「令和6年能登地震」に対する「人工地震説」を斬る

何時の時代も「陰謀論」に心惹かれる層は一定数存在する。
1月1日の震度7、能登地震においてもやはり「陰謀論」は生じてしまった。
今回は能登地震関連の陰謀論について幾つか論じてみたい。


「人工地震」な訳が無い

先ず、フラットな読者に対し、誤った先入観が植え付けられない為に、Xから端的に

 「人工地震論ではない理由」

を語っているXのポストを紹介する。

人工地震説を否定し得る一番単純な理由「必要なエネルギーがデカすぎる」

モノを揺らすにはエネルギーが必要だ。
地震のマグニチュード(M)は2つ高くなるとエネルギー量は1000倍増える。
M3の地震はM1の1000倍のエネルギー量を持つし、M5ならばM1の100万倍だ。M7ではM1の10億倍にもなる。
マグニチュードは小数点以下1桁で表記される事が多いが、0.2の違いで約2倍異なると覚えておけば、マグニチュードの数字比較からエネルギー規模の違いをおおよそで把握出来るようになる。

M4以上の地震は原子爆弾の威力を超える。
今回の能登地震のマグニチュードは7.6だ。

試しにM4を一つの単位と考え、M7.6がその何倍の規模かを考える。
マグニチュードが2異なるM6でM4の1000倍だ。
M6とM7では約32倍異なるので、M7はM4の約32000倍。
マグニチュード0.6の違いはマグニチュード0.2の3個分異なる。
マグニチュード0.2の違いはエネルギーで約2倍異なり、それが3回分だから2×2×2倍、つまり約8倍分の差異となる。
よって、M7とM7.6とでは約8倍の差がある。
M4を基準とするとM7までの違いが32000倍、M7からM7.6までの違いが8倍あり、これを掛け合わせる事で
 32000×8=256000
つまり約25万倍もエネルギーの規模感が異なるのだ。

勿論、より威力の大きな核爆弾も存在する訳で、それを1単位とするなら25万発よりずっと少なくて済むだろうが、それでも高威力の核爆弾を千や万単位で用意して人工地震へと使うなど、誰が何の目的で行うのか?

ぶっちゃけ、それだけのエネルギー量を使用可能な個人なりグループが存在したとして、それを人工地震発生に注力する意味が分からない。
金儲けにしても、人類への悪意に満ちた計画にしても、他に違うやり方で効果的な使い道があるはずだろうに。
残念ながら、陰謀論者はこの辺りの細部を詰める作業が苦手のようだ。

乗り越えられない壁「震源の深さ」

また、震源の深さも人類にとってなかなか突破する事の出来ないハードルだ。

今回の能登地震の震源の深さは約15㎞。
ちなみに人類の地面掘削の世界記録は、1989年にソ連が行った12㎞強だ。

数千、数万の核爆弾を準備できた場合ですら、今回の能登地震の震源まで爆弾を運び込む事は不可能なのだ。

記録の生まれた1989年から35年の歳月が流れている為、単純に掘削技術の向上もあり、ただ掘り進めることだけを目的に国家予算をつぎ込めばソ連以上の記録は生み出せると思う。
ただ、そんな事にカネとヒトをつぎ込む意味を見出せなければ、先進国でも記録を破らんと地面掘削を始めはしないだろう。
国家ではない個人、団体が目指すには余りに過酷なハードルと言えよう。

もしそこまで出来る技術とカネ、人力を持っているなら、やはり”地震以外の有意義な何か”に使おうとするのが自然な発想ではないだろうか?

