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研修設計の為のチェックリスト”P-MARGE”

4月は多くの企業で新入社員研修が実施された事と思います。去年からオンラインが中心となり企画実施にご苦労も多いと思いますが、新入社員の方々は期待に胸を膨らませ、同期との交流を楽しみながら、その内容を疑うことも無く前向きに参加してるのではないでしょうか。

一方で、新入社員研修以外の研修って参加者の方はどれぐらい前向きに参加して貰えてますか?

私が研修講師で登壇する時は一定数の参加者の方が、「上司に言われたから(仕方なく)受けに来た。」「この研修を受講しないと昇格できないんです…」なんて話す方がいらっしゃいました。
残念ながらこのような姿勢では高い効果は期待できず、それなりに研修には高いコストがかかってるのにもったいなあ、なんて思っていました。

そこで今日は、少しでも前向きに研修参加してもらえるよう、参加者(大人)が効果に学びを得る為の考え方であるP-MARGEをご紹介します。

P-MARGE

私が人材開発について勉強し始めた5,6年前、中原先生の著書で初めてこのP-MARGEを知りました。

※だいぶ前に発売された書籍ですが、今でも活用できる考え方が沢山あり人材育成関係の方は必読です。まさに入門書でした。

で、このP-MARGEとはMalcom Knowles(マルカム・ノールズ)という成人教育学者が提唱したもので、成人(大人)の学びは子供学びと違い以下のような特徴があるとされています。

P : Learners are Practical.(大人の学習者は実利的である)
M : Learner needs Motivation.(大人の学習者は動機を必要とする)
A : Learners are Autonomous.(大人の学習者は自律的である)
R : Learner needs Relevancy.(大人の学習者は関連性を必要とする)
G : Learners are Goal-Oriented.(大人の学習者は目的志向性が高い)
E : Learner has life Experience. (大人の学習者には豊富な人生経験がある)

研修受講者は当然大人ですから、この大人の学び方の特徴に沿って設計できると効果が高いわけで、私もお客様の研修設計をお手伝いする時はこのフレームを頭に入れながらお話しています。

このP-MARGEがタイトルにもある通り研修企画をする上で、効果的な設計が出来てるかどうかのチェックリストにもなります。どのようにチェックしたら良いか私なりの視点を書いておきます。

①P : Learners are Practical.(大人の学習者は実利的である)

参加者の利益になる内容になっていますか?

簡単に言えば、研修で学ぶ事が「使えるな~」と思ってもらえる内容になってるかどうかです。ここはコンテンツの内容が重要になってきますので、当然ながら参加者の為になる内容になっているか事前によく確認しましょう。また、期待値を上げる為にも、内容が魅力的で具体的に何を学を得られるのか?を事前に示して自分にとってメリットがあると思って貰える事が大事です。過去の参加者からのポジティブなコメントや成功事例なども伝えると良いです。

②M : Learner needs Motivation.(大人の学習者は動機を必要とする)

参加者のモチベーションは高まっていますか?

早く参加したい!と思って貰えていればベストです。①とも連動しますが、内容が役に立ちそうという事も大事ですし、上達したいと必要性を感じて貰うことも大事です。その為には事前に上司と一緒に自分の課題を把握し、その課題に対して、研修に臨むことでその課題の改善・上達の期待を込めるコミュニケーションなんかがあると良いです。

また、難しい実務に近い事前課題を与えるのも一つの手です。難しくてどう取り組んで良いか分からないような課題を与え、参加者にこの課題を解決できるようになりたい!と意欲喚起出来るような工夫があっても良いです。
※難し過ぎると意欲を下げてしまうかもしれません。

③A : Learners are Autonomous.(大人の学習者は自律的である)

参加者が自主的に学べる設計になっていますか?

大人は実利とわかり、モチベーションが高い状態であれば主体的に学んでいきます。自ら進んで学んでいくので、一方的な講義形式では無く、ワークショップ形式で自ら気づきを得られる設計になっていることが大事です。参加も強制や必須とするよりも、複数の研修から手上げ式で学びたい内容に参加出来る仕組みが出来ると良いです。


④R : Learner needs Relevancy.(大人の学習者は関連性を必要とする)

参加者の業務に関連した内容になっていますか?

