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Billboard Live TOKYO  小室哲哉「HIT FACTORY#1」ライブレポート

昨年11月のビルボードライブ東京での「Reboot 1.0」、そして今年1月8日のビルボードライブ大阪での公演に続き、1月21日からビルボードライブ東京で3日間計6公演にわたり、小室哲哉さんのソロ・ライブ「HIT FACTORY #1」が開催された。

ビルボードで単独3日間公演をするのは小室さん曰く「外国からのミュージシャンぐらいだそうです。」とのこと。
11月の公演から今公演に至るまでチケットは即完売状態という集客力。それはコロナ禍であろうと、むしろコロナ禍だからこそ小室さんの奏でる音楽をライブで観たい、聴きたいという観客の気持ちの表れだと思う。

1月初めの大阪公演とはセットリストを変えますよ、との予告通り、短い準備期間の中、曲目は大幅に変更されていた。今までの公演の良いところ、美味しい部分を凝縮しただけでなく、新たに目を引く選曲、そして何よりも小室さんが歌う曲数が多くなっていたことが特徴的だった。

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白いシャツにタイ、ブラック・デニムと黒のドレス・シューズの小室さんが軽やかに階段を下り、ステージに向かう。観客は待ちわびた主役の登場に手を振り、拍手で迎える。
音楽の世界へといざなう序曲のような、ワンフレーズのキーボード・ソロに続き、小室さんが左腕を大きく振り下ろし「Now1」のファンファーレが始まる。2013年にフジテレビ系競馬番組「みんなのKEIBA」のテーマとして小室さんが書き下ろした曲。以来、現在に至るまで長く同番組のオープニングに使用されている。
競馬の発祥はイギリスの王侯貴族による娯楽が始まりとされているが、「Now1」にはどこか競馬の歴史や伝統に彩られた品格が感じられる。馬の蹄のリズミカルな音や疾走する躍動感が込められているようにも聴こえる。
ちなみに、この曲が収録されているソロ・アルバム「DEBF3(Digitalian is eating breakfast 3)」には今回披露されたバージョンとは別の「Now1(TK Remix)」が収録されており、小室さんのリミックスの妙を感じとることができる。

小室さんはMCで「『みんなのKEIBA』のオープニング時にテロップで『小室哲哉』って出るのかな?」とおっしゃっていましたが、放送を確認したところ『♪番組テーマ Now1 /小室哲哉』と表示されていました!!
(2022年1月30日放送分にて確認。下の写真右上をご参照ください)

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「こんばんは、どうもありがとう。この6回目の公演だけライブ配信していまして、たくさんの方に見守られながらやっています。」と小室さんのご挨拶。

続いてはオンラインゲーム「ガーディアンズ」の主題歌として2018年にリリースされた「Guardian」。Beverlyがヴォーカルを務めたこの曲を今回はインストで披露。ライブで演奏されるのは今回が初となる。ゲームの世界をとらえた壮大で切ないメロディが心に迫ってくる。シンセの美しい音色が重ねられ、ひとりでオーケストラの響きを作り上げていく。

次はピアノの前に向かう小室さん。「何年か前に、映画の『世界の中心で、愛を叫ぶ』を見ていて。グッとくるシーンで(流れて)『あれ?これ僕の曲かな?』って。何十年も前にセルフカバーをしたことがあります。渡辺美里さんの曲『きみに会えて』。聴いてください。」と曲紹介。

「きみに会えて」は今公演のタイトルともなっている、セルフカバー・アルバム「Hit Factory」(1992年リリース)からの選曲。原曲は渡辺美里さんのファースト・アルバム「eyes」(1985年リリース)に収録されている。
「Hit Factory」発売から約30年を経て、今「きみに会えて」を歌う小室さんがいる驚きと感動に浸る。これは思い出に残る時間になる。心酔する、とはきっとこのことだろう。小室さんが中学生の時に作曲したというこの曲。ピアノの弾き語りでていねいに優しく綴られる。MCでおっしゃっていたとおり、映画の中では印象に残る重要シーンで挿入歌として使用されていた。

