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心地よい言葉探し

このごろ「言葉」についてよく考えるようになりました。

文章を書くお仕事をさせてもらっているので、もちろん「伝える」とか「読んでもらう」ための工夫はしているつもりだけれど、それは自分が純粋に心地よいと感じるものとはやっぱり少しだけ違うように思うのです。

お仕事で書く文章はわたしのものであって、わたしのものではないので、そんなの当たり前かもしれないけど、じゃあわたしが自分のために文章を書くときに大切にしていたい言葉ってなんなんだろう。

そういうときに頼るのはやっぱりだいすきな本です。

なかでも児童文学がわたしはだいすきなので、きっと本棚にある言葉たちがいまのわたしを作ってくれたんじゃないかなと立ち戻ってみることにしました。

なんだかうじうじとしてしまうときに開く本は、『魔女の宅急便』(角野栄子)

ジブリ映画でもとっても有名なこの作品は、原作本もいくつも出ていてわたしにとってはバイブルのように大切な作品。

ちょっと頑固だけど、でも好奇心旺盛で失敗したときはちゃんと反省して、すぐに前向きになる主人公のキキが愛おしくて、リズム良い文体も、ちょっと現実離れした街の住人たちがおかしくて読むたびに元気になれます。

特にすきなのは一巻。魔女修行のためにキキが今まで住んでいた街を離れる日を決めたシーン。

「どうなることやら。心配だね。決めたらすぐの人だから」
「あら、そう。あたし、心配なんてしてないわ。心配はおきたときすればいいのよ。今は、贈りもののふたをあけるときみたいにわくわくしてるわ」
はずんだ声でいうと、キキは手をのばしてほうきをつっつきました。

ここのキキの潔さがだいすき。わたしもキキみたいにどんなことにも意気揚々と飛び込んでいくんだ!と背中を押してくれます。

焦っているな〜〜とわかっていても、落ち込んでしまうときだってあります。そういうときに思い出すのは『あしながおじさん』(J.ウェブスター)

全編手紙形式で語られるこの物語は、孤児院から突然学校へ行けることになり、右も左もわからなかったジュディが初めてきちんと学び、友達を作り、夢を追いかけていく姿が綴られています。大人になってから読むとあしながおじさん目線になって、愛おしさも倍増。

ジュディの聡明でチャーミングな性格が気持ちよいのだけど、なかでもこの言葉は落ち込んだり、視野が狭くなっているときに何度も何度も思い出している気がします。

「おじ様、私は幸福になるほんとうの秘訣を発見しました。それは現在に生きることです、いつまでも過去のことを悔やんだり、未来を思いわずらったりしていないで、今のこの瞬間から最大限度の喜びを捜し出すことです。」

すぐに先のことを考えて焦っちゃうけど、今あること一つひとつ、見つめていきたいなと、受け止めてくれるのです。

忙しなくなってくると癒されるために開くのは『くまのプーさん』(A.A.ミルン)です。

森に住むぬいぐるみたちの小さな日常をやさしく緩やかに描く、ディズニー映画の原作ですね。

ここに登場する唯一の人間であるクリストファー・ロビンに「世界じゅうで何をしているときがすき?」と尋ねられたプーの答えが何度読んでも、何度見てもだいすき。

「ぼくが、世界中でいちばんすきなのはね、ぼくとコブタで、あなたに会いにいくんです。そうすると、あなたが『なにか少しどう?』っていって、ぼくが『ぼく、少したべてもかまわない。コブタ、きみは?』っていって、外は歌が歌いたくなるようなお天気で、鳥がないてるってのが、ぼく、いちばんすきです。」

こんなに愛に満ちていて、やさしくて、柔らかで平和な文章は見たことがないかもしれません。

これに対して春から学校に行くことが決まっているクリストファー・ロビンが、僕もそういうのがすきだけど、いちばんすきなのは「なんにもしないでいること」と答えるのがほんのり切なくてまた良いのです。

こんな風にこれまで読んだ本のなかには、素敵だと思っている言葉がいっぱいあります。まだまだあります。

でも知らない作品のほうが世の中には圧倒的に多い。そう思うと、いつまでも大切にしたい言葉に出合える機会がもっともっとあるのかってわくわくします。

当たり前かもしれないけど、出合ったことのない言葉は自分では使えません。

それなら、だいすきだなと思える言葉にたくさん出合って自分が心地よいと思えるものだけ選んで口にできたら嬉しいなと思うのです。


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