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私の過去③~祖父と曽祖母の死~


私の祖父は、無口で厳しく、でも優しい人でした。
私が4歳の頃に、大きな病気をして入院し、退院後の通院をする時、ほぼ毎週、数ヶ月間、母親(当時はペーパードライバー)と私を車に乗せて、片道約35kmの道のりを送迎してくれました。

幼い私は病院の雰囲気と、白衣と、注射がとても怖くて、ただ体温を測る事から嫌がって、診察の順番が来る前から泣いていました。とても母の手を焼かせただろうと思います。

受診を終えると、車内で待っていた祖父は車から降りて、いつも駐車場の自動販売機でミルクセーキを1缶買ってくれました。
それを車の後部座席で少しずつ飲みながら、受診を終えてひと安心の私は、行きとは違いホッとして、窓の外の景色を見ながらの帰り道でした。懐かしく思い出します。


父親が宗教に入信し、祖父が反対して、2人が大喧嘩をするようになってからは、なんとなく怖い印象が強くなってしまい、残念な事にあまり祖父と親しい会話を交わした記憶がありません。
でも、町に出掛ける度に、祖父は私と妹に、子供向けの本や雑誌を1冊ずつ買って帰り、繋がりを持ってくれました。付録が付いた「小学○年生」とか文庫本とか、唯一手にした歳相応の読み物でした。
祖父なりに、きっと思いがあって、でもうまく伝えられず、本を買い与える事で、そしてそれを読む事で、何かが伝わってほしいと思いを込めたのでしょうか。
(これらの本の事を父親は不服に思っていましたので、度々取り上げられましたが、私と妹は返してほしいと声をあげ、その都度に取り戻し持ち歩いていました。)


そんな祖父が体調を崩して入院しました。
気丈で頑固な祖父でしたので、救急車を呼んで搬送される時、ストレッチャーに乗るようにとまわりが言うのに大丈夫だと言って聞き入れず、
自力で歩いて長めの坂道を下り、救急車に乗り込んでいました。
手術を受け、容態は安定しましたが、その後入退院を繰り返し、入院中に他臓器の疾患が発症してしまい亡くなりました。

田舎の通夜、葬儀は当時は自宅で行われる事がほとんどで、住んでいる地区のご近所中からたくさんの人が手伝いに来ます。
本来なら、長男である父親が喪主になり、一手に仕切って、通夜、葬儀を執り行うのが通例ですが、父親は、宗教上の理由から自分と自分の家族(父親、母親、私、妹)はそれは行えないし参列出来ないと言い、親戚中を驚かせ、揉めに揉めました。
結局、父親の意思主張は曲がらず、親戚皆了承せざるを得ず、祖父の弟である叔祖父が喪主になり通夜、葬儀を仕切ってくれたと記憶しています。(祖父、祖母、曽祖母、親戚一同は代々仏教徒)



私は、身近な家族が亡くなる事が初めての事で大きな衝撃でしたし、宗教上の理由とは言え父親がそのような立場を示した事に、正直ショックを受けました。
きっと、父親としても、実の父親を亡くし、父親なりの辛い気持ちを抱え葛藤を抑えながら、
それでも信じる宗教上の理由で立場を主張して守り抜いたんだと思います。
だとは思いますが、
でも、その時、本音では、私は普通に通夜、葬儀に参列したかった。
亡くなった方を見送る一連の事を、通例通りに、同じ気持ちの人達と一緒に行う事で、亡くなった事のショックを受け入れて、悲しみを分かち合って、祖父との事を思い出し、感謝の気持ちを語りかけたり、あまり会話出来なかったお詫びの気持ちを伝えたり、別れを惜しみながら、最後のお別れをしたかった。
私は私の気持ちに沿って、行動したかったんです。

でも、父親の家族として、同じ立場を示す必要のあった母親や私や妹は、ただ自宅内にいて、自室にこもって、自宅から火葬へ、そしてお墓へ、と向かう人達の姿を部屋の窓から眺めているしか出来なかった。
我慢が出来なくなって、自宅から外へ出て、庭の隅へ行き、祖父のお骨を持った人達の列(歩いてお墓まで向かう列)を見送った時、堪えていた涙が溢れました。
祖父が亡くなった悲しみと、一緒に参列し供養出来ない辛さと、それを表現する事が出来ない悔しさと、何も出来ない無念さと、いろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って溢れました。
見かねたご近所の方が駆け寄ってきて、背中をさすってくれました。


その後から、私の中で、何かが変化していきました。
表面上のいい子ちゃんに対して、自分の内側から時々感じる違和感を問いかけられるような、そんな瞬間がありました。


そして約2年半後に、今度は曽祖母が亡くなりました。この時も、私は祖父の時と同じ立場で、通夜、葬儀に参列出来ず、何も出来ずに、ただ見送るしか出来ませんでした。
この時の私は、こうする事しか出来ないし...
というような、無力感、脱力感を感じていました。

その後、不思議な感覚の自分になりました。


④へ続きます。


お読み頂き、ありがとうございました。



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