実際の業務から逆算した内容になっているか、もしくは研修で学んだ内容を実践する場はあるのか確認しましょう。アンケートによく「良い研修だと思うが実践する機会が無い」というコメントを見かけます。参加者が実践をイメージ出来ていなければ、具体的な活用の場を示してたり、用意してあげる必要もあります。選抜研修であれば人選も間違いないようにしましょう。
※先日実施したマネージャー研修に、部下を持たない方が職位が管理職クラスという理由だけ参加されていて、「楽しい研修だったけど実践する場が無いので時間の無駄に感じた」というアンケート結果が返ってきてました。

⑤G : Learners are Goal-Oriented.(大人の学習者は目的志向性が高い)

参加者は参加の目的が明確になっていますか?

冒頭でも書きましたが、意外に「何のために」参加してるかわからない方がいます。チェックインの際に参加目的を言ってもらったりするんですが、「上司言われたから」って方は大抵何人かいます。是非上司と「何の為か?」と具体的な目的を合意し参加するようにしてもらいたいです。

⑥E : Learner has life Experience. (大人の学習者には豊富な人生経験がある)

参加者の過去の経験に配慮出来ていますか?

私個人的にはこのポイントが1番難しいと感じています。社会人は既にそれなりの経験があり、特にマネージャーや次世代リーダーなどに選ばれる方は成功経験も豊富でご自身の経験に自信を持ってる方が多いです。その成功体験が時として学びの邪魔になってしまうのです。

ちょっと話がそれますが、皆さんが過去に食べた事を無いものを食べた時、どんな反応をしますか?

もちろん、美味しい、美味しくないと判断をすると思いますが、もう一つ必ず「○○みたい」って反応しませんか?

この前、初めてドラゴンフルーツを食べた時、私は「キウイみたいだな」と思いました。1回そう思うと「ドラゴンフルーツってどんな味?」って聞かれると「キウイみたいな味」と答えるようになり、そもそもドラゴンフルーツの味は思い出せなくなります。最終的には頭の中でドラゴンフルーツ=キウイに置き換わってしまいます。こんな事は私だけでしょうか(笑)?

それと同じように、例えば、現場で問題解決している優秀なエンジニアに必要で重要だからと新しいメソッドを教えたとしても、過去の経験や自身の知識と結びつけて「これって結局QC(※古くからある品質管理の考え方)と一緒ですね。」と一括りにされてしまいます。こうなるとドラゴンフルーツ=キウイと同じ思考に陥り、学びが無くなってしまいます。(ちょっと極端かもしれませんが)
実際QCと大差の無いメソッドだったのであればそれまでですが、必要で重要だからとして参加してもらうのであれば持ち帰るべき学びはあったはずです。

従って、この豊富な人生経験・成功体験がある方が学びを得る為には、過去の経験を尊重する丁寧なコミュニケーションが必要だと考えます。
例えばこんな感じで

「今日の研修全てを学んで頂く必要はありません。経験豊富な皆さんであれば、周知の事や既に実践出来てる事もあると思います。なので今日は一つでも良いので、今まで知らなかった事や出来てなかった事など気づきや学びとして持ち帰り、皆さんの経験を少しでもアップデートしてください。」

出来れば事前に上司から、または当日の研修講師に言ってもらっても良いかもしれません。

私が研修講師として登壇する際、前向きでは無い参加者がいた時には必ず、上記のような事を一言添えて研修に臨んでもらいました。すると斜に構えて参加していた方の姿勢が変わり、終わるころには「殆ど聞いたことがある内容だったけど、○○の所はすごく良かったよ、あれ使えるね。」なんて事が多々ありました。

実際、経験豊富な方への学びはこれで良いと思ってます。沢山の学びは無くとも一つインパクトのある気づきがあれば、それを元に行動変容しやすくなるはずです。

是非、経験豊富な方への研修には経験を尊重しながら、インパクトのある気づきを得る為の丁寧なコミュニケーションを心掛けてみてください。

まとめ

今日は研修企画のチェックリストとしてP-MARGEについて書かせて頂きました。100%チェックして網羅するにはハードルは高いかもしれませんが、少しでも意識して頂くと効果は上がると考えています。
改めて書いて思うことはP-MARGEに沿って設計する事も大事ですが、やっぱり上司の関与が大事だなという事(なんかいつも言ってますが(笑))。特に①②④⑤は上司とのコミュニケーションで理解し合意しておく事が理想と感じます。
後は、大人は子供と違って経験が豊富。その経験を尊重した学びの場に出来る事が大切かなと思いました。

少しでも参考になれば幸いです。

研修設計のチェックリスト
□参加者の利益になる内容になっていますか?
□参加者のモチベーションは高まっていますか?
□参加者が自主的に学ぶ設計になっていますか?
□参加者の業務に関連した内容になっていますか?
□参加者は参加の目的が明確になっていますか?
□参加者の過去の経験に配慮出来ていますか?






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