カセットテープに録音された音声データ。
　本体のラベルには「2011.04.14　阿津美津希」と記載。

「はい。……はい。
　……え、私からまた話すんですか？
　何回も警察の方とか、弁護士先生とか、あと、ええと……とにかくたくさんの方々から間違いないですねと繰り返し確認されたのでみんな知っているものかと……。
　はい。いや、いいんです別に。
　いえ、疲れてません。すみません。

　はい。
　去年の、11月の終わりです。27日か28日だったと思います。えっと……土曜日だったのは確実なので、あとでカレンダー見ておきますね。
　あ、はい。その日に未央ちゃんを食べました。
　いつも未央ちゃんとは仲良くしてて、似てるとことか多くて、すごく好きだったんです。

　他の人って、やっぱり神様信じてるおうち少ないじゃないですか。
　宗教ってだけでヤな顔されて、今もそうですけど、なんかヤバい人みたいな扱いされるのやだなあって思うんです。
　未央ちゃんとは集会のときもずっと一緒にいて、お祈りの時間も私の隣は絶対未央ちゃんが座るから私が先に着いててもみんな片方はひとつだけ空けておいてくれるんです。

　それで、えーと……未央ちゃんを食べたあとは、冬だし腐るのも遅いし、初めてだけど頑張ってみようって思って剥製作りに挑戦してみました。
　もともとそのつもりなのも伝えていたから、外側はみんな食べないで綺麗にして置いておいてくれたんです。

　あれって体力勝負なんです、意外と！
　でも未央ちゃんの顔見ると頑張れたし、やっぱり一番の友達なので。
　ホヅツサマ(よく聞き取れず。おそらくその宗教内での幹部的な役割？)からも仲良かったもんねえって特別に許してもらったし、頑張るぞって。

　味ですか？
　うーん……いつも同じタレでその味が強いのでなんとも……。タレは甘じょっぱくて、ゴマとかいろいろ入ってます。それは美味しいですよ。
　お肉は、ちょっとかたい、かな？
　場所によりますけど、鶏肉とかよりは全然かたいです。

　今まで何回人食べたかは、そうですね、お祭り自体が年に1回で、私がお肉食べてもいいくらいの年齢……えっと、ごめんなさい、赤ちゃんがお肉食べていいのって何歳くらいからですか？
　あ、そんな早くていいんですね。
　じゃあ、1歳から食べてたとして、年1回だから、16回、かな。

　いや、今回未央ちゃんが選ばれたのはたまたまです。毎年そういう感じです。
　男の人のときもあるし、おばあちゃんのときもあるし、赤ちゃんが選ばれたら料理は簡単だけど食べる分少ないねえって、それだけです。

　……私、なんでこんなおおごとになってるか、分からないんです。
　うちの神様の教えは変じゃないはずです。
　無宗教のおうちの子にこうやって反論したら逆にママにすごく怒られたけど、他の宗教でもよくある価値観じゃないですか？

　神様や自然は偉くて、人はみな平等。
　それだけですよ。どこの宗教でも大体同じような感じでしょう？

　家畜は自然のものだから本来偉いけど、人なしじゃなかった繁栄だし、人なしじゃ生まれなかった生き物もいるので、人と平等として扱ってもいい。
　お野菜もそう。自然のものだけど人の手により生まれたものが多いから、こちら側に寄ってくれてる。

　だから平等なものとして、仲間として、友好として食べるんです。お肉もお野菜も。

　誰も無理やり襲われて殺されて、ズタズタにされるような死に方してないんです。
　なのになんで……。

　……え？
　あ、そうなんですか？
　未央ちゃん、燃やされちゃったんだぁ……。
　残念です、何で一言くれなかったんですか？　火葬を止める止めないは別として最後に顔見たかったなあ。
　……寂しいなぁ……。
　もう1回会いたかったなあ、未央ちゃん……。」

　音声データはここで終わり。
　おそらく犯人による被害者との直接のコンタクトはこれが初めてであり、その録音データを犯人が保存していたと思われる。

　被害者がデータ内で発言していた「未央ちゃん」は樋笠未央さん(当時17歳)だと思われ、犯人の従妹にあたる。
　犯人の一家と樋笠家自体は疎遠だったとのことだが、そちらの関係性については現在捜査中。
　犯人は被害者の遺体を食べたことについて「不味かった。甘じょっぱいタレのレシピを聞いておけば良かった」と述べている。