昇進、昇格が違法になる場合について

昇進・昇格させたことが、違法になる、ということは通常考えられませんが、「昇進・昇格させないことが違法である」と争われるケースはあり得ます。
もっとも、昇級・昇格の決定についての人事評価は、使用者の総合的裁量的判断の正確を有していることから、使用者である企業に広い裁量が認められており、実際に昇級・昇格が違法になることは多くありません。
他方で、違法な差別や不利益取扱いに当たる場合は、昇級・昇格をさせないことが、違法となることがあります。
たとえば、均等待遇(労基法3条)、性差別禁止(男女雇用機会均等法6条)、通常労働者と同視されるパート差別禁止(短時間・有機雇用労働者法9条)、不当労働行為禁止(当粗放7条)などが挙げられます。
なお、仮に、昇級・昇格させなかったことが違法と判断されたとしても、実際に労働者の求める地位への昇進を強制させることは認められておらず、損害賠償で処理されることが基本です。 

たとえば、「前年度12カ月勤務した者を1号俸昇給させる」という運用をしていた大学において、育休を9カ月間取得した男性講師について、定昇が行われなかったところ、当該男性講師が、大学に対し、損害賠償を求めたという事案があります(学校法人近畿大学事件(大阪地判平31・4・24))。

裁判所は、次のように述べて、大学側に不法行為が成立すると判断しました。
「…Yの制度では、在籍年数の経過に基づき基本的に一律に昇給が実施されるものであって、いわゆる年功賃金的な考え方を原則としたもの…である。昇給基準日前の1年間のうち一部でも育休をした職員に対し、残りの期間の就労状況如何にかかわらず当該年度に係る昇給の機会を一切与えない…のは年功賃金の趣旨とは整合しない…。そして、昇給不実施による不利益は、年功賃金的な昇給制度においては将来的にも昇給の遅れとして継続し、その程度が増大する性質を有することをも併せ鑑みると、少なくとも、…一部の期間のみ育休をした職員に対し、…定期昇給させない取扱いは、育休をしたことを理由に、…不利益を与えるものであって、育介法10条の「不利益な取扱い」に該当する」

このように、裁判所は、原告の男性講師について、昇給の不実施の点について、不法行為に基づく損害賠償請求権を有すると判断しました(その他、慰謝料請求、減年調整の不実施等についても損害賠償を求めていましたが、棄却されています。)。

少し話がそれますが、育休や育児時短等による不就労について、人事評価や昇進・昇格にどのように反映するかは、難しい問題だと思います。
使用者側に、育休取得の権利行使を抑制しようという考えで、評価等においてことさら不利益に扱うのは違法になる、ということは争いないでしょう。
他方で、他の事由による不就労(私傷病による休職)との比較については、難しいです。昇給等において、私傷病により休職していたことが影響することは、ほとんど問題視されません。では、育休や育児時短等による不就労も、私傷病による休職と同様の扱いをすることは許されないのでしょうか。
元々は、育休や育児時短等による不就労を、私傷病による休職と同様の扱いをすることは、育休を狙い撃ちしたわけではなく、育休を理由とする不利益扱いには該当しないと考えられていました。
上記の事案でも、大学側は、他の休業と同じ扱いであるとして反論していましたが、判決は、あっさり私傷病休職と同じ扱いだというのは抗弁にならないとしています。

使用者側に、育休に関する権利行使を抑止しようなどといった意図がなく、休職をせずに、コンスタントに労務提供を続けている他の従業員とのバランスや公平性を考慮すれば、致し方ないという見方もできるかもしれませんが、育休等は、法定の権利行使による不就労であるということで、他の休職と同じ扱いにすることは許容されない傾向がありそうです。