見出し画像

テクノロジーを用いた申請主義からの脱却

最初は「ギャルでもわかる!テクノロジーを用いた申請主義からの脱却」というタイトルをつけていたら大人の事情で却下されました...😂

この記事は、タイトルの通り「テクノロジー」というツールを用いて、どのように申請主義と呼ばれる社会課題に向き合っていくか。を深掘るものです。

自分はソフトウェアを設計する立場の人間なのと同時に、この日本の市民なので、社会課題というものには一応興味を持っていたりします。

テクノロジーの業界では、大手のSIer(エスアイヤー:開発から運用・保守を行う組織、「NTTデータ」とか「富士通」とかのこと)やコンサル、その他のスタートアップまでもが「自治体・公共のDX」と銘打って日々色んな取り組みをしています。

いわば、"今こそ自治体にこそデジタルを導入しよう!"という流れが数年前から増えてきています。


しかし、そのテクノロジーは本当に自分たちの生活をより良くしてくれるのでしょうか?"生活をよくする"とはなんなんでしょうか。色んな人が居るこの国の社会問題を一緒くたに解決できるものなのか。


「テクノロジーだかなんだか言っても、結局はコンサルに高い金払って終わりなんでしょ?」
「だって自治体のシステムって使いにくいイメージしかないもん」


そういう意見があるのもわかるし、正直自分もそう思う時がある。だけど、そのままにしておいても勿体無いのでなんで自治体がシステムを導入するとうまく行かないんだろう?ということを考えてみる。


その後に、社会問題の1つである「申請主義」というものを例に挙げて、それらをどうやって解決していくのか。私がテクノロジーなら解決できるかもしれない と思う理由などを紹介していきます。

申請主義についてはこちら


まずは私たちの生活に一番近いけど一番遠い、「公共」という存在がどのようにして誕生し、今に繋がっているかを見ていきましょう。


「公共」の現在

⚙️ 産業社会のための仕組みとしての「政府」

社会全体にとって大切とされるサービスや財は、政府によって設計され、管理・運用されるようになっています。
(そっちの方が安全かつ安定的に、誰もがアクセスできるようになると考えられていたから)

みんなで税金を出し合い、その税金を用いて政府がみんなが大切だと考える価値を守る。この仕組みは工業を国の経済の根幹とした産業社会の勃興とともに整備され、その社会に最適化されたモノでした

💪 ⚙️ 💰 👩‍✈️

20世紀の途中までは、それが最も効率よく機能的と考えられる仕組みでした。


⏳ 「公共」の多様化

ところが、経済の主体が工業からサービス業、情報産業に移り変わっていく中で、公共を巡る価値観も多様になってきた。

「社会全体にとって大切な価値とは何か?」という問いに対する答えも、個別化・多様化してきた結果、行政による公共サービスも細分化!(だけど)複雑さも爆アゲ 🕳 😇


💰 公共を「市場」に任せる

こうした「ニーズは多様化しているのにサービスはどんどん限定的になっている」という矛盾を受けて、公共サービスを民営化することで、配給より優れた結果を残せるんじゃないか?となってきた。

資本主義における市場原理に任せた結果、「儲かるサービス」のみが生き残ってしまったのが現代。


この記事で論じる「申請主義」も、小さい政府でも大きい政府でも対応しきれなかった問題の中の1つです。

申請主義

国が制度を用意していたとしても、その制度自体を知らないと申請できない!(あたりまえ)

制度そのものを"知る"以外にも、たくさんの書類や証明を準備して... 仕事を休んで役所に向かい... と、公共制度の利用にいくつものハードルがあり、必要な人に必要な制度が届いていない

このことを、「申請主義」と呼びます。

これ以外にも、「申請主義」で検索すると色んな人の悲痛な声が聞こえてくることがわかります。

🔗「申請主義」を含むツイートを検索
https://twitter.com/search?q=%E7%94%B3%E8%AB%8B%E4%B8%BB%E7%BE%A9%20min_faves%3A100&src=typed_query


画像1

申請主義を無くそう!という活動をしている「ポスト申請主義を考える会」という組織もあります。

気になる方はこちらからチェックしてみてくださいね。


しかし、市役所の人たちやそれらを作る国の人が、わざわざ「めんどくさくしてやろう!」とわざと作っているわけではありません。

本人かどうかを確認する必要がある、その人は本当に困っているのかを確認する(口座照会)などなど、ある程度ちゃんとした理由があって、申請の流れが複雑になってしまっているという一面もあります。

もし間違っていたら大変ですからね!