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昨年再演されたミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」を観に行ったこともあり、11月のビルボード東京公演からこの「組曲」をセットリストに盛り込んでいると話す小室さん。ミュージカルの中に『永遠と名づけてデイドリーム』が使われている、折にふれて自身もこの歌を歌っていると説明(4年前のPandoraとしてのビルボード公演でも歌唱されていた)。
「東京でこの間ちょっと自信なくて、歌ってなくて、大阪で練習させていただきまして(笑)まあいいんじゃないのかってことで、東京でもやってみようかなと。歌は最後に出てきます。では『マドモアゼル・モーツァルト』を組曲で。」
東京では自信がなくて歌わず、大阪で歌ったのは練習だったと正直?に語る小室さんのMCに、遠慮がちにマスク越しの笑い声が聞こえ、和む場内。

「マドモアゼル・モーツァルトのテーマ」のイントロが響き渡る。天空から落ちてくるような重厚な音。管楽器の旋律、そして小室さんが弾く主旋律。予定調和ではなく、ライブらしい即興的なアレンジも随所にちりばめられている。
そして「ある音楽家へのエピタフ」、続いてピアノに向かい「Love 〜insert:Sonata for Piano No.11K 331 by Wolfgang Amadeus Mozart〜」。そして「永遠と名づけてデイドリーム」。明るいアレンジとピアノ、そして小室さんも歌うことを楽しんでいるようにうかがえてとてもうれしい。歌えば歌うほど、声はのびやかで情緒的になり、どんどんアップグレードしていく。

続いてキーボード・ソロ。小室さんが初めてサウンドトラックを手がけた、アニメ「吸血鬼ハンター"D"」のフレーズからスタート。そしてTMNの「TIME TO COUNTDOWN」、そして「SPEED TK RE-MIX」へ。最後に静かに「Get Wild」のイントロで終わるという凝った演出。
ちなみに21日・22日の公演では「SPEED TK RE-MIX」がメインとなっており、この構成は23日のみの演出であった。こういった小室さんの実験室のような試み、創意工夫が即座に反映されるのがソロ・ライブならではの醍醐味だ。

ビルボードライブ東京に行ったことがある方、ライブ配信を見た方はお分かりだと思うが、ステージの壁がカーテンで覆われていて、カーテンが開くとアーティストの背後にガラス越しの都会の夜景が美しく映える。
「ビルボード東京ならではの演出が楽しいですよね、そんな雰囲気に合っているのが、夏の曲なんですけどね。ちょっと歌ってみようと思います。」と前置きして、こちらもアルバム「Hit Factory」から「Magic」。

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 この「Magic」での小室さんの歌唱が今回の公演からの最も大きな変化かと思う。11月の東京公演から先日の大阪公演まではこの枠は「RUNNING TO HORIZON (206 Mix)」を選曲していた。その際、自分のキーが昔と変わってしまい、高音が出にくいので「歌えるところを歌います、歌えないところは演奏を頑張ります。」と説明されていた。
今回は小室さんが時折鍵盤から手を放して、歌に集中して歌っている場面も見受けられ、「Magic」では小室さんは歌に重きを置くというシフトチェンジを図ったように見えた。
これはとても大きな変化であり進化だと推測する。

「Magic」はシングルカットされた小室さんのオリジナル曲であるが、今までライブなどで披露されることがなかった。22日の公演では小室さんはこの曲を「僕のシティ・ポップです」とも紹介していて、まさにビルボード向きとも言える。ここ数年、日本のシティ・ポップが世界的なブームになっていることも合わせてのセレクトなのかもしれない。客席もとても楽しい雰囲気に包まれていた。小室さんのソロや提供曲には良質なシティ・ポップがたくさんあるので、ご自身の歌声でこれからもこうして定期的に披露して頂きたい。そしてビルボードでの「HIT FACTORY」がぜひ恒例のものになってほしいと願う。

CAROL組曲は「A DAY IN THE GIRL’S LIFE(永遠の一瞬)」から。マドモアゼル・モーツアルトもCAROLも組曲仕立てでダイジェストのように聴けるなんてこの場にしかない贅沢だろう。ピアノに移動し「CAROL(CAROL’S THEMEⅠ)」そして「Just One Victory(たったひとつの勝利)」と続いた。

