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MBA授業の多様性① - 選択科目:Emerging Economies

現在、ニューヨーク在住、ニューヨーク大学のパートタイムMBAに在学中のものです。つい先日、ほぼMBAのコア科目を終え、選択科目の履修を始めました。選択科目を始めて感じたことをつれづれに記載したいと思います。

ニューヨーク大学のパートタイムMBA(フルタイムもほぼ同じ構成です)プログラムは、大きく必修科目(30credits)と選択科目(30credits)に分かれています。必修(コア)科目は、トラディショナルなMBAの科目です。NYUの場合、Leadership in Organization、Financial Accounting、Strategy、Marketing、Firms and Market(ミクロ経済)、Statistics、Global Economy, Operations Managementが必修科目にあたります。一方、選択科目はもう少し幅広に生徒の興味に応じて、授業を選ぶことができます。

今回、私が取ったのはEmerging Economies。名前の通り、発展途上国の経済状況やビジネスについて学び・論じるコースです。主な対象国は中国・インド・ロシア・サウジアラビア・メキシコ・インドネシア・ナイジェリア など。教授は日本にも昔半年ほど留学していたようで日本のこともよく言及していました。例えば、インドネシアのセブンイレブンのケースでは、各国のセブンイレブンの形態を論じ、特に日本での同社のビジネスモデルについても生徒と意見交換をしました。
この授業がとてもよかったのは、「国の経済はどうやって発展するのか?それを阻害するものは何か?」という点について多角的な視点を得られたことでした。

製造業主導型の成長モデル

例えば、授業で論じられた問いは以下のようなもの。「インドのIT・BPO主導型のモデルと中国の製造業主導型の成長モデルはどちらが成功してきたのか?」。私自身どちらの国にも友達はたくさんいますし、ビジネスや学生活動で関わってきたこともあり、関心ある内容でした。
結論は、マクロ経済的観点からは中国の製造業主導型モデルに軍配があがるようです。IT・BPOはとても華やかで先進的な産業だけど、雇用創出力は製造業には到底かなわない。また製造業の発展は関連するインフラの発展を促し、被雇用者の経済力向上と近代的な産業への適用を促す。ゆえに中間層の形成と国家経済の安定的発展には欠かせない。というもの。様々な論拠とともに見せられると腹落ちしました。確かに歴史上、製造業の発展を見ずに先進国となった一定規模以上の国家はないのではないかと思います(イギリス・アメリカ・ドイツ、そして中国や韓国etc.)。日本では製造業はIT・サービス産業に比べると、やや昔の産業と語られることもある気がしていましたが、やはり国家の経済を支える屋台骨として引き続き製造業は重要な役割を果たすと感じました。

Curse of OIL (石油の呪い)

他に、何度も強調されてきたのがCurse of OIL (石油の呪い)。実のところ天然資源が豊富な国は長期的な経済の発展には苦戦してきたことが多いらしいのです。というのも、石油などの天然資源が取れると人々は働く意欲を失ううえ、高スキル層が高い給料を求め石油産業に集中し他の産業が育たない。更に、石油が取れると自国通貨の価値を高めてしまい、結果製造業の輸出競争力を落としてしまう。これが上記で論じたように製造業主導型の成長モデルを阻害してしまう、とのこと。これも改めて理論的に講義してもらうと腹に落ちました。
なお、サウジアラビアやUAEはこの石油の呪いを乗り越えるべく様々な取り組みにチャレンジしています。ナイジェリアも少なからずこの影響は受けていますが、石油経済への依存度は相対的に低下しつつあり、通信・金融・エンタメなどの産業が発展しつつあるとのこと。Payhippoなどの先進的なベンチャーも出てきており、今後の成長が楽しみな国の一つということでした。