そんな"中の人の事情"があるとはいえ、すぐに公共制度を利用した方がいい人が制度に辿り着けていないケースが今この瞬間も起きているので、面倒な手続きをこのまま続けるわけにもいけません。


そこで、そういった安全性を担保しながらも便利にする方法として、私はテクノロジーに注目します。


大きな政府でも、小さな政府でも出来なかったことを「テクノロジー」で

公共とは何か?を先ほどの章では説明してきたけど、「大きな政府」がやろうとして出来なかったこと、「小さな政府」がやろうとして出来なかったことでも、デジタルテクノロジーを使えば新しい公共の仕組みを再構築できるかもしれない!と私が考えます📱

なぜなら、テクノロジーは、「最小限のコストで最大限のニーズに応える」「個別化したニーズに、個別に全部答える」ことが得意だから。


ここまでのまとめ
1️⃣ 産業社会のための仕組みとして政府が出来る
2️⃣ 情報産業がメインになってきた結果、対応しきれない
3️⃣ 公共を市場に任せる
4️⃣ 課題ありまくり!
5️⃣ なんかテクノロジーってやつが便利にしてくれるかも(👈 今ココ)


「〇〇テック」「テクノロジー」などと銘打って色んなことが行われているけど、それらは全てがコンピューター上で動いています。

今は人が手でやっている作業の一部(または全部)をコンピューターに任せることで、今まで行っていた仕事がすぐに終わるようになるっていう説明が一番わかりやすいと思います。


そうすると何が便利かというと、「定量的に制御できる環境(A/Bテストなど)」が手に入ったり、「コピー(切り分けて最小環境でテストできたり)」が出来るようになるほか、時間軸的な制御(バックアップ)なども可能になります。これによって、継続的な改善ができるようになってきます。

その他にも、容易な拡大(スケーラリビティ)が出来るようになり、一回作っちゃえば色んな人に同じサービスを提供できるようになります!


ここまでが「テクノロジー」とは何か、という説明になります。

(ちなみにDXについてもっと詳しく理解したい人は、こちらのマガジンがおすすめです!)


そんなテクノロジーを活かせば、「大きな政府」でも、「小さな政府」でもないスタンスを実現できるかもしれない、それがデジタル立国だと思う。

例えばエストニアは、「e-government」というサイバー空間に設けられた国民データベースがあり、この上で銀行口座の管理や不動産関連の手続きのほか、法人登記などの国民サービスが利用できる。同サービスはブロックチェーンを活用した取り組みなども推進している。


中央政府が「デジタルOS」として、国民サービスを構築することは、アジリティの獲得につながる。

例えば、例に挙げたエストニアは独立前に旧ソ連下にあり、いつ"実態としての国"が占拠されるか分からなかったという不確実性と隣り合わせな状態にあり、苦渋の決断の結果「デジタルOS」としての行政組織を構築した。


エストニアの例から、国が変革する経緯に、「閾値効果」という概念があると考えている。

閾値の話で言うと、小さな政府が押し進められた原因として、1970年台の「英国病」と呼ばれる政府の硬直化が起こった。同国であるイギリスは、今は世界最高レベルの電子立国といっても過言ではないほど先進的である。


そんなイギリス政府の先進的な電子立国の取り組みに、公共情報のポータルサイトの「gov.uk」がある。

政府系サイトが乱立するのを防ぐために、統一されたガイドラインの上に構築されたWebシステム、エンドユーザーである市民は1つのサイトにアクセスするだけで情報が手に入るのだ!

gov.ukの情報を日本語で @nolimitakira がまとめてくれた



政府機関がGitHubをゴリゴリ運用してたりするのって信じられる?


「デザインシステム」という文脈でもかなり先進的だし、数々のコンペティションでの受賞歴もある。国がだよ!?


行動経済学による行動変容の「ナッジ」という概念を公共サービスに活用した例もある


別に政治的主張をしたいわけではないけど、毛沢東のいう「革命の条件」は"若いこと. 貧乏であること. 無名であること"といったりする、まさに閾値による変化という概念はあると考えている。


プラットフォームとしての行政

公共を「市場」に任せた結果、「申請主義」のような社会課題が浮き彫りになったと最初の章で書いたけど、その問題を解決するためには大きな政府ではなく、電子立国。

テクノロジーを用いた小さくて大きい政府を推進していけば解決に近づくのではないかと考えている。


じゃあさっきのエストニアやイギリスの例を参考にするとなると、現状の日本で考慮すべき点はどこだろうか?

シンプルに人口。人口こそが国の国力であり、システムとしてみた時に他のものは些細な問題でしかない。ましてやめちゃくちゃ国土が広いとか、たまたま領土から石油が沸くとか、そういうのでない限り人口は正義。


このままいくと、労働人口が減るのと税収入が減るから行政サービスは低下するわ地域公共交通は撤退するわ、空き家増えるから限界都市が増える。

画像2

国土交通白書 人口減少が地方のまち・生活に与える影響」より

そうなると、さらに人口が減る。これがデス・スパルだ...!