余談をもうひとつ。22日のセカンド・ステージの公演でのCAROL組曲の時に、ステージの眼下に見える屋外のスケートリンクでひときわ上手に滑る少女を見かけた。リンクの中で華麗に舞う女の子は小室さんの奏でる音楽に乗っているようで、まるであのキャロルのように見えた。

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次に「徒然なるまま」に弾くコーナーへ。最初はglobeの「SHIFT」のメロディから。もしくは小室さんはバッハの「小フーガ」として弾いたのかもしれない。そして「Many Classic Moment」、「CAN YOU CELEBRATE?」。

澄んだカテドラルの音色はまるでヨーロッパの大聖堂の中で聴いているかのような厳かな響き。そしてH jungle with Tの「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント~」がしっとりと切なく。名曲はいつまでも色褪せることがない。最後はglobeの「Feel Like dance」。
小室さんのソロの曲で「シンセサイザーはタイムマシン」という歌詞があるが(アルバム「Digitalian is eating breakfast2」収録の「Vienna」)世界中どこへでも、そして過去から未来へと自由自在に連れて行ってくれるこの空間はまさしくタイムマシンのようだった。

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鳴りやまない拍手に包まれ、小室さんが再登場。「結構歌ったんで、もう1曲くらい歌ってみようかなと。(拍手)これは、詞、曲、僕がピアノで作った曲なんですよ。『女神』と言う曲を。」アンコールはglobeの隠れた名曲「女神」をピアノの弾き語りで。この曲は2日目、22日のセカンド・ステージでも披露され、意外な選曲に驚く人も多かったようだ。
なお、2日目のファースト・ステージのアンコールでは華原朋美さんの「MOONLIGHT」を歌われた。2曲ともとても歌詞がかわいらしい。「女神」の歌詞はもともと一人称が「僕」なので小室さんが歌うとよりストレートに聴こえる。

今回、小室さんは「きみに会えて」、「永遠と名づけてデイドリーム」、「Magic」、「MOONLIGHT」、「女神」の4曲を歌唱されたが、聴いていて歌詞にある共通点があることに気がついた。
「きみに会えている」歌、「どれだけ泳いだら会えるのか」な歌、
「今度の曲がり角で出会うかも」な歌、「あなたとすごせたわたしはとてもうれしそう」な歌、「今日は君に会えない」歌。
どの曲も「会えたうれしさ」「会いたい気持ち」が歌詞の中に盛り込まれている曲だった。人との出会いや交流が途絶えがちなコロナ禍だからだろうか。偶然かもしれないが。

歌い終えて小室さんは「どうもありがとう。(拍手)やっぱりライブはいいですよね。配信で観てらっしゃる方ももちろん、さっき観たけど結構きれいに撮れてましたけれどね。あのぜひライブへいらっしゃって欲しいと思いますけれども。さっき決まったんですけど、この『HIT FACTORY #1』の追加公演が(拍手)決まったようで。2月はTM NETWORKの配信(ライブ)があるので、2月はお休みして3月の17、18日にビルボードライブの横浜がありますので。何もないといいですね。というわけでまた、その時に会いましょう。どうもありがとう。」
今夜の余韻とうれしいお知らせに沸く観客の拍手の海の中、小室さんがステージを離れ、手を振りながらフロアの階段を昇っていく。

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今回の特徴は小室さんの歌唱が増えたことと最初に述べたが、それについて少し追記しておきたい。
お休みする直前頃の小室さんは時々自身の歌声について「僕の歌はちょっと…」と謙遜気味に語ることが多かったように思う。しかし、「先生の歌」をファンはもっと聴きたいのだ。
事実、現在ファン・コミュティアプリのファニコン内での定期配信(TK Friday)やゲリラライブと称した不定期配信での歌唱は多くのコアなファンを沸かせている。配信時のファンとのやり取りでも「小室さんの歌が好きです。」と語る方が男女問わず多数見受けられた。また11月からのビルボード公演の感想でも同様に歌への賛美の声がとても多かった。

