みんな優しくあれよ

乳白色の空。金曜の最後の授業は美術だった。

午前中は気が乗らなくて講義を休んでしまった。今週のうち丸一日授業を受けることができたのは月曜のみだ。変えようのない事実でとにかく憂鬱に染まりきった僕にも平等に、鳥のさえずりはささやかな祝福をもたらしてくれる。水分をたっぷりと含んだ空気が心臓の柔らかい部分を燻らす。

前髪が崩れた気がして手鏡を覗くと、小さな蜘蛛の卵のような何かが頬にできていたので思わず爪で潰してしまった。新調した桃色のネイルの先から粘り気のある中身が飛び出してあーあとため息になる。ぼんやりと気怠さが押し寄せて家に帰りたくなくて、いつもの道とは反対方向に歩みを進める。

2つの角を曲がり緩やかな傾斜の坂道に出た。
どうやらこの辺りは小洒落た高級志向の雑貨屋から、平均して1500円はゆうに超えるであろうハンバーガー屋など、とにかくお金と時間に余裕のある人向けの店が多く軒を連ねているようだ。

神楽坂。地下鉄の出入口に差し掛かる間際のこと、正面から歩いてきた大柄な女性がすぐ横を通り過ぎたときに、彼女のスマートフォンが僕の右手の甲に接触し、局地的な激しい痛みを伴う。ステンレスがアスファルトの地面に激突するガツンという音が聞こえて、あーっ!と叫ぶ声が背後で響いて、瞬間ものすごい剣幕で怒鳴りつけられるんじゃないかという薄暗い予想が脳裏をよぎってなんだか恐ろしくて急いで階段を降りた。地下から吹き上げてくる生温かい風が顔を包み込んで息苦しい。手に、じんわりと微かな熱を孕む。

東西線で茅場町を目指す途中、大手町でサラリーマンらしき風貌の人が大量に乗り込んできて東京を感じた。日比谷線に乗り換えた頃がちょうどラッシュのピークだったようで、周囲に圧迫されながら秋葉原にぺっと吐き出された。

ひさしぶりすぎて目的の店を探すのに周辺をぐるりと2周してしまった。いまだにグーグルマップの方角が全然理解できていない・・・^_^

この街のブックオフには、入る直前のドア付近に平然とTENGAの広告看板があって、いつもいたたまれない気持ちになる。

とりあえずスタバでメロンフラペチーノとかいうのを注文したんだけどすごく胃もたれした。
普通に半分も飲めなくて仕方なく持ち帰った。高校生になって初めての授業が終わったあと、新しくできた友達数人と一緒に飲んだ思い出の味なのに。

薄紅梅のツインテールを揺らして男性客を集めようと駅前にて宣伝していたコンカフェ店員の声がかわいかった。透きとおるアニメ声だった。

中学生の頃は低すぎる声がコンプレックスでいわゆるカワボというやつを出せるようになりたくて、YouTubeで「誰でもできる!両声類講座」みたいなタイトルの動画を片っ端から熱心に見ていた。放課後になるとスマホと睨めっこして奇妙な甲高い声出しちゃったりしてさ。バ美肉Vtuberが得意の萌え声を駆使し、通話アプリ斉藤さんに蔓延る変態的な腐れ野郎共を見事に釣り上げ、悩殺していく様子は見ていて大変爽快だった。

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