そもそも今の状態でも地方の自治体の財政とか相当厳しいわけで、これ以上税収入が減ると、そもそもそんなところには住めない(生活財を維持できない)よね、となってしまう。


今の行政の仕組み自体が、結構前に作られたものである以上そろそろデジタルを根幹においてもいいんじゃないか?といってすすめられているのが、公共のDXと呼ばれるものだったりする。

民間と政府がコラボレーションする、「プラットフォームとしての行政」


日本の地方政府という本の中で、著者で曽我謙悟という政治学・行政学をやっている人は

「公共問題の解決策の選定」と、政策実施の立場から行政が退くのであれば、行政の存在意義はどこにあるのか

といってたりする。


つまり、「小さな政府をめちゃくちゃ進めていって、民間企業が地域の公共課題を解決していくようになれば行政要らなくない?」みたいな批判。専門用語で言うと、PFIとか、そういうの。

(実際に少し前に佐賀県武雄市でツタヤ図書館の件で揉めてたりする)

公共の財産である図書館を(蔦屋書店とかの会社)民間がやるのってどうなの?みたいなハナシ


そんな経緯もあり、じゃあ行政の存在意義ってなんなの?というものに、

それは、「何が公共問題か?」という問題設定を行い、その解決に向けて民間部門の協力を引き出すことである。
問題設定の上に解決の道筋を与えるのは、政治家と民間部門だけでは難しく、行政の役割となる。
ここに示されるのはプラットフォームとしての行政という考え方である

曽我謙悟はいってたりする。


具体的にいうと、サンフランシスコとかは先進的な取り組みをしているし、近い国で言うと、アジアの中にある台湾とかも「プラットフォームとしての行政」を徹底しているように思う。


別に日本もやっていないわけじゃない、地方行政と民間事業者を端渡すネットワークの Urban Innovation Japanとかもある(ちなみに弊社Civichatはここと一緒にやって熊本市と実証実験した)


あとはCode for Japanも課題を持ち込んでハッカソンするみたいなのやってたりする(これは純粋にテックの人なら楽しいと思う)


「プラットフォームとしての行政」が確立されたあと、より活発に社会課題を解決していくための仕組みとは。

CivicTech系のハッカソンとか、公共・行政領域(GovTech)系のベンチャーが生まれる仕組みを行政はどのように作れるのだろうか。

結論から言うと、「度量衡」を整備して、エコシステムを育てる。


中央政府は「度量衡」を整備する

" 始皇帝アウグストゥスの時代から国は道路を作り、治水をしたり、さまざまな取引をしやすくするために物を測る単位、つまり「度量衡」を整備し、取引の際のルールを作ったと言われています ──"

─ NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント

度量衡(どりょうこう)」は基準みたいな意味です、具体的なものを指しているわけではなく、"制度そのもの"を指す言葉です。


この「度量衡」というのは、少し前だとお金の単位や長さ(度)とか、体積(量)とかでした。

普段使っている、長さを測る単位である「メートル」も度量衡の1つです。


じゃあこの度量衡を考え直すことにしましょう

再定義(DX)すると、度量衡というものは「ハード・ソフトなインフラ」から『デジタル公共財』になります。

今まで政府が住所や戸籍を整備していましたが、今後は本人確認や電子署名を整備していかなければいけません。


具体的に言うと、APIとかですね。全体としてはデジタル化が遅いのは否めないですが、先進的な組織では少しつづ整備できるようになっていってると思います。


画像4

画像5

21 世紀の「公共」の設計図(経済産業省)の資料にも、"公共財が変化する"とはっきり書かれています。

画像3

経済産業省(METI)の資料がカッコ良い&中身たっぷりなのでおすすめです。

画像6


(ちなみに経済産業省は「gBizID」という法人向けポータルがGoogleログイン(Auth0)に対応してたり、Swagger上でAPI公開してたり...他にもTwitterやnoteを使ったアウトリーチや、資料をGitHubにあげるなど今一番イケてる政府系組織だと思ってるのでウォッチするべし!)


画像の引用元のこの本もめちゃくちゃ面白いので読むべし


中央政府が度量衡を整備するとなると、次は民間のエコシステムが育つようになります。

ソフトウェアのスケーラビリティと「コモン」の管理

例えば最近シビックテックのコミュニティーで話題になった、「東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト」などはオープンソースで開発されたOSSです。

これは、元となる感染者数などのデータが誰でも利用できるようになっていることが前提で、シビックハッカー(市民・民間の人たち)が開発しています。

しかもこれ、「東京都」がGitHubアカウントを持っているのすごくないですか!???

度量衡を整備し、データを公開すれば市民自ら手を動かして社会課題を解決できるようになる。これがシビックテックそのもので、エコシステムなのです!

