標準装備

痛くないふくらはぎと柔らかな背脂。

僕のクラスの標準装備。全員にもれなく配備している。

ふくらはぎはお互いにふみふみしてやわらかく、背中の肉をぐいぐいと引っ張って骨、筋肉、皮下脂肪、皮膚の癒着をひきはがす。おもに身体の前面など自分の手の届く範囲は各自自宅でやるということで。手の届かない範囲はクラスでお互いの手と足を借りて柔らかにほぐしていく。

今週から新たな標準装備として導入したのが「はがれる肩甲骨」。こわばった筋肉で肋骨と一体化してしまった肩甲骨をバリバリとはがす。文字通りばりばりと。

こわばった身体で練習するとその動作を身体が記憶し、こわばった動きが身についてしまう。入念にほぐして、よく動くようにした身体で動作すれば、その動作を身体が記憶する。マッスルメモリーとか、動作学習とかそういうやつ。

これらの標準装備はシステマのトレーニングを助けて、技のキレを向上させてくれることでしょう。でもそんなのは単なるおまけ。僕はもっといいものだと思うからこそ、標準装備の総員配備をすすめているのです。

いま、私のもとでシステマをやってる人たちはたぶん、10年後とか20年後、あるいはもっと先に「同年代の友人は体調悪くしていろいろ大変そうだけど、不思議と自分は健康だな」という体験をするでしょう。そのための下ごしらえが標準装備のもうひとつの狙い。何事もなく無事なこと。そういう普通の日々が、たぶん身体を気遣うことなく年齢を重ねた人たちよりも、多少長く続くようにしているのです。

それが標準装備。

丹念に緊張を取り除きながら長生きすると人はどう老いるのか。僕の中で理想は野口晴哉師の奥様、野口昭子夫人。生前の昭子夫人には何度かお目にかかって、相互運動をさせて頂いたこともありました。二人一組でやる相互運動は体力のある者が自然と後ろに回って、もう一方の運動を誘導するのだけど、触れた瞬間の身体の柔らかさ、触れられた瞬間の手の軽さは人生観が変わるほどのものでした。

いまでも思い出すと文体が「です、ます」調にかわってしまうほどの、得難い体験。立ち姿は天からたらされた一筋の絹糸のようで、活元運動はその絹糸がゆらゆらと微風になびいているかのよう。

僕は色々な人を通じて整体をかじりましたが、昭子夫人の佇まいほど雄弁に整体の威力を語ったものはないでしょう。

昭子夫人は2004年に87歳で逝去。

夜中に離れで仕事を終え、母屋に帰る途中にパタリと倒れてそのまま亡くなられたのだとか。まさに理想の最期です。

標準装備とはそういう最期を迎えるための第一歩。

最期の一息を一切の後悔から解き放たれたものにするために。

システマのはなしだって書くんです。







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北川貴英

A logical dedication

北川貴英が書く雑感。「誰だお前?」という人向け

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