見出し画像

ショーン・タンの世界展~どこでもないどこかへ~

新しい環境にとまどっていたり慣れない土地で孤軍奮闘している方におすすめの展覧会。ショーン・タンはオーストラリアの絵本作家で2011年アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞、代表作「アライバル」は23の言語に翻訳され世界中で読まれています。

「新しい環境になじむ」とは

画像2

絵本「アライバル」は一切セリフがなく緻密な鉛筆画の画力だけでつたえる物語です。物語の主人公は異国の地へ移住しようとした家族。彼らは家をでて船に乗りたどり着いたユートピアに待ち受けていたのは今まで見たことがない生き物でした。未知の食べものや先住民の不思議な慣習におどろいたり、自分ではどうしようもない不条理なできごとに違和感を感じます。不可解ながらも徐々に受け入れる家族たち。この家族が体験した感情は、誰もが新しい世界で生きようとするときに感じた感情と重なり多くの共感を呼ぶのではないでしょうか。学生から社会人になるとき、まったく新しい土地へ引っ越すとき、結婚するとき、転職するとき・・・etc。

私もフランスへ留学するときが初めて家族から離れる時でした。初めての一人暮らしが海外で未知の土地。言語もおぼつかず、家探しや学校探しも自分でやらなければならず自分の居場所は自分で探さなければならない。フランスならではの突然襲いかかる不条理な場面に何度も出くわしました。友達を作りたければ勇気をもって隣の住人や同級生に話しかけ、映画やカフェに誘い、時にはホームパーティに参加して一生けん命相手を理解しようと努力する。マルシェに行けば、日本ではペットとして親しまれるウサギも吊るされていましたし、グルヌイユという食用ガエルやエスカルゴ=カタツムリも食用に売っていて初めは「ひぃ~~」と見るに堪えない感情がこみ上げましたが、不思議なもので毎週日曜日に通っているうちにそれは日常のあたりまえの風景として受け入れるようになりました。

「アライバル」は「異国の地になじむとはこういうことだな」といちいち納得するシーンが満載で、これから留学を考えている人や新しい土地へ引っ越す方へおすすめの作品です。展覧会では原画を間近に見れるので緻密な鉛筆画の繊細さと正確なデッサン力に感心しきりでした。この絵本を完成させるまでなんと5年もの歳月を費やしたというから驚きです。展覧会へなかなかいけないという方は書店で絵本が売っていますのでぜひ読んでみてください。

「素晴らしい日々よ、ありがとう」

画像1

絵本「エリック」は交換留学生エリックの話。受け入れ先の家族はあれやこれやともてなすものの、エリックが興味惹かれるのはなぜか小さなたわいのないものばかり。寝るときは決まって台所の小さなカップ。「きっとお国柄ね」とホストファミリーはとまどいながらも温かく見守ります。エリックがお別れのとき、道端で拾ったたわいのないものたちに花を咲かせ「素晴らしい日々よ、ありがとう」と書き置きして立ち去るシーンもまた、自分が日本へ帰国するときを思い出しジーンとしました。

フランス留学中、フランス人の友人に連れて行ってもらった蚤の市でブロカントやかわいい雑貨を見つけました。「これは何の役に立つんだろう」とすぐに用途が思い浮かばない「なんだか美しいもの」「持っていたらきっと楽しいもの」に強く惹かれました。

画像4

ビジネスの世界では無駄を省き、効率や生産性を追求することが正義とされ、もちろんそれも非常に重要ですが、一方で一切の無駄を省き機械的にそれだけを追いつづけるのもなんだかつまらない。特にブロカントはほかの誰かがみたら「ガラクタじゃないか」と一笑されて終わるかもしれない。何の役にも立たないかもしれないけれど、「自分だけは持っていて楽しくて美しいもの」が別にそばにあってもいいじゃないか。フランスは理屈だけでは説明できない「美しくて楽しいもの」の宝庫。蚤の市や雑貨屋さんでは自分の審美眼や美意識を鍛え、直感を冴えわたる練習にもなるのではないか、とついつい、いくつかお気に入りを購入しました。分析やデータをもとにしたマーケティングもとても重要ですが、一方でそういった直感を鍛えておくと後々ビジネスで判断に迷った時の決断の指標にもなるのではないかと思います。留学中、蚤の市や雑貨屋めぐりをし、自分がセレクトしたもので誰かの心に花が咲いたら素敵な仕事になるだろうな、とふと思った10年後、サラリーマンを辞めて起業するとはこのころ思ってもみませんでした。

というわけで、「ショーン・タン展~どこでもないどこかへ~」いかがでしたでしょうか?ご興味がある方は10月18日(日)までそごう横浜6階・そごう美術館にて開催中です。よかったら足を運んでみてください。

画像3

【開催概要】横浜展
2020.9.5[Sat]~10.18[Sun]
そごう美術館

福岡展
2020.12.12[Sat]~2021.1.31[Sun]
北九州市立美術館分館

▼「ショーン・タン展~どこでもないどこかへ~」

http://www.artkarte.art/shauntan/

▼横浜山手フランス雑貨「ラメゾンドレイル」

https://www.ukfrenchstore.com/

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?