1.牧野富太郎記念館(東京）
2.東京ちひろ美術館（東京）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　3.内藤廣の建築の解釈                                                           （牧野富太郎記念館、東京ちひろ美術館、フォレストイン益子）

これまで訪れた内藤廣の建築と著書から内藤廣の建築を分析、解釈

○自然の読み取り方－仕上と時間と空間体験
○環境との関係の作り方－建築物と使用者との距離
○共同性の作り方 ー具体の積み重ね

○自然の読み取り方－仕上げと時間と空間体験
・内藤廣は、自然との関係の作り方の部分で、時間を意識させる建築を造っていると思われる。
・特に外装材の劣化の時間と周囲の自然環境の時間変化の過程が、建物と自然との間に特徴的関係を生んでいると思われる。
・一方で、東京ちひろ美術館では外装での時間の流れはあまり感じられない。むしろ、時間の流れは内部での空間体験の中にある。使用者は、内部を歩くという非常に短い時間の中に多様な材料や天井の高低差等で奔放な空間体験をすることとなる。その空間体験は、使用者の一生の中で一瞬の出来事である。これが、人の一生の中で非常に短いこどもである時間の短さと多様さの隠喩になっている。そのこどもの時間とは、子供の絵本作家であるいわさきちひろの美術館という目的とまた合致する。
○環境との関係の作り方－建築物と使用者との距離
・内藤廣は、初期の海の博物館の影響からか、ホール状の空間を得意とする印象があった。また、それにより建物と建築との距離がややあり、内部空間でも建物は上に見上げる対象として、人間から少し距離のあるものに感じられた。しかし、それはこれまで訪問したことのある建築がそうだっただけということが今回の東京ちひろ美術館と牧野富太郎記念館で発見できた。
・東京ちひろ美術館は、ホール状の空間は1つあるが、あくまで全体構成の中の１つの室であり、それ以外の室は今までいくつか体験した内藤廣の建築とは違い、より空間を体験している人との距離が近く建築物の空間を体験しているという印象が強かった。また、この距離の近さは周辺の建物とのスケール感を合わせることにより生まれたものと思われる。
・従って、フォレストイン益子で感じた建物と身体との距離が遠いという印象は、周囲の大きな自然環境と共に考えると理解できる。建築と使用者の距離をある程度とるホールの建築のすることによって、建築物の存在感が薄れることでより広い周辺環境の一部として建築を体験する状態になっていると思われる。これは、建築物と使用者との距離を使づけて、建築の空間体験をさせる東京ちひろ美術館とは異なる手法であり、これまで見てきた内藤廣の建築に共通する特徴だと思われる。
・そして、牧野富太郎記念館は、その丁度中間に位置し、敷地自体はけして広くないがフォレスト益子以上に植物との関係が近い。従って、外装としては植物の持つ時間に馴染むように経年変化が見える材料として内部空間自体は周辺に住宅近似にスケールを利用して建物と人との距離を近づけている。
○共同性の作り方－具体の積み重ね
・内藤廣は、それほど大きくない集団の中での共通の認識となる建築を素景と呼んでいる。
・それは抽象的な形のことではないが、フォレストイン益子、東京ちひろ美術館、牧野富太郎記念館ではそれぞれ具体と抽象がバランスをとっている。
・フォレストイン益子は、より巨大な建築生産という対象への応答がトラスの端部で斜めの壁を作っている。このななめの壁は、表現としては具体だが、それほど大きくない集団の中での共通する認知の建築ではなく、抽象的な建築生産という対象に対しての回答のため、素景と相違する論理の中で現れた部分となっている。
・東京ちひろ美術館は、ごく小さい集団ではなく、いわさきちひろという作家のための美術館であるのでその点が素景とは相違する論理による建築の部分となっている。
・牧野富太郎記念館では、特にその全体形態において、敷地内の植栽の枝葉のラインに合わせた屋根形状や外装の使い方等においては、牧野富太郎という人間との関係を示すと共に植物を扱うことを仕事とする又は生業とする人々という集団の素景に近いものになっている。さらに、牧野富太郎が生きていた時代に存在しなかったアルミサッシを使用せずスチールサッシのみを使っている点も、牧野富太郎が生きた時代を表現している。これらは、抽象的なある形に仕上げを付与していくというよりは、具体の積み重ねによってある共同体に共通する記憶を作っていると思われる。

・内藤廣の言う共同体の解釈
内藤廣とオルテガ（の個人的解釈）｜tkm1982 (note.com)
・フォレストイン益子
フォレストイン益子　内藤廣｜tkm1982 (note.com)
・牧野富太郎記念館
1.牧野富太郎記念館（東京都）内藤廣｜tkm1982 (note.com)
・東京ちひろ美術館
2.東京ちひろ美術館　内藤廣｜tkm1982 (note.com)