海ぞいの街をみおろすふたつの影

こんなにも深い眠りをあなたは信じたのか

潮の匂いの混じった風をからだで受けて
海ぞいの街をみおろすふたつの影

両足をぶらぶらと宙に遊ばせ
紙飛行機を遠くに飛ばすには至らない

弱々しい風が いま止んだら
きっと昨日の午後に
あなたと畳のうえでしたことを
だれかに言いたくなってしまう

わたしはあなたの真剣な眼差しと
脇腹の傷痕
そしてわたしの浴衣に付いた小さな鈴が
ちろりん、ちろりん、ちろりん、
と鳴りつづけていたことを覚えている

そんな予感がいとおしくなるのも
八月のあなたの腕が逞しく思えたから
あなたのさみしさに出逢えたから

汗をかいた肩に頭をのせて
髪の毛をあなたの鼻に近づけたら
「いい匂いだ」と
返事がくるのを期待する

あなたがわたしの名前を呼ぶ声に
何かの変化をさがしてしまう

わたしが赤い口紅をつけているから
あなたはいつまでも寝たふりをする

おやすみなさい
あたたかい日のひかりが
傾いてくるまで

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