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転職市場の規模を推計してみる

私は人材業界にて事業戦略や事業企画に従事しています。
自社の転職領域における戦略を考える際に、転職市場の規模を知りたいと想ったため、公表されている調査を元に調べてみました。

参考にしたのは総務省の労働力調査とリクルートワークス研究所のJPSEDのレポートです。

https://www.works-i.com/research/works-report/item/tenshoku.pdf

転職希望者は何人存在しているのか?

転職市場におけるターゲットを「転職に興味がある人」と捉えると転職希望者が1番近いと言える。そこで転職希望者が何人存在しているかを調べていく。

総務省「労働力調査」

まずはレポート内の図表1-1をご覧いただきたい。
これは総務省が実施している「労働力調査」の
・転職希望者
・転職者
の推移をグラフにしたものである。
2022年時点で転職希望者は968万人、転職者は303万人である。
単純計算であるが、この統計の数字を用いると転職者を転職希望者で割ると31.3%となる。
労働力調査のみの情報を使うと転職希望者は968万人ということになる。

https://www.works-i.com/research/works-report/item/tenshoku.pdfより抜粋

リクルートワークス研究所「なぜ転職したいのに、転職しないのか」

続いて、リクルートワークス研究所の「なぜ転職したいのに、転職しないのか」のレポートを見ていく。
レポート内の
図表1-2と図表1-3をご覧いただきたい。
図表1-2の青い線グラフは転職希望者のうち、翌年までに転職をしている人の割合を示している。この数字が約13%であるため「転職希望者の87%は1 年後も未転職」というテーマに繋がっていく。
ただこの数字は先ほどの労働力調査の数字とは異なる。

https://www.works-i.com/research/works-report/item/tenshoku.pdfより抜粋

つまり、転職希望者のうち転職した人の割合は
・労働力調査では31.3%
・リクルートワークス研究所のレポートでは13%
と大きな開きがあることが分かる。
なぜこのような違いが出てしまうのだろうか?

転職希望者の定義の違い

考えられる理由としては定義の違いである。
そこで各調査における転職希望者の定義を調べてみる。

労働力調査における転職希望者

労働力調査の調査票は
・基礎調査票
・特定調査票
の2種類があり、転職に関する調査は後者の「特定調査票」で行われる

特定調査票のうち転職希望者の集計に利用される項目は下記である。

https://www.stat.go.jp/data/roudou/pdf/sq2018.pdfより抜粋

リクルートワークス研究所の調査における転職希望者

一方でリクルートワークス研究所の調査はJPSEDのより集計をしている。
JPSEDの調査票で転職希望者の集計に利用される項目は下記である。

https://www.works-i.com/research/works-report/item/jpsed_tyousahyou2022.pdfより抜粋

この二つの調査票を見比べてみると、なぜ数字が異なるかの違いが見えてくる。
労働力調査では単に「転職を希望していますか?」という問いに対し、リクルートワークス研究所では「いずれ転職や就職をしたいと思っている」というように将来の転職希望について明示的に含まれている。
リクルートワークス研究所におけるQ106の結果が下記右の図表1-3である。

https://www.works-i.com/research/works-report/item/tenshoku.pdfより抜粋

よって、リクルートワークス研究所では将来の転職希望が明示的に含まれるのに対し、労働力調査では聞き方として現時点の転職希望のみを調査するニュアンスとなっている。これによって分母となる「転職希望者」が異なるため、転職希望者のうち転職した人の割合に大きな開きができるのであろう。

両調査を用いた転職希望者数の推計

それでは、両調査を用いて転職希望者の実態について推計をしてみる。
仮定として下記をおく。
・現在の就業者は労働力調査より6722万人とする
・現在の転職希望者は労働力調査より968万人とする
・実際に転職した人は労働力調査より303万人とする
・将来の転職希望者は現在の転職希望者の1.16倍存在する(リクルートワークス研究所の図表1-3より算出)
・転職活動者は現在の転職希望者の34%であり、うち37%が転職をしている(リクルートワークス研究所の図表1-2と1-3より算出)
・将来まで含めた転職希望者のうち実際に転職した人は13%である

以上の過程を置くことで、日本の労働市場における転職関連者の実態は下記となる。
①将来まで含めた転職希望者は2185万人(就業者の32%)
②現在の転職希望者は968万人
③②のうち実際に転職活動をした人は330万人
④①のうち転職をした人は284万人
⑤③のうち転職をした人122万人は
④将来まで含めた転職希望者以外で転職をした人は19万人

転職サービスを提供する企業として、ターゲットに据えるべきは①の2185万人ということになる。

転職ビジネスにおいて考えるべきこと

転職ビジネスに従事する上で、対象とすべきターゲットは下記に分類される
①転職希望層(将来転職したいと思っている)
②潜在転職活動層(現在転職したいと思っているが、活動していない人)
③顕在転職活動層(現在転職したいと思っており、活動している人)

無理に転職をすることを強いるのは違うと思うが、転職したいと考えている方が転職できるような社会にするのは必要だと思う。
ターゲットに応じて講じるべき対策をまとめる。

転職希望層

彼らは今すぐに転職はする必要はないが、いずれはしたいと考える層である。
この層が自発的に求人を探しに来ることは考えにくいため、方法としては
・スカウト形式で厳選された求人を提供する
・自身に似たような人で転職をして良かったという事例を提供する
といったことが考えられる

潜在転職活動層

今転職したいと考えているが、実際に活動していない層である。
活動しない理由としては、自身では転職したいと思える求人を見つけられない、または転職活動は時間がかかりそうで面倒といったことが挙げられる。
彼らに対しては
・カジュアル面談やリファラルなどフランクに始められるサービスを提供する
・一度、キャリアコンサルタントのカウンセリングを受けてもらう
などを通じて転職活動に対するハードルを下げ理解を深めることが重要だろう

顕在転職活動層

すでに転職活動をされている層なので、転職サービスを利用している層ということになる。
この層に対しては自社のサービスを通じて転職が上手くいくような支援をすることが重要であり、人材紹介サービスを提供する会社が日頃の業務で行なっていることと考える。

結び

今回は、転職市場のターゲットの規模感を推計した。
実際に転職活動をしたいと思っている方は968万人だが、いずれ転職したいそうまで含めると2,185万人まで拡大する。
労働力調査において、転職希望者は増加傾向であるが転職者は横ばいが続いていることも事実であるので、拡大する2,185万人が実際に転職活動を行い、転職者を増やしていくために何ができるかを考えることが重要だろう。

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