人と、それを支えるリズムセクションが合わさるとどういう音楽ができるのか。

 言ってしまえば「ポップで情感あふれるミュージック(時々ギターですげえことをやったりする)に、へろへろと根暗どもの共感を誘ってやまない歌詞とボーカルが乗る」ということです。

 はいそうです。そういうの好きな人いっぱいいるでしょ。ボカロでもなんでもそう。はい、そういう「暗い音楽」をですね、ポップスの範囲で、もしくはロックの範疇で語れるようにしてしまったのがこいつらなわけです。これ凄いことですよ本当に。ギターが綺麗で、歌詞がとにかく哀しく美しく、たまに他の楽器が目立つ。しかも大体の楽曲が数分で完結する。とにかく長尺の曲がスゲーみたいな風潮のなかでなんという慎ましさか。

 この姿勢はとにかく色んなアーティストに霊感を授け、こんにちの草食系色々悩んでる系に多大な影響を与え続けているわけですね。たとえば英国であればRadioheadやOasis、日本だと噂によると相対性理論なんかもそうらしいですね。

 とにかく……アレだ! 文化系の部活に入ってたやつは全員聴いてくれ。特にこれは初期の楽曲が多いのでシンプルでわかりやすく、短くてポップな曲が色々はいっている。おまけにライブ音源もすこぶるいいんだ。一枚目のアルバムと同じ曲だったりするのだが、音は絶対こっちのほうが迫力あってよい。

【聴きどころ】

T1:William, It Was Really Nothing

 最初の鈴の音みたいな疾走感あふれるギターフレーズから持っていかれる。俺の親友(それ以上の関係かもしれん)に女が出来て最近あいつそいつのことばっかだ、絶対俺のほうがいいって~~みたいな内容。ホモソーシャルか、危ないカンケイか。最後の物悲しい残響音が射◯の余韻のようで良い。これを聴いてピンと来ないと、あとも微妙かもしれない。二分間の短編小説。

T5:How Soon Is Now?

 ヘヴィさでいえば、全楽曲の中でもトップクラスかもしれない。引きずるようなギターの音色、ドスンと響くドラム。その隙間を縫うようにモリッシーの気怠い歌声。「俺は低俗シャイボーイ」「パーティ行けばいいけど、行ったら君は死にたくなる」「『今に』って一体いつなんだ」。何かになろうとして、どこかに馴染もうとして、それでも無理だった、すべての人間未満を自称する連中のための曲。

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