人工地震論者の常套句「P波が観測されない!これは人工地震の特徴だ!!」 ←大嘘

人工地震論者が良く使うロジックに

 「この地震の波形にはP波が見られない!
 自然な地震では無い証拠だ!!
 これは人工地震なのだ!!!」

がある。
これは完全な嘘だ。

理系科目が苦手だった人には、反論の切っ掛けもイメージ出来ないかも知れない。
だがP波、S波の何たるかが分かってる人にとっては全く以てお話にならない戯言だ。
ちなみに2つの地震波の違いについては中学理科の範囲に含まれている。
ただ、中学理科における地学的知識は、きちんと勉強してる生徒であっても単純な暗記で乗り越える場合が多く、その内容を問われ自分の言葉で語れるのはごくごく一部に限られるだろう。
なので、「こんな事も分からないなんて中学生以下w」みたいな煽りは言い過ぎだし、仮にこの辺りの知識に自信が無くともそこまでネガティブになる必要は無いと思う。

P波とS波に関する基礎知識

地震報道では度々耳にするP波、S波だが、PとSの意味は分かるだろうか?

Pはprimary(最初の、主要な)の頭文字、Sはsecondary(二番目の)の頭文字。
P波は英語でPrimary Wave(最初の波)、S波はSecondary Wave(二番目の波)であり、地震波を観測する場合に観測される順番を意味しているに過ぎない。

何故、2種類の波が観測されるのか?

それは、「モノの震え方は2種類ある」からだ。

「モノの2種類の震え方、揺れ方」を理解しよう

今ここに「こんにゃく」があるとする。
貴方にこのイマジナリー「こんにゃく」を渡そう。

ここでもし貴方が
 「このこんにゃくを揺らしてください」
と言われた時、貴方ならどのように揺らすだろうか?
実際に自分ならどう揺らすかイメージして欲しい。
※これは別に心理テストでもないし、知能テストでもない

多くの人が、こんにゃくの端を持ち、しならすようにつまんだ指を上下動させる動きをイメージしたのではないだろうか?
この方法をイメージした人にとって、
 「こんにゃくを揺らす方法は他にもありますよね?」
と問われても答えに窮する人は少なくないかも知れない。
モノの揺れ方の種類を意識した事が無ければ直ぐには思い付かないだろう。

こんにゃくを置き、つつくように力を加えても、こんにゃくは揺れる。
こう言われると、つつく度にプルプルと震えるこんにゃくの様子をイメージ出来ただろう。

何方もこんにゃくは震え、揺れている。
だが、震え方、揺れ方には違いがある。

これが「モノの震え方、揺れ方には2種類ある」と言う事だ。

もう少しイメージを定着させる為に、他の例を出そう。

こんにゃくに近い物体になるが、皿に乗せたプッチンプリンをイメージして欲しい。
皿を持ち上げ、プリンが皿との密着面がズレないよう注意しながら皿を左右に振ってみよう。
皿の動きに合わせて左右にプルプル震えるプリンがイメージ出来るだろう。
更に細部までイメージするなら、皿から遠い上部ほど皿の動きから遅れて震える事だろう。
これはこんにゃくで言うと、端をつまんでプルプル振った状況と同じ揺れだ。

また、皿を一旦置き、スプーンの底でプリンを叩く様子をイメージして欲しい。
叩いた所から衝撃が広がるようにプルプルと震える姿が思い浮かぶだろう。
こちらはこんにゃくで言うと、指でつついた時と同じ揺れ方となる。

続いては、薄く伸ばした金属板をイメージして欲しい。
金属は基本的に硬く、こんにゃくやプッチンプリンと比べれば「揺れる」イメージは薄いかも知れない。
だが、金属板の面積が相当大きければ、自重によって金属板もたわむ事は経験的に知っているだろう。
たわむとは形状が変化する事なのだから、金属もまた揺らせば震える、揺れるモノなのだ。
大きな金属板を人間が掴んで揺らす事はちょっとイメージしづらいかも知れない。
ここでは金属板を掴んで揺らす能力を持つ巨大重機をイメージし、それが金属板のどこか一部をがっしりホールドした状態で、出来る限り早く振る様子をイメージしてもらいたい。
金属のたわむ方向が変化する度、ばいんばいんと音を立てながら震える金属板がイメージ出来たのではないだろうか?
こんにゃくで言えば指でつまんで揺すった状態と同じ揺れ方だ。
実は、こんな大掛かりな設備を用意せずとも同じ揺れ方を人力だけで実現する事は可能だったりする。
マレット(鉄琴を叩く棒)を用意し、地面に置かれた金属板の上面を叩けば同じ揺れ方を生ずる。
この時、金属板を完全に地面に接地させると震えが地面にすぐに吸収されてしまうので、幾つかの支えを用意し、金属面の多くを中空に晒した状況が揺れの実現には好ましい。
この状態でマレットで叩けば、金属板全体が震えた時のバイーン、パイーンと言った音が聞こえるはずだ。
逆に、金属板にこの形式の揺れを生じさせない叩き方、つまり広い面以外を叩いて甲高い衝突音を生じさせた場合、これはこんにゃくを指でつついた時と同じ揺れを生じてる事になる。