"これはコモンをいい感じにする"という点で、斎藤幸平氏の「人新生の資本論」の主張に通じるところがありますね。

(本の主張に対して、個人的には「コモン」の管理には大体同意。マルクス主義を〜という面は微妙)


「申請主義」とソフトウェア、Civichatが目指すところ

これまでは公共の経緯や、それに伴って顕著化した「申請主義」という社会課題。そしてプラットフォームとしての行政について触れた。

ここまで追ってきた読者であればこう思うのではないだろうか、「あれ?そろそろテクノロジーでどうにか出来るんじゃない?」と。

結論から言うと、YESで、それをどうやっていくかという点が面白くなるところ。


申請主義という問題は、「選択肢の認知」「行使」のステップに分けることができる。

これらをより先進的に、便利に、誰も取り残さないようにするには、「行政サービスのワンストップ化」と「プッシュ型の支援」が不可欠。

ここを今(なにかと)話題のデジタル庁や、河野太郎氏とかがやっていくんだけど、ソフトウェアの技術だけじゃなくて構造的な問題があるな〜と思うのが私の見解。


ワンストップ化

ワンストップ化という流れだと、gov.ukとかはすでにやってるから技術的には可能なのかな、と思ってたりする。


プッシュ通知

制度からの孤立」というテーマでポスト申請主義を考える会横山さんが書いているけど、以下の1つでもピースがかけると公共サービスは受けにくくなる。

画像7

1. 誰もが解雇、精神疾患などによって孤立する可能性がある

孤立化するのが劣性なのではなく、誰しもがその危機に陥る可能性がある


2. そうなったときに、冷静に手を動かせるかどうかは分からない

ほとんどの場合、難しい


余裕がない時に自分で手を動かして、新たに情報を手に入れるのは難しい。だからプッシュ通知が必要。

実際、ケイスリーがナッジを利用した行動変容に取り組んでいたりする(ちょっと違うかもだけど、活用はできると思う)


実際、ワンストップ化とプッシュ通知というのは一緒に進められるものだったりする。なぜかというと、情報を持ってないとプッシュ通知の判断ができないから。

「度量衡」としてのマイナンバーカードに言及する、認証系サービスを提供するxIDの日下さん。


プッシュ通知の議論は結構活発にあったりする、東京都副都知事の宮坂さん。

内閣府の番号制度のレポート

画像8

画像9

画像10


ソフトウェア上に設計することで、計測が可能になる。そうなると、科学的な施策(EBPM)とかが可能になる。だからこそDXしなきゃいけない。

そうなると、給付金とかもやりやすくなる。

Code for Americaの取り組むP-EBTのプログラムとかも関わってくる領域。

これで申請主義とかもだいぶ軽減できるようになるかもしれない。

こんな感じで、ソフトウェアを前提とした国づくりにはまだまだ課題もあるけど、今までの前提が大きく覆る気がする。


以前は取材でこんなことを喋った

僕は「スケーラビリティ」こそ、テクノロジーの魅力だと思うんです。自分で生み出したサービスや技術は、インターネットで瞬時に世界中に共有できる。その影響は計測でき、どのくらい広まったのか。どんなふうに使われているのか、どんなところに改善の余地があるかも知れる。そこで改善を加えれば、さらにスケールしていく可能性もあります。
加速に疲れた人もでてきています。大衆迎合主義と訳される「ポピュリズム」と言われる政治思想の台頭や、ゆったりやまったりを意味する「チル」という言葉が支持されるのも、加速へのアンチテーゼでしょう。社会が変われるスピードは一定なのに、変わろうとする力が働きすぎて、軋轢が生まれている。この加速についていけない人は、とてもつらいはずです。
急進主義と漸進主義の関係性のような(参考:「フランス革命についての省察 (光文社古典新訳文庫)」)、こういった状況は決して21世紀の問題ではなく、過去にも繰り返し起きていました。「歴史は揺れ返す」ということを頭に入れながら古典を読むと、少しだけこのあとの未来も予想できる気がしてきます(笑)。

行政という領域で民間が事業をするのは簡単ではないけど、ゆっくりでも包括的でヘルシーな世界線を目指せる可能性があるなら手を動かしてみたい。


Civichatの思想とかに関しては取材してもらった記事を読んでもらえばいいと思う。


今一番アツい領域としてのCivicTech

間違いなく今一番アツい領域がCivicTech、GovTech。行政、公共。みんなでやろう。

できることをまとめる

Code for JapanのSlackに入る

寄付もできる、CCCu22という若者向けのハッカソンとかもある


NPOへの寄付とかも

「ポスト申請主義を考える会」とか「ユキサキチャット」みたいな申請主義と戦っている非営利の組織とかもある


公務員になる(デジタル庁は採用中!)


OSSに参画する


うち(Civivchat)に投資する



私の積読を加速させるお金になります