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2022年の学生フットボールシーズンを終えて

先日、12月18日の甲子園ボウルを持って、
2022年の学生アメリカンフットボールのシーズンが終わりました。

関西学院が34-17で早稲田大学を退け、学生日本一。
歴史上、3チーム目となる5連覇を果たしました。
ちなみに前の2例は1973年から77年の関学と、
それにつづく78年から82年の日大です。

https://youtu.be/CFFo4mdFCzQ

今はネットを通じて各地域のリーグの試合が観戦できたり、
ハイライト動画なども観られるようになったので、
一昔前より観戦の環境はずっと良くなりましたね。

これはコロナがもたらした影響の良い面かも知れません。

そして今年、関西ではコロナ後では初めて、
関西学生リーグ8チームの総当たり戦が再開されました。
2019年以来ということになるわけですが、
二年間、試合数が圧倒的に少なかった学生たちにとって
ものすごく過酷なシーズンだったと思います。

関東の学生リーグでは、コロナ禍の調整によって
Top8が10チームになっていたということの経過から、
リーグをABブロックに分け、シーズンも前後半に分けた上で、
後半に下位リーグ戦に出場するチームは
全チームにBig8への降格の可能性があるという
変則的な運営になりました。

ちなみに前半4戦の結果、上位に残ったのは
早稲田、法政、明治、中央、立教、東大
下位になったのは
日大、慶応、横国、桜美林

横国と桜美林はBig8降格、日大と慶応はTop8残留となりました。

今まで私は特定の試合(関学か日大)しか
観戦していなかったのですが、
今年は関東の大学の試合を現地で複数観戦し、
とてもいい経験をしました。

それは実際に試合に行くとサイドラインの様子が見えることです。
とくにアミノバイタルフィールドは観客席とフィールドが近く、
(良い面も悪い面もあるでしょうが)
試合中もハーフタイムも、サイドラインがよく見えます。

私がフットボールを観るときにいちばん気にしているのは、
実はプレイ選択や戦略などではなく、
チームの一人ひとりの「心の動き」なのですね。

ダラダラと緊張感がないのか、ビシッと引き締まっているのか、
窮地を乗り越える強さがあるのか、流れに負けてしまうのか。
そういう「雰囲気」は、現場ではよく感じられます。

モメンタムとはよく言われますが、
私が観ているのはモメンタムと同時に、
モメンタムを作り出したり、それを無視する力があるかどうかです。
そしてそれは試合会場で、試合の当日に、
その場でできることではなく、
春の練習初日からの積み重ねの結果が現れているものです。

そういうことを試合会場で観ています。

私がもうひとつ、今年感じたのは、様々なチームの観客の雰囲気です。
最初は純粋に「良い場所」から試合を観たかったから、ですが、
基本的に50ヤードライン周辺の位置から観戦しますと、
自然と父母や関係者、OBたちに囲まれることになります。

そういう人たちがどんな雰囲気で会話し、
試合を観ているのかを感じ取れたことも勉強になりました。

今年、関西でも関東でも、
もっと言えばそれ以外の地域でも、
特に印象に残ったことがあります。

それは「接戦」が多かったことです。

フットボールという競技の本当の面白さを知るには、
「接戦」を観るのがいちばんです。
フットボールは接戦になるか、
大差になるかのどちらかになることが多く、

野球で言えば1点差か6点差、というイメージでしょうか。

3~4点差というような「普通の点差」が少ないのです。
それは試合時間が決まっているということと、
攻守が分かれた陣取り合戦になっているという競技の特性によるのですが、
接戦になったときに競技が最高に面白くなるように設計されています。

逆に言えば大差になると、
試合の行方としては退屈なゲームになってしまいやすい。

そういう傾向があるのですが、今年は本当に接戦が多かった。
だから、試合を見に行った人には劇的なものが多く、
とても楽しいシーズンだったでしょう。
(やっている方は大変だったでしょうね)

