見出し画像

3.9.バジリスク: 利用

3.9. 利用


 ニワトリと混同されていた時代には、バジリスクはもっぱら、その羽を装飾品に利用されてきた。しかしバジリスクの羽は鱗が発達したものであり、ニワトリの羽と同じように利用することはできなかったため、飼育されることは少なかった。バジリスクの羽毛鱗は乾燥すれば変形し、柔軟性に欠けるため、日常で用いる衣類や寝具などには向かない。しかし日光による損傷は少ないことから、例えば屋外で使用する旗の装飾としては、丈夫で長持ちすると人気があった。


 稀に、バジリスクの羽毛鱗を布に加工することもあった。中国では鶴の羽毛で作った鶴氅(かくしょう)という布があり、これは諸葛孔明が着ていた白衣としても知られる。バジリスクの羽毛鱗で作成した場合、鶴のそれよりも若干薄めで、サラサラとした肌触りとなる。水を弾き、保温にも優れる。しかし羽毛鱗を細く裂き、布に織り込むのは容易なことではなく、バジリスク鶴氅は美しさでも丈夫さでも手間の割に合わないため、特別に要望がない限り、織られる機会は少なかった。


 日本では江戸時代の初め頃から、その気性の粗さと強靭さを見込まれ、バジリスクは(ニワトリと偽られて)闘鶏に使われるようになる。京都で鶏合わせのための軍鶏を育てていた藤兵衛という男の記録では、バジリスクはニワトリに比べてそれほど強靭というわけではないが、持久戦においては優位だったと記している。しかし、毒による不審死が相次ぐと、賭博場でも厳重に闘鶏を調べるようになった。藤兵衛は依頼を受けてバジリスクを研究し、毒が非常に弱く、しかも即効性のある品種を作り出したが、累代に問題があったと見えて、今日ではその種は残っていない。そこで藤兵衛は品種を作ることを諦め、個体を無毒化させる方法を探索し、技術を確立するように努めた。藤兵衛のおかげでバジリスクは毒を心配することなく飼育できるようになり、観賞用としても好まれるようになったといわれている。現代でも、この無毒化技術は当時のノウハウを軸としており、幻想動物が認知された後は世界中で利用されている。


 食用としての利用は古代から存在し、「ニワトリ」として利用価値がないと判断されると、これをつぶして肉とした。遺伝子的にはヘビだが、全体的な骨格はニワトリと似ており、肋骨と喉、足に枝分かれした軟骨が存在するのが特徴である。肉は固めだがささみのようにほぐれやすく、赤みがある。味は濃く、地鶏に似る。脂肪はほとんどない。軟骨が多い部分はゴムのような弾力があるため、ハモのように軟骨ごと骨きりをするか、圧力釜で調理すると良い。バジリスクは可食部分が極めて少ないため、食用には向いていないと言われる。しかし一般の鶏肉と異なる食味・触感を好む者も多い。なお、ニワトリと同じく寄生虫や食中毒などの問題から、生食は推奨されない。


 漢方的には滋養強壮、精力増進の目的で食される。また、バジリスクが多産であることから、不妊治療目的でその玉子を食べると良いと言われている。しかしながら、これらの効果について、科学的な根拠はない。


 バジリスクは繁殖期以外でも年間を通して玉子を産み続けるが、生殖器官の状態を整えるための生理現象からくるもので、全て無精卵である。排泄卵である場合、一度に一個しか排卵しない。バジリスクの玉子は鶏卵よりも長めで、生みたての卵は殻に弾力がある (25)が、時間が経つと硬化する。卵黄の比率が大きく、濃いオレンジ色をしている。卵白は粘り気があり、水分が少ない。味は鶏卵と変わらないが、それよりも濃く、甘みが強いと言われている。


 また、バジリスクを食用にする場合、毒腺には注意が必要である。バジリスクの毒は蛇毒と同じと考えて良く、基本的にたんぱく質なので、口内・消化器官にケガがなければ、理論上は消化されて無毒化する。しかし念のため、毒腺を除去したうえで、たんぱく質が凝固する温度まで加熱することが推奨される (26)。


 以上で述べたバジリスクの利用法は特に一般的という程ではなく、手間をかけて一部の者達が楽しむ、娯楽的な意味合いが強いものであった。現代においてバジリスクに期待される最大の有効利用法は、ヘビ毒への血清材料となることである。


 科学が発展した現在でも、未だに抗蛇毒血清が手に入りにくく、毎年多くの人々が命を落としているのは、蛇毒が複数の種類のたんぱく質からなり、種類によって成分・その構成が異なるため、治療にはそのヘビ専用の血清が必要だからである。つまり理論上、治療に当たるには被害者が約600種類からなる毒蛇のどれであったのかを正確に記憶しておく必要があり、病院側は全ての血清を用意しておかねばならない。また、従来の血清作成方法は非常にコストがかかり、さらにこれを病院が備蓄しておくなど、経済的な負担も相当かかるのである。2016年まではアフリカで複数種のクサリヘビ・コブラ毒に有効な血清が使用されていたこともあったが、製造元の製薬会社が生産を止めたため、現存していない。


 タイのチュラポーン研究所で同2016年、従来のものよりも安価で、18種の蛇毒に効果がある血清を作る方法を発見しており、毒蛇被害の多いアジアとアフリカのコブラ科のヘビの治療がかなり楽になるだろうと予想されている。バジリスクの毒にはいくつかの未知のものを含む複数の神経毒含まれるが、同様の手法で血清を生成したところ、コブラ科、ウミヘビ科、クサリヘビ科の多くの毒に効果があった。またそれ以外のヘビ毒へも進行を抑える等使用する利点は十分に見いだせるとして、成分分析・使用量・他の血清との効果比較など、様々な面から研究し、一刻も早い万能抗毒血清の実現が目指されている。


25)生んでから十五分以内の玉子を食す調理法もある。特殊な洗浄機械で殺菌した後、揚げるなどして殻ごと食べるのである。ソフトシェルエッグと呼ばれ、現代的な高級調理法の一つに数えられる。
26)バジリスクを含め、幻想動物を調理するのに資格制を導入すべきという提案は早くからなされていたが、現在(2018年)では審議段階である。


読んでくださってありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。