トラックメイカーのtofubeatsさんはインタビューの中で「以前、とある女性シンガーの方が歌うために小室哲哉さんが作った楽曲をアレンジしたことがありました。そのときに小室さんの仮歌をもらったんです。その小室さんバージョンの歌が、めちゃくちゃよかったんですよ。やっぱり自分で作った歌は、すごくリズムがなじんで音が少し合っていなかったとしても、揃うところが揃っているんですよね。」と述べている。
また、小室さんが乃木坂46に「Route246」を提供した際、同グループの齋藤飛鳥さんは「今回センターをやらせていただいていることもあって、みんなが仮歌を聴くちょっと前に聴かせていただいたんです。その時にはたぶん小室哲哉さんご本人の声だったんですね、私、小室さんのドキュメンタリーとかで、曲を作りながら言葉じゃなくて“ナナナ~”みたいな感じで歌っているのを観て、『めっちゃかっこいい』と思っていたので、実際に自分が参加する曲でそれを聴いたら感動しちゃって。うれしかったですね。」とラジオ番組の中で語っていた。

このように新しい世代のアーティストの中でも小室さんの歌は絶賛されている。
シンガーソングライターとはスタンスが違うかもしれないが、作曲家、トラックメイカーが自分の作品を歌うことの「エモさ」は何物にも代えがたい。作った由来やその時の気持ちがダイレクトに込められているから。それが時代を超えて蘇り、リスナーの思い出ともリンクして多くの人の心に残り続けることこそ音楽の本当のよさ、価値だろう。

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先述のとおり、3日目のこの公演は全世界対応でストリーミング配信された。この日のこの時間、世界各国や日本の各地から、そしてもちろん客席から、このステージに向かって強い思いのベクトルが発せられていただろう。アーティストやスタッフの熱量も含めて、もしも可視化することができたらものすごいエネルギーだったのではないだろうか。きっとこのエネルギーこそがライブの魅力であり、化学変化のように融合してその場でしか感じえない雰囲気を醸し出す。

後日、ファン・コミュニティでの配信で小室さんはアルバム「Hit Factory2」構想なども話されていた。もしも今後現実化したらとてもうれしい。新たなことに意欲的に打ち込む小室さんを見て、閉塞的になりがちな時勢であっても、自分もがんばろうと思えた人も多かったのでは。

楽しい音楽の時間は今月(TMのライブ配信!)も、次の月(ビルボード横浜公演!)も約束されて、またスケジュールに心躍る予定が書ける喜びをかみしめながら。

(チケットの取得がんばりましょう!) 

小室哲哉 Tetsuya Komuro
「HIT FACTORY #1」 
billboard LIVE TOKYO 
2022.1.23(Sun) 2nd stage   
【Set List】
M1.Free Play~NOW1
M2.Guardian
M3.きみに会えて(Vo.)
M4.マドモアゼル・モーツアルト組曲
マドモアゼル・モーツアルトのテーマ~ある音楽家へのエピタフ~Love(insert:Sonata for Piano No.11K 331 by Wolfgang Amadeus Mozart)
M5.永遠と名づけてデイドリーム(Vo.)
M6.TK SOLO・1
M7.Magic(Vo.)
M8.CAROL組曲
A DAY IN THE GIRL’S LIFE(永遠の一瞬)~CAROL(CAROL’S THEMEⅠ)~Just One Victory(たったひとつの勝利)
M9.TK SOLO・2
SHIFT〜Many Classic Moments〜CAN YOU CELEBRATE?〜WOW WAR TONIGHT(時には起こせよムーヴメント)〜Feel Like dance
En.女神(Vo.)
<TK's Costume>
ファースト・ステージではストライプのパフスリーブ・ブラウスに黒のリボンタイプの細めのタイ、スリムジーンズ、黒のドレス・シューズ(いずれもサンローラン)。ブラウスのふんわりとした生地が動きとともに揺れて美しい。小室さんが紐があるタイプの革靴を履かれるのは割と珍しいかと。セカンド・ステージではライトが反射するとキラキラと光るようにも見える、サンローランのストライプの白いシャツ(大阪公演2ndと同じ)、そしてかわいらしいタイで登場し、会場を沸かせていた。ヘア・スタイルも動きのあるスタイリングにチェンジされていたようだった。

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