例えば、東京ドームで行われた関東の開幕戦。
東大ー中央での、東大のアップセット。
そして日大ー明治での日大の大逆転劇。
https://youtu.be/9SMRiIxaXo0
https://youtu.be/J0908gwEqkY

今年の春は明治大学の調子が良く、優勝候補の一角と見ていましたが、
秋の開幕戦の日大戦でいきなりの逆転負けは
シーズンを混沌としたものにしました。

ここから、このような劇的な試合が幾度となく繰り広げられました。

日大ー立教の逆転に次ぐ逆転とヘイルメリーパスによる結末は
記憶されている方も多いでしょう。
https://youtu.be/Yb-NfmW_1VQ

一昔前なら、大差のスコアボードが想像されるカードが、
互角の展開になっている場合が多いし、
最終的には点差が開いてしまっても、4Qに入るまでは接戦、
というケースも多々ありました。

実力が伯仲していることを実感しますし、
これは高校の有力校の経験者が各地の大学に分散していることや、
フットボールの情報が流通していて
「いいフットボール」や「いいフットボーラー」を観るチャンスが
格段に増えたことが原因だと思います。

これは競技としては悪くない傾向だと思います。

この傾向は、地域のリーグでも恐らく顕著だったのではないでしょうか。
私が特に印象に残ったのは、
甲子園ボウルのトーナメントでの中京大ー東北大の一戦でした。

オーバータイムでも決着がつかず、2度目のオーバータイムへ。
しかもそのフットボールの質が非常に向上していて、
観るものがハラハラドキドキすることができる。

https://youtu.be/XIUD6AJ5y7E

やっていた方は本当に大変だったでしょうが、
観る者、フットボールを愛するものにとっては
「これぞ!」という素晴らしい試合でした。
地域のリーグのレベルがどんどん上がっていることを実感しました。

関東Top8ではいくつか印象に残るチームがありましたが、
そのうちのひとつは中央大学です。

17-21東大(ここでまさかの敗戦)
59-7桜美林(ここで気持ちが乗り)
17-17早稲田(関東を制した早稲田と同点・タイブレークで惜敗)
10-33明治(ここで気の緩みが出てしまったか)
22-36法政(攻撃は機能することを証明)
42-17立教(安定した力を発揮)

先述の通り、開幕戦では格下と見られた東大に敗北し、
そこから勝ったり負けたりを経験しましたが、
サイドラインの雰囲気や試合後のハドルの様子からは
1試合1試合を学びの場としている姿勢を感じました。

モチベーションの高さ、サイドラインでの緊張感、
マインドの質の高さは素晴らしいと思いました。

特に第3戦の早稲田大学と同点の勝負をしたことは
彼らにとっても、早稲田にとっても大きなことだったでしょう。
その後につづく明治戦での敗戦が大きな分岐点だったと思いますが、
ここから何を学びとって行くかです。
https://youtu.be/EKsjTRKP-Rw

来年、2022年の経験をチームとして活かせるかどうか。
とても楽しみです。
#13の松岡選手に注目したいと思います。

関東でもう1チーム印象に残ったのは横浜国大でした。
もちろんチームは全敗してしまったのだけれど、
すべてのチームの目標が甲子園ボウルではないのです。

二部のチームというのは、部員の数や練習環境、
学校からのバックアップ体制など、様々な制約がある中で、
全力でフットボールをやっています。

そんな彼らにとって、一部リーグでプレーすると言うことは
大いなる脅威なのですね。
二部で最強のチームが、翌年、一部で全敗する。
例えば同じ最終学年の一年間を過ごすとして、
二部で優勝し、チームを一部に昇格させたことは
二部のチームにとって甲子園ボウルに勝ったのと同じ価値があります。

