見出し画像

シャイな彼が、電話ためらってるって!【物語・先の一打(せんのひとうち)】46

電話を切った高橋は、すぐ横で自分の料理を見ている奈々瀬をふりかえった。

「四郎が、メールを送っちゃったのが失敗じゃないかって悩んでるみたいだよ。……どうしてあげようか」

奈々瀬はあいまいにうなずいた。まだ少ししゃべりづらい口で、高橋に告げた。「私もどう返事していいのかわからなくって、返せない」

「どう返事したらいいかわからなくって返事ができない、って書いてあげたら?四郎が投げかけてくること自体が、すでに高いハードルを越えてきて、自分の中で、へとへとになってるはずだから」

奈々瀬は再びあいまいにうなずいて、メールの返事を打ち始めて、文を送ろうとして、そっけないと感じさせてしまったらどうしよう、と逡巡した。たった19文字を前に手を止めてしまった奈々瀬は、着信音にぴくりと動いた。

四郎だった。
ーーあの、

(「あの」で黙らないで)奈々瀬はぎゅっと目をつむった。(こっちが困るの)

高橋なら、奈々瀬が何も考えずに口を開いても、「なあに」と受け止めながら、話の意味するところを聞いてくれる。でも四郎とは、互いに気まずくなって、四郎がよけいにしどろもどろになっていく。または、四郎が失敗感をつのらせていく。

高橋は、まな板に載せていた油揚げを指でつまんで、奈々瀬の近くで”ほれほれ”というように振った。奈々瀬は急に油揚げが視界に飛び込んできて、ふるふる振られていることに、くすりと笑った。笑った拍子に、呪縛がとけたように言葉がでてきた。

「なあに。四郎。なあに。あのね、どう返事していいかわからなくて、お返事がかけないの。花はうれしいの。でも、花じゃなくてもいいの。四郎がまっすぐ帰ってきてくれて、何か話してくれるだけでいいの。ほしいもの、いっぱいあるの。でも何もほしくないって思っちゃうぐらい、自分でもよくわからなくなってるの。四郎もそう?」

油揚げをひっこめた高橋は、ただ、斜め上から奈々瀬を見て、笑っていた。

「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!