最後にもう一つ金属の例として、お寺の鐘をイメージして欲しい。
お坊さんが日々のお勤めで定時に打つほか、除夜の鐘でも聞く機会があるだろう。
この通常「鐘の音」として聞く時の鐘の揺れ方は、こんにゃくをつまんで揺らした時の揺れと同じだ。
小さな金属棒を持って鐘を軽く叩いた時は高い音が出るだろうが、この時はこんにゃくをつついた時と同じ揺れ方をしている。

金属に限らず、この世に存在するどんな固い固体であっても必ず震えるし、揺れる。それも必ず2種類の揺れ方を持つ。

改めてP波、S波の違いを理解する

長々とモノの揺れ方について解説したのは、この2種類の揺れ方がそのままP波とS波の理解に繋がるからだ。

実は、

 P波はこんにゃくをつついた時の揺れ方
 S波はこんにゃくをつまんで揺らした時の揺れ方

なのだ。

普段我々が目にする地盤は余りに固く、「地震で揺れる」のは頭で理解していても、その揺れ方を具体的にイメージする事は難しい。
だからこそ、「地震には揺れ方が2種類ある」と言われてもピンと来づらいのだ。

そこで、ここで改めて「イマジナリーこんにゃく」に登場してもらう。
今回のイマジナリーこんにゃくは我々がその上で暮らしている地盤の一部を受け持ち得る超特大こんにゃくだ。
縦は家一軒が余裕で収まる20m級、厚さは家の基礎が収まる10m級、そして横は数十㎞から数百㎞に及ぶ超ロングサイズ。
ここで、変にリアリティを求めると訳が分からなくなるので、
 「そんなサイズのこんにゃくでは、自重によって崩壊する」
 「こんにゃくの上に家など建てたら沈み込んでしまう」
と言った正論のツッコミは入れないでもらいたい。
地震の揺れ方を理解する為、その上に家が建ち、人が暮らせる巨大こんにゃくがあるものとして受け入れて欲しい。

この超巨大イマジナリーこんにゃくを貴方に大きく揺らしてもらう。
まず、つついて、だ。
人間の力では全力パンチですら10メートルも伝播しないだろう。
なので、巨大マシーンで巨大撞木(しゅもく:鐘を打つ木)を横から打ち込むようイメージしよう。
巨大撞木を打ち込まれて生じた波が巨大こんにゃくを伝わって行く。
そして、この時の揺れ方はこんにゃくの伸びる方向を横から見て、左右に揺するような動きになる事もイメージ出来るだろう。
発生した波の進む方向と、揺れる方向が平行になっている。
この時の揺れがP波なのだ。

続いては、プルプルと揺すった時の揺れだ。
此方も巨大マシーンを用意し、指でつまんでプルプル揺らした動きを巨大マシーンで再現してもらう。
巨大こんにゃくの端っこをがっしりホールドした状態で、これを上下動させる。
巨大こんにゃくはまるで鞭やロープを振ったようにその揺れを伝播させて行く。
この時の揺れは当然上下動、つまり波が進行する方向と垂直になる。
この揺れはS波だ。

そしてここからが本当に重要なポイントとなる。
波の性質を理解する為に2種類の波の違いを語って来たが、現実の地震に際してはこの2種類の揺れが同時に発生するのだ。

巨大こんにゃくの例に即して表現するなら、巨大マシーンで揺れを発生させるのではなく、巨大こんにゃくの端っこを大量のダイナマイトで爆破した状況をイメージして欲しい。
この時、巨大こんにゃくが大きく揺れる事は承知してもらえるだろう。
そして、この揺れはつつく方向の揺れも、つまんで上下に揺らす方向の揺れも何方も含んでいると言う事だ。
手段を問わず兎に角揺すった場合、2種類の揺れ方が混然一体となって生ずる。

