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シャンタル・アケルマン映画祭@名古屋シネマテーク(2022年7月)

名古屋シネマテークでのシャンタル・アケルマン映画祭での5本、完走しました。アケルマンはベルギー出身の孤高の映画監督ですが、誰?という方はまず、卒業制作の短編「街をぶっとばせ」を観てください。12分でセリフなしです。なかなかに不穏な雰囲気です。

細部の微細な動きを長回しでとことん撮り切るあたり、ロブ=グリエなどとはまた違ったヌーヴォー・ロマン映画という感じ。海に行くにはまだ遠い、ベルギーのクレプスキュール=薄明の台所こそ真のアクションの場ということです。どれも実験的な作品で、全部うまくいっているとも思わないけれど、総じて満足しました。ネット配信とかもほとんどないし、DVDになっていないのも多いので他作品を観るのが困難だけど、まあそのうちなるだろうからぼちぼちチェックです。

1.「私、あなた、彼、彼女」(1974)

アケルマン自身が演じる若い女性が、通りに面した、中が丸見えの変な部屋で裸になって砂糖をもりもり食べながら誰か男性(あなた)を待っている。アケルマン演じるこの女性はともすればコケティッシュに見えそうなんだけど、いちいちそれを邪魔するようなナレーションが入ってくる。「私は○○した」という説明の後にだいぶ時間差でそのシーンが出てくるので、そちらに注意を持っていかれる。これはこれで男性のまなざし(male gaze)を拒否する工夫なのかなと。オムニバス的な作りで他にもいろんなことがなされていて、なんだか学生映画みたいな観念的なほうに流れるあやうさもあるんだけど、自分自身が演じながら視線をズラしていく実験精神はすごいのかもしれない。★3.0

行きずりの男性とそれらしい仲になる。しかし2人は目を合わさない。

2. 「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス湖畔通り23番地」(1975)

これはさんざん語り尽くされた古典なので別にいいかと思うのだけど、比較するとしたらファスビンダーの「何故R氏は発作的に人を殺したか?」(1970) になるだろうか。R氏の場合は日々のイライラをとことん抑圧したうえでのあのラストで、まあ、そういう作り方自体があまりいい意味でなく男性的である。それに対し、このD氏では家事でのちょっとした失敗など、ラストに至る過程が事細かに、とことん引き伸ばして描かれている。台所はアクションの場なのだ、これが退屈だと思うならばジェンダーステレオタイプにハマっているのだ、と告発しているようだ。★4.5

コーヒーを淹れるアクション

3. 「アンナの出会い」(1978)

これはもうとことん構図がかっこよければそれでいいみたいなので、実際、左右対称の変な空間とか、けっこうな長回しによる横移動とか、いい感じに決まっている。ただこれもある種のフェミニスト映画ではあって、ヒロインは何人かの男性から求められつつも残酷に拒む。面白いのはそれを構図レベルでやっていることかもしれない。★4.1

4. 「囚われの女」(2000)

プルースト原作で、レズビアン恐怖の青年の偏執的な様子をなかなかに気持ち悪く描くもの。画面の作り方としてはブニュエル、アントニオーニ、オリヴェイラといった人々が思い浮かぶ。1970年代南欧風ヌーヴォー・ロマンといった感じ。でもまあ、2000年製作の映画としてはちょっと古臭いのは否めないか。★2.8

5. 「オルメイヤーの阿房宮」(2011)

フランスから渡ってきてマレーの熱帯雨林で悪い商売をしようと企んでいる男と、その娘の物語。場所はむちゃくちゃに暑そうで、しかも水に濡れてばかりでべちゃべちゃなんだけど、それを感じさせない光の使い方が特徴的というか。かなり強烈に照らされた光のせいで不思議な非現実感がある。今回の5本のアケルマン作品に共通するんだけど、画面を明るくしたり暗くしたりという、スイッチ1本の切り替えで映画的カタルシスを随所で作り出している。最後のほう(画像5枚目)、目の覚めるような真っ白な砂浜での別れのシーンは映画史に残るレベルの美しさではないか。★3.8

追記

名古屋シネマテークは、名古屋地下鉄「今池」駅すぐです。毎回攻めた映画を上映しているので、お近くの方も遠くの方もぜひ。
★公式サイト:http://cineaste.jp/


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