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ルポ「つけびの村」 04/06

2013年7月に山口県周南市で発生した山口連続殺人放火事件について、2017年に取材し、まとめたものを6回に分けて公開します。存命の関係者のお名前は全て仮名です。2017年9月7日脱稿、その後少し寝かせていました。

『コープの寄り合い』

 相変わらずほとんど人が歩いていない金峰地区で私は、村人が恐怖する金曜日朝の『コープの寄り合い』が行われていた家に住んでいた、吉本茜さん(仮名)の現在の居所を聞いてまわった。ワタルの父・友一やその兄たちの居所を訪ねた時も感じたが、この地区の人たちは、村人の転居先にも詳しい。何人かに聞くと、だいたいの場所がわかった。
 吉本さんは事件の後に集落から離れた街に引っ越し、息子たちと住んでいるという。金峰地区の村人だけでなく、少し離れた地域の村人も、吉本さんの名前、経歴や人柄を詳しく知っていた。むろん、引っ越し先の詳しい場所もである。ワタルよりも有名人だ。
 若い頃には学生運動をやっていたとも聞いた。郷集落に戻って来てからも、熱心に環境問題に取り組んでいたという。実はこの吉本さんは、ワタル逮捕後の起訴前鑑定で名前が出ていた人物だ。鑑定を担当した山口県立こころの医療センター・兼行浩史医師は、鑑定当時ワタルが被害念慮を抱いていたことに触れ、その対象を「吉本さん以外全ての人に対して持っていた」と述べていた。
 村人がおそれる危険な『コープの寄り合い』で情報を司っていた〝中心人物〟でありながら、ワタルは吉本さんだけには「被害を受けている」と感じていなかったというのである。一体全体、どういう関係性を築いていたのだろうか。

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