さらに、この揺れ方、つまりP波とS波は常にP波の方がスピードが速い。
そうすると、ダイナマイトで爆破した地点から遠ければ遠い程、P波とS波の到着時刻に差が出る事となるのだ。

P波は揺れ自体はS波より小さい。
それはこれまでの貴方の地震体験、揺れ方の違いの体感から理解してもらえるだろう。
これが、地震を感じる際に最初は小さな揺れから始まり、後で本格的に大きく揺れる理由となる。

人工地震論者は、上記P波、S波の違いを正しく理解していない

前段では巨大こんにゃくの端っこをダイナマイトで爆破しても2種類の波が発生する事を語った。
つまり、人為的に揺れを発生させた場合でも、必ず2種類の揺れは生ずると言う事でもある。

なので、人工地震論者が語る
 「人工地震だからP波が表れないのだ」
との主張は最初から間違っている。

彼らは固体を伝播する2種類の波の事をまともに理解出来ていないが為、誰かの語った正しくない理屈付けを、ただただ鵜呑みしてるに過ぎない。
自分が正しく現象を理解して人工地震について語っている訳では無いのだ。

彼らは「P波が見えない」とされる地震波形をSNS等で貼り付け、自分達の主張の正当性をアピールする。
だが、これは地震波形の時間スケールを操作し、波の図を圧縮し、P波を認識し辛くしているだけだ。
最初にこれを証拠だとして広めた人間はただの嘘吐きだし、これを信じて広めてる連中は騙されやすいか、注意深さの足りない愚か者たちだ。

まとめ

基本的に、学校で聞いた事も無いような科学方面の話については疑って掛かった方が良い。
学校で学ぶ事が無条件で正しいと信ずるのは無邪気に過ぎるが、かと言って学校で学ばされる情報は世界を牛耳る闇の勢力の都合に合わせた虚偽なのだと信じ込むのは世間一般を疑い過ぎだ。

残念ながら、今の日本では特定の政治的イデオロギーに染まると、保守傾向であろうがリベラル傾向であろうが、陰謀論に飲まれやすい状況が続いている。

ひと昔前はリベラル、左派界隈に顕著だったのだが、保守的思想がある程度市民権を得た頃から保守も多様化し、より強い極論へ流れ着く人々が現れ、左右どちらも”常識”の通用しない危うい勢力が跋扈している。

そのような界隈に飲まれない為には、先ず基礎的な情報についてググる癖を付けた方が良い。
高校までに学ぶ理科、社会科目の知識を広く獲得していれば、そう簡単に陰謀論に飲まれる事は無くなるはずだが、大人になってからこの一般常識力を高める事はなかなか難しいだろう。
なので、信ずる前に一歩立ち止まる事を癖として身に付ける、その立ち止まり方としてネット検索、グーグル検索の活用を勧めたい。

ただ、確信的に他者へ適当吹き込む連中は、虚偽情報を信じさせるテクニックに長けている。
詐欺師に狙われた時、その詐欺手法について熟知していなければ、自力でその罠を回避する事は非常に難しいものだ。

なので、陰謀論に弱いかも知れない、陰謀論を見抜く自信が無いと自覚する人達は、陰謀論を喝破する情報発信者、出来れば経歴のしっかりしていて、その人自身のネット検索結果が好ましい情報に溢れてるような人を日頃探しておくのが良いと思う。

youtubeでもXでも、論拠薄弱な「地震予知情報」の発信者が存在する。
貴方自身が理解出来ない論理、論拠によって何らかの予測を行っている人には、近付かない方が良い。
趣味や人助けのつもりでそんな事を延々と繰り返してる人など居る訳が無い。
その活動によって、何らかのメリットを受ける立場にあるはずなのだ。
騙される側にならない為に、先ずは用心する心掛けから始めて欲しい。

<了>

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