Good BingesとBad Binges

国の投資(国家の財政出動や民間の信用供与・銀行貸し出し)がどこに向かうかが、その後の国の経済の運命を左右する、という話。
特に、教授やTextBookがBad Binges(悪い投資?残滓物?みたいなニュアンス)として手厳しく論じていたのが住宅不動産。国の投資が住宅不動産に向かうとロクなことがない、という論調でした(日本のバブル崩壊、アメリカのサブプライムローン危機、中国の直近の不動産バブル)。住宅がより高級なものになったとしても産業の生産性向上への寄与は僅かであるうえ、住宅は担保としても用いることができるので構造的にバブルに繋がりやすい。確かに、人々が快適な暮らしができるのはいいことですが、家が立派になっても仕事の生産性が極端にあがることがないというのはうなずけます。
他方、アメリカの2000年代初頭のドットコムバブルは同じバブルでもGood Bingeを残したということ。当時のバブルがはじけてみると、後に残ったのはより速いインターネットインフラや、最新のソフトウェアスキルを身に着けた人材でした。バブル自体は経済に大きな爪痕を残しましたが、このバブルの後にApple、Google、Amazonなどの起業がさらなる成長を遂げたとのこと。
翻って、日本。景気の波を平準化するために財政出動をすべし、ということはケインズの時代から言われていたことだと思いますが、どこにその投資を振り向けるのか、が政治の腕の見せどころと思います。一時期日本で行われた地域振興券などは単なるバラマキなので、当然Good Bingeは残りません。たとえば、最近、政府がデジタル人財教育などにお金を投じるというニュースがありましたが、これはGood Bingeに繋がるいい投資だと思います。
また銀行などの民間金融機関がどこに資金を振り向けるかという観点での議論もあり、Good Bingeが残る業界や会社に資金を振り向けるべきだというごくごくまっとうな議論に落ち着きました。例えば、今後は将来のサステナビリティにつながる事業や技術にお金が集まると、長期的な経済発展と安定につながるのでしょう。ESG投資やインパクトインベストメントなどはこの考え方を反映したコンセプトと言えます。

他の興味深いTips

首都と第二位以下の都市の格差。これが大きいと、地方の不満が大きくなるり、国家の運営が不安定になるそうです。日本はまだ大阪や名古屋などの大都市があるため、地域間格差は小さいとのことです。途上国ではペルーがリマに、タイがバンコクにそれぞれ過剰に人口が集中しており危険。イギリスやフランスも実はその意味では危険な構造である。アメリカもある意味、東海岸と西海岸に人口・経済が集中しており同じ傾向があると言えます。
金持ちへの富の集中。一部の金持ちに富が集中するのも危険。ロシアやメキシコなどはその傾向が強く、政治的に不安定になりやすい構造にあります。他方、金持ちに富が集中しているが政情不安が起きていないのが、台湾。理由はこれら富裕層がIT関連の事業で富を蓄積してきたから。自らの才能・能力で富を蓄積したので納得感があること、また雇用も創出してきたことから不満につながりにくい。翻って日本は、極度に金持ちへの富の集積度が低く、「Akubyodo」として逆に危険な事例として紹介されていました。

終わりに

このクラスには、シンガポール出身やナイジェリア出身のクラスメートも参加していて、彼らの意見からは、強い刺激を受けました。各国の生徒がどういう反応をするのか、というのもMBAの授業の醍醐味の一つですね。
アメリカ人の生徒は比較的少なかった印象で、やっぱりアメリカ人はあくまでもアメリカを向いてキャリアを考えているのかな、と感じました。大国ならではの感覚ですね。

この授業は、MBAの伝統的な授業と異なり、多角的な視点で各国の経済を論じるもので、MBAの授業の幅広さを感じました。日本だと、大学の経済学部などで同様な授業を展開しているかもしれませんが、社会人が同じような授業を学ぼうとするとなかなか適切なものがない印象です(慶応やグロービスのビジネススクールには同様の授業があるかもしれません)。

今回の授業は途上国のマクロ経済的な視点での議論が多かったのですが、やっぱり私は常に「じゃあ日本は?」ということが気になっていました。これまではまさに「経済成長の王道」を黙々と進んできた日本。途上国が抱える構造的な課題はある種、"順調に"クリアしてきた日本。やっぱり日本は素晴らしい国だったなあ、と思った一方で、ではこれからは?ということは常に頭の片隅にあります。
明治時代から続く国のリーダーたちが、理論的あるいは直感的に国の成長を見据えた手を打ってきた結果が今日の日本だと思います。
でも、今後については、このnoteを書いたり読んだりしている人々(私含め)が考えて、アクションをしていかなければなりません。この授業で得た視点やアプローチ、理論、ケースはそれを考えるうえで大きな助けになると思いました。


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