しかし一部のチームは翌年、ゼロからスタートするだけですが、
二部だったチームの翌年は、あらゆる面でレベルが違うリーグで
一年間を過ごすという過酷なものなのです。

そんな中でモチベーションを維持し、挑戦する姿勢。
「勝ちたい」という気持ちを持っていること。
1タッチダウンしたい、得点したい、という熱い気持ち。

それが伝わってきました。

#1のQB壽藤選手の能力は素晴らしく、
#10のレシーバーの選手も高い能力がありました。

横国アメフトのHPには4年生が書く
「ラストエッセイ」というコーナーがありますが、
そこは是非読んでいただきたいですね。
https://mastiffs.jp/category/news/2022-lastessay/

応援席の雰囲気も温かく、勝利が全てではないということ、
だからこそ勝ちたいのである、ということを
心から感じさせてくれるチームでした。

来季はBig8ですが、是非がんばって欲しいです。

関東と関西では、やはりフットボールの質がちがっていて、
それは「地域の文化になっているか」というちがいだと思います。

それは二部の試合やBクラス同士の試合の内容の
質の高さから感じ取れるものです。
龍谷大や大阪公立大の試合は、パワーとスピードが劣るものの
試合内容としてはとても素晴らしく、また観ていて楽しい。
https://youtu.be/DT2IDlBriuY

関西ってすごいなと素直に感じさせるものがあります。

そしてやはり関西学生リーグの最後の3節。
関学、立命、関大の3校の激突はすごいものがありました。
2022年学生フットボールの最高レベルの試合だったと思います。

多くの人が、立命ー関大戦を
今年の最高の試合と位置付けるのではないでしょうか。

ものすごく緊迫した空気の中で、選手もスタッフもコーチも
全員が一丸となってぶつかっている学生スポーツの美しさを感じました。
https://youtu.be/h362DtCzi9Q

そして関学ー関大、関学ー立命ですね。
あの修羅場をくぐり抜けているからこそ、甲子園でも
早稲田を相手に落ち着いた態度を貫けるチームになったのだと思います。
https://youtu.be/p-CvDqV2FrI
https://youtu.be/00a02HNAhio

2023年、関学ファイターズは6連覇を目指すことになります。
それは前人未到の領域です。
立命館も関西大学も、目の色を変えて挑戦してきます。

今年のチームは3年生に試合メンバーが多く、
来年も活躍が期待されますが、過去の歴史を見ると、
下級生から活躍した選手が、最終学年で負けているケースはとても多い。

なので、絶対に気を抜かないように。
関学の2023年はQB鎌田くんの心の成長にかかっています。
能力は非凡です。過去の関学のQBの中でも最高でしょう。

しかし、もっとも大切なのは心です。

甲子園では1年生の星野くんが先発しましたが、
なかなかタッチダウンが取れませんでした。

後半、その流れを変えたのは鎌田くんでした。
彼のパスがゲームチェンジを起こし、
そこからランも機能するようになった。

大きな自信になったことだと思います。

しかし、やり残したことがありますね。
それはタッチダウンパスがなかったことです。
来季の鎌田くんの成長に心から期待します。

関学ファイターズの歴史の中でも誰もなし得ていない
6連覇を達成するQBとして、すべてを出し尽くして欲しいと思います。

最後に、学生フットボール界の西高東低はつづいています。
関東の連盟が努力していることは理解しています。
Top8の制度によって接戦が多くなり、
状況は変わりつつあるのかも知れません。

しかし、やはり「根っこ」の部分が変わらないと、
関東のフットボールが関西に勝つことは難しいと感じています。

とても小さなことですが、たくさんの試合が開催される
アミノバイタルフィールドについて提案します。

あの会場では、選手やスタッフと観客が、同じトイレを使っています。

私はやはり、試合に関わる人間と観客が接するのは
よくないことだと思っています。特にハーフタイムなどでは。
選手が試合に本気で集中できるようにするために、
お客さんと試合に出場する人のエリアをしっかりわけるべきと思います。

小さなことのようですが、文化をつくるとは、
そういうものの積み重ねです。

限られたリソースの中で試合を運営することは難しいのでしょうが、
検討していただけたらと思います。

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