見出し画像

カムデンタウンブルワリーの小話

ロンドンの北にあるカムデンタウンは、ロックでパンクでヒップな街。東京でいうなら、原宿、下北沢といった感じだろうか。このカムデンタウンにあるビール醸造所、名前はそのまんま、"カムデンタウンブルワリー" の見学に行ってきた。

夕方の見学ツアー、定員10人の残り1枠にすべりこむ。25ポンド也。まずはウエルカムビールとして、看板商品 "Hells Lagar" のUnfiltered(無濾過)を半パイントいただきながら、この醸造所の歴史を聞く。

90年代半ば、オーストラリアから旅行に来ていたジャスパー君は、帰りの飛行機を乗り過ごしたのがきっかけで、そのままロンドンに居続けることにした。いくつかのパブで働くこと10年強、2006年にハムステッドにあった一軒の古いパブを買った。店の名前は "The Horseshoe"。現在のブルワリーの蹄鉄型をしたロゴは、この店名が由来だとか。

自分のパブを持ったジャスパー君は、ビール醸造家だった祖父のレシピに従って、自らビールを作り始めた。祖父の名前から "Mac's Beer" と名付け、自分のパブで売り始めた。いつしかジャスパー君はパブの経営よりもビールづくりに夢中になり、パブは共同で保有していた友人に譲り、ビールづくりに専念するようになった。

2010年、カムデンタウンに新たに醸造所を建設。名前も商標上問題のあった "Mac's" を "Camden Town Brewey" に変更、新たなブランドで船出した。その後会社は成長し、2017年にはカムデンタウンから更に北のエンフィールドに新工場を建設、今に至る。

面白いサクセスストーリーとして聞いていたけれど、ウエルカムビールが空になるあたりで「2015年にビール世界最大手のAB InBevが買収した」「ジャスパーはもう引退した」なんて話を聞いて少しがっかり。大手蔵に買われたとは知らなかった。個人的には、クラフトビール屋には独立していることを求めてしまう(勝手だけど)。ブリュードッグのジェームズ・ワットが聞いたら、悪魔に魂を売ったとブチ切れそうな話だ。

歴史のお話が終わると、5種類のビアテイスティング、醸造所見学と続く。ビールの世界に浸ること90分強の充実した見学ツアー。終了後には更に1パイント頂く。大手に買われはしたけれど、個性的で美味しいビールを作るカムデンタウンブルワリーであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?